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第九章【セントラル】
9-4 面白くねぇ!
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ビーグゥたちの企みから時間は経ち…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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―――草木も眠る丑三つ時。
すっかり眠っていた魔剣士たちだったが、ほんのわずかな"殺気"を感じ、静かに寝息をたてる白姫の両隣で猛竜騎士と魔剣士は身体を起こした。
猛竜騎士はカーテンをそっと開き、月明かりで魔剣士とアイコンタクトを取ると、白姫が目覚めないように静かに動いて互いに近づき、小声で会話を行う。
魔剣士「……敵か?」
猛竜騎士「かなり弱いが、二つほど悪意の気配か」
魔剣士「あと数分…ってところか」
猛竜騎士「セントラルの前に、白姫に少しでも休ませて起きたいだろう?」
魔剣士「そりゃ騒ぎになるのは簡便だけどよ」
猛竜騎士「お前はここにいろ。俺が一人で外で迎え撃つ」
魔剣士「冗談言うな。だったらここで二人で迎え撃つっつーの」
猛竜騎士「しかしそれでは、白姫が起きてしまうぞ?」
魔剣士「ちっと卑怯だが、これで起きないとは思うぜ」
猛竜騎士「何だ?」
魔剣士は眠る白姫に近づくと、額に掌を、ほんのりとした黄金の魔力を展開させながら触れる。
フワリとした優しい感覚は、白姫の眠りをより深いものとしていった。
魔剣士「眠気を誘うっつーか、深く眠らせるのをイメージした魔力を与えてみたんだが……、これで騒いでも大丈夫だろ」
普通の大きさでしゃべり出すが、白姫は目を覚ます気配はない。
猛竜騎士「……面白い技を」
魔剣士「うへへ、これで何をしても起きないぜ……」
猛竜騎士「…」
魔剣士「……お、おい!悪ノリだろうが!そんな目で見んじゃねぇ!」
猛竜騎士「馬鹿は変わらずか」
魔剣士「う、うっせー!もう敵の目の前にいるだろ、さっさと構えたらいいじゃねえか!」
猛竜騎士「やれやれだ」
目の前に迫る殺気、気配、悪意。
魔剣士たちは扉を開いた瞬間の奇襲を狙い、両脇に構えた。
魔剣士「…」
猛竜騎士「…」
やがて、足音が聞こえ始め、放たれている気配とともに部屋の前で止まる。
魔剣士(来るか……)
乗船していた船内はまだ、鍵に魔法対策がされていなかったこともあって、敵の魔法か薄らとした魔力と共に鍵がガチャガチャと回り始めた。
魔剣士(来る…)
猛竜騎士(さて…)
二人は息を呑む。どんな相手だろうと心配はしていないが、とにかく白姫に影響があることは避けたい。
魔剣士は鍵が回りきった瞬間に飛び出さんと、身体を前のめりにする。
魔剣士(…)
……が、その緊張は予想外な形で解かれることになった。
次の瞬間、何故か扉の前で
「おま、何をす……!」
「ぐあっ!」
二つの叫び声が聞こえ、ドサドサと倒れる物音が聞こえたのだ。
魔剣士「…は?」
猛竜騎士「何だ…?」
想定外な事態に二人は即座に飛び出し、鍵を回してドアを開く。
するとそこには、昼間に脅しをかけた筋肉男とのビーグゥと俊敏男のチービィが倒れ、その横には何故か「やれやれ」と呟き立つ"ブリレイ"の姿があった。
魔剣士「…ぶ」
猛竜騎士「ブリレイ…!」
ブリレイ「さすがお二方、既に気配を察して起きていらっしゃったのですね。こんな夜中に失礼いたしました」
深々と頭を下げるブリレイだが、問題はそこではない。
一方、筋肉と俊敏は、どこか打たれたのか痛みに悶えながら、
「シュトライト、てめぇぇ!」
強く叫びながら、ブリレイを睨みつけた。
猛竜騎士(シュトライト……?)
"ピクリ"と反応を見せる猛竜騎士。また、魔剣士も続いてブリレイに質問を投げつける。
魔剣士「……ブリレイ、ちょーっと色々聞きたいことがあるんだが」
ブリレイ「ハハ…、やっぱりそうなりますよね」
魔剣士「殺気や気配があったのは分かるけどよ、明らかにコイツらだし…それは良い。ただ、何でアンタが一緒にいるんだ?」
ブリレイ「話をすると少し長くなりますが……」
魔剣士「いや、長いのはいらないわ。簡単に説明してくれ」
ブリレイ「そ、そうですか…いやしかし……」
魔剣士「長いの面倒だし」
ブリレイ「そ、それでは短めに……」
彼は"ごほん"と咳払いすると、短めに言葉を発した。
ブリレイ「僕は元バウンティハンターです。貴方たちを倒そうとこの二人から話を持ち掛けられましたが、裏切りました。以上です」
本当に、短い言葉だけで。
魔剣士「オイッ!?」
あまりの短さに、魔剣士はブリレイの胸に手の裏で"ポン!"と突っ込む。
ブリレイ「はい?」
魔剣士「本当に短すぎだろ!?」
ブリレイ「そ、そうでしょうか?」
魔剣士「元バウンティハンター!?どういうことだ!?」
ブリレイ「どういうこと…、というか、そういうことになりますね」
魔剣士「い、いやいや……。つか、テメェまさか俺らを狙うとかそういうことじゃねぇだろうな!?」
ブリレイ「そんなことは、僕はあくまで元ハンターで、今は魔法研究者であってセージ様の……」
言い争い気味に声を上げる魔剣士。部屋の外、廊下に響く声でしゃべり続けたせいか辺りが騒がしくなり始める。
騒ぎになっても困るため、猛竜騎士は「一度、部屋で話し合おう」と部屋へと招き入れたのだった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――5分後。
ビーグゥとチービィは魔剣士の一撃で気絶させられて床で寝たまま、ブリレイと猛竜騎士、魔剣士はそれぞれ机を囲んだ。
魔剣士「……で、ブリレイ。お前のことについてだがー…」
猛竜騎士「いやその前に俺が話す……」
魔剣士「っと……」
魔剣士を遮り、猛竜騎士はブリレイへと会話をぶつけた。
猛竜騎士「お前はシュトライト…、そう呼ばれていたな」
ブリレイ「……昔の話ですので。その名前を出されるのは、少々」
猛竜騎士「呼称はシュトレイ、だったか?」
ブリレイ「うっ…!」
魔剣士「何…!」
"シュトレイ"の名に、反応する。
ブリレイ「さすがに…元ハンターにして冒険者の貴方はご存知でしたか……」
猛竜騎士「冒険者の生業として片手間とはいえ、お前の噂は聞いたことがある。いや、あの当時シュトライトといえば相当な名を馳せた男だったな」
ブリレイ「今はセージ様の側近として働かせていただいておりますので……」
猛竜騎士「どうして賞金首狩りを止めていた。お前ほどの実力があれば、縛られた生活に近いことをせずとも……そもそも、こんな生活は性に合っていないんじゃないのか」
ブリレイ「僕を疑っているんですね」
猛竜騎士「疑っているのかもしれない、ということにしてくれ。セージが信じているお前を、信じないわけにはいかないからな」
ブリレイ「なるほど…ですね」
言葉は曖昧にしていたが、彼がハンターとして裏切らない理由はない。
そこに倒れているビーグゥたちを倒したのも、彼は既に自分たちが起きていることを知っていたから行動を起こしたかもしれないのだ。
ブリレイ「そう疑っていらっしゃるかもしれませんが、猛竜騎士さんなら僕がどうして魔法研究連に勤めていたのかお分かりになるはずです」
猛竜騎士「何だと?」
ブリレイ「僕の得意とする戦いは…」
猛竜騎士「……魔法か」
ビーグゥの言っていた通り、当時のハンターではかなり有名な男で、その技量もよく知られていた。
ブリレイ「だから僕は、魔法研究家として未来の為に尽くせるよう…北方大地を訪れたというわけです」
猛竜騎士「なるほどな…。それに反論する内容は無いよ」
合点がいく話。彼もスラスラとそれをしゃべることに、何ら違和感はなかった。
猛竜騎士「……分かった、変な話をしてすまなかった」
ブリレイ「もう良いのですか?」
猛竜騎士「あまりこういった話は好きじゃないんだ。せっかくの出会えた仲間に、疑うような存在をしてすまなかった」
ブリレイ「いえ…気になさらないでください。僕もあまり昔の話はしたくないのですが、話が出来ることなら全て……」
猛竜騎士「その心意気だけで十分だ。ありがとう」
ブリレイ「ありがとうございます。セージ様にもそうやって認めて頂き、大変嬉しかったです」
猛竜騎士「セージが…か」
ブリレイ「こんな生活をいつまでも出来るわけがない。だから今後のことを考えて職に就かせていただいたうえ、この地位を下さり、信じていただいたのは大変嬉しく思っています」
猛竜騎士「……そうか」
猛竜騎士は話をただ頷き、流す。何気ない反応、ブリレイは気づいていないように見えたが、魔剣士はハッキリと"その異変"に気づいていた。
ブリレイ「それでは、これで失礼しようと思うのですが、この二人は如何なさいますか?」
床に倒れる筋肉と俊敏を指差し、困った表情を見せる。
猛竜騎士「魔剣士の打ち込みは相当だからな、しばらく目を覚ますことは無い。あとはこちらで処理をしておく」
ブリレイ「……そうですか。それでは、恐れ入りますがお任せいたします」
猛竜騎士「あぁ、任せてくれ」
ブリレイ「それでは、魔剣士さんも良い夜を。お休みなさい」
魔剣士「ん、あ…あぁ!おう……」
ブリレイはまた深々と頭を下げて、廊下へと消えていった。
二人はブリレイの気配が遠くなった後、魔剣士は静かに口を開く。
魔剣士「おい、オッサン……」
猛竜騎士「ん?」
魔剣士「あのよぉ、アイツは気づいてなかったみたいだが…話してる最中、オッサン何か疑ってたろ。アイツ、やっぱり怪しいのか?」
猛竜騎士「あー、まぁ…、怪しいというか……」
魔剣士「何だよ?」
猛竜騎士「この話は……」
実は猛竜騎士はセージから一つの話を聞いていた。
それは出発の前、氷山帝国の地下室で呼ばれた時のこと……。
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔剣士「……俺らも、ついにセントラルへ戻るのか」
白姫「私の故郷…。こんなかたちで戻るなんて思わなかった……」
魔剣士「覚悟は」
白姫「ある。大丈夫。私はどんな覚悟でも出来てるから」
魔剣士「それでこそ白姫だ。俺がどんな時でも守ってやるからよ!」
白姫「うんっ…!大好き、魔剣士!」
魔剣士「おっ…、おうっ!!」
四人がそれぞれの意志を固め、魔剣士と白姫が二人の世界に夢中になっていた時。
セージ「……ちょっと、猛竜騎士。良い?」
猛竜騎士「ん……?」
セージは、猛竜騎士を呼び、決心に燃える魔剣士たちの横で、セージは猛竜騎士を呼んであることを耳打ちする。
この話は非常に重要だったのだが、彼女はある考えのもと、猛竜騎士にだけ伝えていた。
猛竜騎士「何だ?」
セージ「あの子たちはそういう場面で顔に出やすいから言わないけど、ちょっと覚えていてほしいことがあるの」
魔剣士たちに聞こえないように、小声で話す。
セージ「その、あまり言いたくはないんだけど…。もしかしたら、裏切り者がいるかもしれないってこと……」
猛竜騎士「何…!?なんだそれは……!」
セージ「しっ、声が大きい!」
猛竜騎士の唇に、人差し指をあてて"しっ"と口を封じる。
猛竜騎士「す、すまん」
セージ「出来るだけ小さい声で。裏切りは認めたくないけど、もしかしたらって話で…。それと騎士団の存在、対魔結界の存在とかも話をしておきたくて……」
猛竜騎士「騎士団?対魔結界?なんだそれは……」
セージ「とにかく簡単に、まずは裏切りの可能性があることから……」
猛竜騎士「分かった。裏切りってことはまさか、こちらの情報が筒抜けだというのか?」
セージ「念の為にその男には最低限の情報しか伝えていないから大丈夫だとは思う。私も側近のようにして置いてるから、その男も油断してるはず」
猛竜騎士「どうしてそんな人間を……」
セージ「元々私が実力的に認めた人で、今までも働いてもらっていたし、重要な立場に置かざるを得なかったの。それに、そんな立場にしないと本当に裏切りそうで……」
猛竜騎士「そんな奴がいるのか…」
セージ「迂闊だった…。当時の採用基準は実力があれば入れたし、今の今まで名前や姿恰好を変えてたから気づかなくて……」
猛竜騎士「名前や姿を?そいつの名前は?」
セージ「うん、名前は……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
猛竜騎士「ブリレイ、か……」
小さく吐いた息、同時に名前を呟いた。
魔剣士「……やっぱりオッサン、何か知ってるのか」
猛竜騎士「少しだけな。裏切り…その可能性があるかもしれないと…。それに、騎士団の話や王城についての情報はある程度は聞いていた」
魔剣士「ちっ、俺や白姫だけが知らないことか……」
猛竜騎士「そう言うな。お前は直線的、直感的過ぎるんだ。もちろんそれは良さだと思ってるが、それを知ってアイツと対峙したら、顔に出すだろう?」
魔剣士「馬鹿っていいたいのか、オイ」
猛竜騎士「そんなつもりじゃないのは分かるだろう」
魔剣士「クソジジイが……」
猛竜騎士「おいおい…。それより、ブリレイは未だ怪しいという話で、裏切りが決まったわけじゃない。現に、この行動もあるからな」
床に寝転がるビーグゥとチービィに顔を近づける。
魔剣士「まぁ確かに……、だけど俺らを裏切らないとは限らないだろ。相手も手練れみたいだし」
猛竜騎士「俺らが起きていることが分かっていて、この二人を倒して裏切ったように見せかけた…という可能性もゼロじゃないがな」
魔剣士「そうは言ってもよ…。そうじゃないことを願うしかねーだろうが、そう言われるとあの男はヤベー気がしてくるぞ」
猛竜騎士「あとは頃合いを見て決めるさ。……で、今の問題はコイツらの処分なんだが」
魔剣士「おぉ、どうすんのよ」
すっかり気絶するビーグゥとチービィ。
それを見ながら魔剣士は「そろそろ気絶させすぎて頭がパーになってんじゃねえの」と頭をゴツゴツと蹴る。
猛竜騎士「パーになってたほうが嬉しいんだが、まさか口封じに海に沈めるわけにもいかないしな」
魔剣士「オッサンがやるなら俺は反対しないぜ」
猛竜騎士「……あのな。それで今のところ、お前が知る限りではこの二人組にしか俺らのことはバレていないんだな?」
魔剣士「コイツらが言いふらしてなければな」
再びゴンゴンとビーグゥの頭を揺れ動かす。
猛竜騎士「そうか、なら少々乱暴だが……」
魔剣士「やっぱり海に沈めるのか」
猛竜騎士「んなわけあるか。海には沈めないが、このステージから少々退場してもらうことにはなるな」
魔剣士「どうすんだ?」
猛竜騎士「なぁに、考えれば簡単なことだ。スマートに行こうぜ、ってな」
魔剣士「……あ?」
…………
……
…
―――それから。
猛竜騎士と魔剣士は、ビーグゥとチービィに"あること"を行った後に部屋へと戻り一旦就寝。
次の日からは、ブリレイの様子を監視するために猛竜騎士は出来る限り彼と雑談等で行動を共にした。
やがて、船は高く汽笛を鳴らしながら中央大地セントラル領域内である「南方港」へと辿り着く―――…。
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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―――草木も眠る丑三つ時。
すっかり眠っていた魔剣士たちだったが、ほんのわずかな"殺気"を感じ、静かに寝息をたてる白姫の両隣で猛竜騎士と魔剣士は身体を起こした。
猛竜騎士はカーテンをそっと開き、月明かりで魔剣士とアイコンタクトを取ると、白姫が目覚めないように静かに動いて互いに近づき、小声で会話を行う。
魔剣士「……敵か?」
猛竜騎士「かなり弱いが、二つほど悪意の気配か」
魔剣士「あと数分…ってところか」
猛竜騎士「セントラルの前に、白姫に少しでも休ませて起きたいだろう?」
魔剣士「そりゃ騒ぎになるのは簡便だけどよ」
猛竜騎士「お前はここにいろ。俺が一人で外で迎え撃つ」
魔剣士「冗談言うな。だったらここで二人で迎え撃つっつーの」
猛竜騎士「しかしそれでは、白姫が起きてしまうぞ?」
魔剣士「ちっと卑怯だが、これで起きないとは思うぜ」
猛竜騎士「何だ?」
魔剣士は眠る白姫に近づくと、額に掌を、ほんのりとした黄金の魔力を展開させながら触れる。
フワリとした優しい感覚は、白姫の眠りをより深いものとしていった。
魔剣士「眠気を誘うっつーか、深く眠らせるのをイメージした魔力を与えてみたんだが……、これで騒いでも大丈夫だろ」
普通の大きさでしゃべり出すが、白姫は目を覚ます気配はない。
猛竜騎士「……面白い技を」
魔剣士「うへへ、これで何をしても起きないぜ……」
猛竜騎士「…」
魔剣士「……お、おい!悪ノリだろうが!そんな目で見んじゃねぇ!」
猛竜騎士「馬鹿は変わらずか」
魔剣士「う、うっせー!もう敵の目の前にいるだろ、さっさと構えたらいいじゃねえか!」
猛竜騎士「やれやれだ」
目の前に迫る殺気、気配、悪意。
魔剣士たちは扉を開いた瞬間の奇襲を狙い、両脇に構えた。
魔剣士「…」
猛竜騎士「…」
やがて、足音が聞こえ始め、放たれている気配とともに部屋の前で止まる。
魔剣士(来るか……)
乗船していた船内はまだ、鍵に魔法対策がされていなかったこともあって、敵の魔法か薄らとした魔力と共に鍵がガチャガチャと回り始めた。
魔剣士(来る…)
猛竜騎士(さて…)
二人は息を呑む。どんな相手だろうと心配はしていないが、とにかく白姫に影響があることは避けたい。
魔剣士は鍵が回りきった瞬間に飛び出さんと、身体を前のめりにする。
魔剣士(…)
……が、その緊張は予想外な形で解かれることになった。
次の瞬間、何故か扉の前で
「おま、何をす……!」
「ぐあっ!」
二つの叫び声が聞こえ、ドサドサと倒れる物音が聞こえたのだ。
魔剣士「…は?」
猛竜騎士「何だ…?」
想定外な事態に二人は即座に飛び出し、鍵を回してドアを開く。
するとそこには、昼間に脅しをかけた筋肉男とのビーグゥと俊敏男のチービィが倒れ、その横には何故か「やれやれ」と呟き立つ"ブリレイ"の姿があった。
魔剣士「…ぶ」
猛竜騎士「ブリレイ…!」
ブリレイ「さすがお二方、既に気配を察して起きていらっしゃったのですね。こんな夜中に失礼いたしました」
深々と頭を下げるブリレイだが、問題はそこではない。
一方、筋肉と俊敏は、どこか打たれたのか痛みに悶えながら、
「シュトライト、てめぇぇ!」
強く叫びながら、ブリレイを睨みつけた。
猛竜騎士(シュトライト……?)
"ピクリ"と反応を見せる猛竜騎士。また、魔剣士も続いてブリレイに質問を投げつける。
魔剣士「……ブリレイ、ちょーっと色々聞きたいことがあるんだが」
ブリレイ「ハハ…、やっぱりそうなりますよね」
魔剣士「殺気や気配があったのは分かるけどよ、明らかにコイツらだし…それは良い。ただ、何でアンタが一緒にいるんだ?」
ブリレイ「話をすると少し長くなりますが……」
魔剣士「いや、長いのはいらないわ。簡単に説明してくれ」
ブリレイ「そ、そうですか…いやしかし……」
魔剣士「長いの面倒だし」
ブリレイ「そ、それでは短めに……」
彼は"ごほん"と咳払いすると、短めに言葉を発した。
ブリレイ「僕は元バウンティハンターです。貴方たちを倒そうとこの二人から話を持ち掛けられましたが、裏切りました。以上です」
本当に、短い言葉だけで。
魔剣士「オイッ!?」
あまりの短さに、魔剣士はブリレイの胸に手の裏で"ポン!"と突っ込む。
ブリレイ「はい?」
魔剣士「本当に短すぎだろ!?」
ブリレイ「そ、そうでしょうか?」
魔剣士「元バウンティハンター!?どういうことだ!?」
ブリレイ「どういうこと…、というか、そういうことになりますね」
魔剣士「い、いやいや……。つか、テメェまさか俺らを狙うとかそういうことじゃねぇだろうな!?」
ブリレイ「そんなことは、僕はあくまで元ハンターで、今は魔法研究者であってセージ様の……」
言い争い気味に声を上げる魔剣士。部屋の外、廊下に響く声でしゃべり続けたせいか辺りが騒がしくなり始める。
騒ぎになっても困るため、猛竜騎士は「一度、部屋で話し合おう」と部屋へと招き入れたのだった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――5分後。
ビーグゥとチービィは魔剣士の一撃で気絶させられて床で寝たまま、ブリレイと猛竜騎士、魔剣士はそれぞれ机を囲んだ。
魔剣士「……で、ブリレイ。お前のことについてだがー…」
猛竜騎士「いやその前に俺が話す……」
魔剣士「っと……」
魔剣士を遮り、猛竜騎士はブリレイへと会話をぶつけた。
猛竜騎士「お前はシュトライト…、そう呼ばれていたな」
ブリレイ「……昔の話ですので。その名前を出されるのは、少々」
猛竜騎士「呼称はシュトレイ、だったか?」
ブリレイ「うっ…!」
魔剣士「何…!」
"シュトレイ"の名に、反応する。
ブリレイ「さすがに…元ハンターにして冒険者の貴方はご存知でしたか……」
猛竜騎士「冒険者の生業として片手間とはいえ、お前の噂は聞いたことがある。いや、あの当時シュトライトといえば相当な名を馳せた男だったな」
ブリレイ「今はセージ様の側近として働かせていただいておりますので……」
猛竜騎士「どうして賞金首狩りを止めていた。お前ほどの実力があれば、縛られた生活に近いことをせずとも……そもそも、こんな生活は性に合っていないんじゃないのか」
ブリレイ「僕を疑っているんですね」
猛竜騎士「疑っているのかもしれない、ということにしてくれ。セージが信じているお前を、信じないわけにはいかないからな」
ブリレイ「なるほど…ですね」
言葉は曖昧にしていたが、彼がハンターとして裏切らない理由はない。
そこに倒れているビーグゥたちを倒したのも、彼は既に自分たちが起きていることを知っていたから行動を起こしたかもしれないのだ。
ブリレイ「そう疑っていらっしゃるかもしれませんが、猛竜騎士さんなら僕がどうして魔法研究連に勤めていたのかお分かりになるはずです」
猛竜騎士「何だと?」
ブリレイ「僕の得意とする戦いは…」
猛竜騎士「……魔法か」
ビーグゥの言っていた通り、当時のハンターではかなり有名な男で、その技量もよく知られていた。
ブリレイ「だから僕は、魔法研究家として未来の為に尽くせるよう…北方大地を訪れたというわけです」
猛竜騎士「なるほどな…。それに反論する内容は無いよ」
合点がいく話。彼もスラスラとそれをしゃべることに、何ら違和感はなかった。
猛竜騎士「……分かった、変な話をしてすまなかった」
ブリレイ「もう良いのですか?」
猛竜騎士「あまりこういった話は好きじゃないんだ。せっかくの出会えた仲間に、疑うような存在をしてすまなかった」
ブリレイ「いえ…気になさらないでください。僕もあまり昔の話はしたくないのですが、話が出来ることなら全て……」
猛竜騎士「その心意気だけで十分だ。ありがとう」
ブリレイ「ありがとうございます。セージ様にもそうやって認めて頂き、大変嬉しかったです」
猛竜騎士「セージが…か」
ブリレイ「こんな生活をいつまでも出来るわけがない。だから今後のことを考えて職に就かせていただいたうえ、この地位を下さり、信じていただいたのは大変嬉しく思っています」
猛竜騎士「……そうか」
猛竜騎士は話をただ頷き、流す。何気ない反応、ブリレイは気づいていないように見えたが、魔剣士はハッキリと"その異変"に気づいていた。
ブリレイ「それでは、これで失礼しようと思うのですが、この二人は如何なさいますか?」
床に倒れる筋肉と俊敏を指差し、困った表情を見せる。
猛竜騎士「魔剣士の打ち込みは相当だからな、しばらく目を覚ますことは無い。あとはこちらで処理をしておく」
ブリレイ「……そうですか。それでは、恐れ入りますがお任せいたします」
猛竜騎士「あぁ、任せてくれ」
ブリレイ「それでは、魔剣士さんも良い夜を。お休みなさい」
魔剣士「ん、あ…あぁ!おう……」
ブリレイはまた深々と頭を下げて、廊下へと消えていった。
二人はブリレイの気配が遠くなった後、魔剣士は静かに口を開く。
魔剣士「おい、オッサン……」
猛竜騎士「ん?」
魔剣士「あのよぉ、アイツは気づいてなかったみたいだが…話してる最中、オッサン何か疑ってたろ。アイツ、やっぱり怪しいのか?」
猛竜騎士「あー、まぁ…、怪しいというか……」
魔剣士「何だよ?」
猛竜騎士「この話は……」
実は猛竜騎士はセージから一つの話を聞いていた。
それは出発の前、氷山帝国の地下室で呼ばれた時のこと……。
……
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魔剣士「……俺らも、ついにセントラルへ戻るのか」
白姫「私の故郷…。こんなかたちで戻るなんて思わなかった……」
魔剣士「覚悟は」
白姫「ある。大丈夫。私はどんな覚悟でも出来てるから」
魔剣士「それでこそ白姫だ。俺がどんな時でも守ってやるからよ!」
白姫「うんっ…!大好き、魔剣士!」
魔剣士「おっ…、おうっ!!」
四人がそれぞれの意志を固め、魔剣士と白姫が二人の世界に夢中になっていた時。
セージ「……ちょっと、猛竜騎士。良い?」
猛竜騎士「ん……?」
セージは、猛竜騎士を呼び、決心に燃える魔剣士たちの横で、セージは猛竜騎士を呼んであることを耳打ちする。
この話は非常に重要だったのだが、彼女はある考えのもと、猛竜騎士にだけ伝えていた。
猛竜騎士「何だ?」
セージ「あの子たちはそういう場面で顔に出やすいから言わないけど、ちょっと覚えていてほしいことがあるの」
魔剣士たちに聞こえないように、小声で話す。
セージ「その、あまり言いたくはないんだけど…。もしかしたら、裏切り者がいるかもしれないってこと……」
猛竜騎士「何…!?なんだそれは……!」
セージ「しっ、声が大きい!」
猛竜騎士の唇に、人差し指をあてて"しっ"と口を封じる。
猛竜騎士「す、すまん」
セージ「出来るだけ小さい声で。裏切りは認めたくないけど、もしかしたらって話で…。それと騎士団の存在、対魔結界の存在とかも話をしておきたくて……」
猛竜騎士「騎士団?対魔結界?なんだそれは……」
セージ「とにかく簡単に、まずは裏切りの可能性があることから……」
猛竜騎士「分かった。裏切りってことはまさか、こちらの情報が筒抜けだというのか?」
セージ「念の為にその男には最低限の情報しか伝えていないから大丈夫だとは思う。私も側近のようにして置いてるから、その男も油断してるはず」
猛竜騎士「どうしてそんな人間を……」
セージ「元々私が実力的に認めた人で、今までも働いてもらっていたし、重要な立場に置かざるを得なかったの。それに、そんな立場にしないと本当に裏切りそうで……」
猛竜騎士「そんな奴がいるのか…」
セージ「迂闊だった…。当時の採用基準は実力があれば入れたし、今の今まで名前や姿恰好を変えてたから気づかなくて……」
猛竜騎士「名前や姿を?そいつの名前は?」
セージ「うん、名前は……」
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……
猛竜騎士「ブリレイ、か……」
小さく吐いた息、同時に名前を呟いた。
魔剣士「……やっぱりオッサン、何か知ってるのか」
猛竜騎士「少しだけな。裏切り…その可能性があるかもしれないと…。それに、騎士団の話や王城についての情報はある程度は聞いていた」
魔剣士「ちっ、俺や白姫だけが知らないことか……」
猛竜騎士「そう言うな。お前は直線的、直感的過ぎるんだ。もちろんそれは良さだと思ってるが、それを知ってアイツと対峙したら、顔に出すだろう?」
魔剣士「馬鹿っていいたいのか、オイ」
猛竜騎士「そんなつもりじゃないのは分かるだろう」
魔剣士「クソジジイが……」
猛竜騎士「おいおい…。それより、ブリレイは未だ怪しいという話で、裏切りが決まったわけじゃない。現に、この行動もあるからな」
床に寝転がるビーグゥとチービィに顔を近づける。
魔剣士「まぁ確かに……、だけど俺らを裏切らないとは限らないだろ。相手も手練れみたいだし」
猛竜騎士「俺らが起きていることが分かっていて、この二人を倒して裏切ったように見せかけた…という可能性もゼロじゃないがな」
魔剣士「そうは言ってもよ…。そうじゃないことを願うしかねーだろうが、そう言われるとあの男はヤベー気がしてくるぞ」
猛竜騎士「あとは頃合いを見て決めるさ。……で、今の問題はコイツらの処分なんだが」
魔剣士「おぉ、どうすんのよ」
すっかり気絶するビーグゥとチービィ。
それを見ながら魔剣士は「そろそろ気絶させすぎて頭がパーになってんじゃねえの」と頭をゴツゴツと蹴る。
猛竜騎士「パーになってたほうが嬉しいんだが、まさか口封じに海に沈めるわけにもいかないしな」
魔剣士「オッサンがやるなら俺は反対しないぜ」
猛竜騎士「……あのな。それで今のところ、お前が知る限りではこの二人組にしか俺らのことはバレていないんだな?」
魔剣士「コイツらが言いふらしてなければな」
再びゴンゴンとビーグゥの頭を揺れ動かす。
猛竜騎士「そうか、なら少々乱暴だが……」
魔剣士「やっぱり海に沈めるのか」
猛竜騎士「んなわけあるか。海には沈めないが、このステージから少々退場してもらうことにはなるな」
魔剣士「どうすんだ?」
猛竜騎士「なぁに、考えれば簡単なことだ。スマートに行こうぜ、ってな」
魔剣士「……あ?」
…………
……
…
―――それから。
猛竜騎士と魔剣士は、ビーグゥとチービィに"あること"を行った後に部屋へと戻り一旦就寝。
次の日からは、ブリレイの様子を監視するために猛竜騎士は出来る限り彼と雑談等で行動を共にした。
やがて、船は高く汽笛を鳴らしながら中央大地セントラル領域内である「南方港」へと辿り着く―――…。
…………
……
…
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