【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

文字の大きさ
20 / 49

二十 イベント進行中

しおりを挟む
 週末は彼の用意した馬車に乗せてもらうと私は街にあるミーシャ商会の近くまで行ってもらった。そこで買い物をしたいというお誘いをしたのよ。勿論馬車には侍女とユリアンの侍従も乗っている。二人きりの甘い展開など無い。

 街の中心地にあるミーシャ商会は大きな建物で、それこそ不動産から輸入品まで幅広く扱うようだった。それに今はこの国の商業ギルドの元締めだとか。

 ――ここが三年後には私の家になるのね。結構、いえ、かなり大きいわ。良い感じですね。ビバ! ヒルズな日々。

 私そう思ってつい笑みが零れてしまった。店の前に馬車が止まったので降りる。

「ここで良かったのかい? じゃあ、中に入ろう」

 ユリアンがミーシャ商会の店舗部分の方へ誘ってくれたので私はそちらに向かった。入り口にドアマンらしい人が立っていてドアを開けてくれた。

 まあ、自動ドアなんて無いから。でも、銀座にあった某一流ブランド店みたいね。あれは驚いたの。時計なんか家が建つくらいのお値段なんてものがあって、思わず値札のゼロを数え直してみたことがあるのよ。

 ミーシャ商会の店の中は輸入品の高級そうな宝飾品や服飾品を置いてあった。他にも食料品なども扱うお店もあるみたい。

「これなんかどう?」

 ユリアンから勧められるものは趣味も素晴らしいがお値段も素晴らしい。ユリアンは結構センスもいいのね。顔もいいし、やっぱり生粋のお貴族様って感じ。でも、そんな高価なものは三年後に選ぶあなたの運命の人にプレゼントしてあげてくださいな。……くすん。私は自分の作ったリアル・ユリアン人形で我慢するわ。
 
 私はそんなことを胸の内で想いながら辺りをきょろきょろと見遣った。

 ――ガブちゃんはいないのかしら。あの時、もっといろいろ聞きいておけばよかったかしら。

 そうしていると店内に悲鳴のような声が響き渡った。その声と共につかつかと彼女がこちらにやって来た。

「どうして、あんたがウチにいるの!」

 ――あら、何だか懐かしく聞こえる響きと声ね。

「ちょっと」

 ぐいっと私は襟首を彼女に掴まれて、そのまま引きずられるように店舗の奥に連れ込まれた。

「あんた、何やってるのよ! こんなとこまで来ちゃって。それにまたその格好? いい加減にしなさいよね」

「ちょっと、イベントとか進行が気になってしまって」

 私はガブちゃんに謝罪をした。それに彼女は呆れたような口調で返してきた。

「あんたはどこまでフリーダムなの」

 それに私はにへらと微笑んでみせると彼女は深く溜息をついた。

「まあ、そりゃあ。確かに私はこれまでに王太子ルートとも被っていたし。でもあそこでお兄様とのファーストコンタクトになるから。そうすると私の目指す……」

「へぇ……」

 私はお兄様という単語でちょっと面白くなくなってしまったけれど、ガブちゃんの手を両手で握り締めた。

「頑張って!」

「は? な、何よ。それ? 当たり前でしょ!」

 ――だって私の理想ライフはまったり、ほっこり、のほほんなのだ。間違ってもお貴族様ライフなどは範疇にないの。お兄様に言われてもアベル王太子様などもってのほか。ゆ、ユリアンは……。くすん。

「ごほん。お嬢様、お待たせしてあるライル伯爵様のご子息殿はいかがいたしましょう」

 私達はまだ話したかったけれど店の人がおずおずとそんなことを申し出てきた。

 ――ああ、そういや忘れていた。いたわね。ユリアン……。

 でも、ガブちゃんは店の人そっちのけで私に話した。

「だいたい、これってあんたと生徒会長ユリアンが店に来て、ライバルのあんたに宝石を選んでやっているのを見て、ショックを受けた私を生徒会長が慰めてくれてアクセを貰えるというイベントの一つじゃないの!」

 ――そういやあったわ。そんなの。ややこしいけれど。お茶会の後、生徒会のメンバーと一緒に出掛けたヒロインが学園の人達に苛められて心配するユリアンは何とヒロインの様子を見にライバルの婚約者(って私の事だけど)連れでヒロインの店にくるというバカなイベント。

 ――ああ、今思っても『ゆるハー』はいろんな意味でゆるゆるだったわ。でも今、私達の様子を黙って見守る店の人は何気に良い教育されているわね。

「そうだったわね。私は何も貰わず帰ることにするから。今日はガブちゃんの様子とかお店を知りたかっただけだし」

「え、あ、そうなの。私の邪魔をしなければいいのよ」

 私の発言に彼女もやや警戒を緩めた。

 ――何たってお互い三年後のこともあるし。

 私はややスキップ気味にユリアンのもとに戻った。彼は冷え冷えとした笑みを私に向けてきた。

 ……お兄様ほどではないけど、ユリアン、あなたなんか本当に怖くなってない? それとも人は後ろ暗いことがあると余計にそう感じるのかしら。

 私は冷汗ものでユリアンに話しかけた。

「ごめんなさい。お待たせしてしまったわね」

「……いつの間にか、彼女と仲が良くなっていたようだね」

「ええ、まあ、先日のお茶会の時に」

 私はおずおずと微笑みを浮かべた。ユリアンは私の説明に納得しかねているようだった。

 ――決してあなた様に対しては後ろ暗いことなどございません! 多分……。でも、悪いけどお兄様の攻略イベントのことは知らないわ。そもそもあのゲームに王太子以外に隠しキャラがいたとは知らなかったし。

 だけどユリアンはなんたってメインの攻略対象者だから、少々イベントを落してもかなり楽にユリアンルートに入ってしまうの。『ゆるハー』のゲームはゆるゆるだからね。ユリアンの王道ルートは攻略しやすいの。取り合えずユリアンになっている。

 私はガブちゃんの邪魔をしないようにユリアンとお店を出ようと促した。

「もう、出ませんか?」

 それにここで彼に何かをもらう訳にはいかないのだ。それこそユリアンルートに入りかねない。『ゆるハー』で攻略キャラからヒロインに贈られるアクセサリーは後々まで関わってくることになる。

 その上なんと好意度にも大きく影響するの。お出かけの際にそれをつけてキャラに会うと各段に好意度が上がる。最後に身に着けていたら、その贈られた攻略者のルートはほぼ確定。ただ、ステータスだけは要注意なのだけど。王太子がそれだった。うっかり魅力を上げ損ねていると駄目なのだ。何といっても婚約者から奪い取るのだからそれなりに魅力も無いといけないらしい。

 ――悪いけど、あの、ジョーゼットから王太子様を奪い取るなんて考えられないわ。無理。お兄様に言われても無理よ。絶対。

 お店を出ようと促した私の言葉にユリアンもあっさりと同意をしてくれた。しかし――。

「あら、残念ですわ。ユリアン様。今度は是非お時間のあるときにゆっくりといらしてください。それか、仰って下さると特別にユリアン様だけにお店を開けます!」

 あ、言っちゃった、てへぺろとガブちゃんは『ゆるハー』ヒロインらしい様子で振る舞っていた。

 ――どういうことなの? それでお兄様ルートに繋がるの?

 ユリアンはまた今度にと答えると私と店を出てくれた。しかし、直ぐにユリアンは立ち止まって、私の方を向いた。

 ユリアンは幼少期は愛らしい天使だったけれど今は怜悧な美青年になっていた。そんな彼と男装の私が街中で見つめ合うと興味津々といった熱い視線を周りから感じます。

 ――あの、こんなところで見つめ合わなくても、早く馬車の中に行きませんか?

 そう思っている私に彼はポケットから何かを取り出した。どう見てもそれはアクセサリーの入っていそうな綺麗なベルベット調の箱だったのよ。

 ユリアンたら、いつの間に?

 その箱が指輪サイズでないことだけが幸いだった。

「これを……」

「え、あ」

 そう考えている隙にユリアンからそれを手渡されてしまった。周囲の視線が突き刺さるように痛い。痛すぎる。

 ――ユリアン様。どう見ても私達は男性カップルに見えちゃってますよ。それもなんだか特別な関係の二人に……。ああ! ガブちゃんもお店の窓越しに目を見開いてこっちを見てるじゃない。目が落ちるって、そんなに見開いちゃあ。

 ユリアン様はそんな周囲の空気も読まず、どうやら私がそれを開けてみることを待っている様子だった。仕方なく私はそれの蓋をぱかりと開けると小ぶりで綺麗な髪飾りが入っていた。虹色に輝く宝石をちりばめた細工のそれは上品かつ可愛いものだった。

 ――見覚え有る。これはユリアンの本命ルートのものだ。……どうして? WHY?

「ありがとうございます」

 呆然としたまま私はお礼の言葉を言うしかなかった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

処理中です...