【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

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二十一 新たな攻略対象者  

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 私がやや強張った笑みを浮かべるとユリアンも少し笑みを浮かべた。

「君に似合うものを選ぶのは苦労して……。貰ってくれるよね?」

 ――それはまあ、お母様やお兄様が装飾品がお好きですし、趣味も良いからどうしても私も目が肥えるのは仕方ないのよ。でも、こんな往来で無下に突き返すわけにもいかないじゃないっ。誰が見ているか分からないもの。

 仕方なく私はユリアンからの髪飾りを受け取って馬車に乗り込もうとするとユリアンの名を呼ぶ声に私達は動きを止めた。

「ユリアン様!」

「クリス?」

 ユリアンが口にしたその名で私はそれがレイン子爵の子息であることが分かった。

 ――こんなに攻略対象者が出てくると言うことは、今日はイベントの日だったのかもしれない。そう、街イベント。ここは街の広場だし。何気にミーシャ商会は良い場所にあるわね。

 『ゆるハー』では、週末どの男性と過ごすかでその好意度が変わっていく。それは乙女ゲームによくあること。ただ、これは平日にフラグを立てておく必要があるのよね。その上、ライバルキャラだってデートをするみたいでライバルキャラが過ごした相手の好感度が週明けにごっそり減っているという悪夢が何度かあった。

 それからデートをする先は街にある施設とかで、公園で散歩、劇場の観劇、お店での買い物などのイベントがある。行先を一つ選ぶとその日の行動は終了するんだけど選択肢のあることが多いの。例えば洋服を買いに行くなら、対象者の好みの方を選ぶと好感度が上がるという仕組み。好感度が上がればラッキーイベントや限定スチルのイベントが起きるようになっている。たまにライバル役の令嬢の邪魔が入ることがあるけど。そう、私の出番なのね……。

 私達の側に直ぐさま駆け寄ってきたクリス様はストロベリーブロンドのふわふわの頭で線の細いとても可愛い人。クリス様の面立ちは繊細で長い睫毛に覆われていて、少し大きめのブランディー色の瞳もとても綺羅めいていた。そして、私の脳内では『ゆるハー』のクリス様のキャラクターソングが再生されていたの。このキャラソンは結構ベタなので歌うのは楽しかったわ。


  『僕の瞳に溺れて ~クリスのスイート・ドリンク~

   僕の琥珀色アイで愛してあげる♪

   愛はアイなんだ~

   スイートに溺れて (ぱちんと指を鳴らして、アップになる)

   アイは愛として、きっと僕の瞳に溺れて~

         さあ、一緒にスイートを味わおう』


 ……でもそういえば、ガブちゃんは『ゆるハー』でのクリス様は女性の筈だとか言っていたわね。

 私はそう思いながらクリス様を失礼にならない程度に観察してみた。私の記憶では確か『ゆるハー』のクリス様は可愛い美少年系だったのよね。そう、ショタ属性。『ゆるハー』の場合は髪の色はふわふわのピンクだったのよね。でも、ガブちゃんのいうようにクリス様が女性で男装しているなんて……。そう言えば私もそうか。

 そんなことを考えているとふと我に返った。――傍から見ればここにはそれなりに見栄えのいい三人の男が集っているように見える筈。

 実際、道を行く人々から興味津々な視線を感じるのは気のせいじゃないと思うの。特に何故か女性方からは熱のこもった視線を……。私以外のお二方はそんな視線に慣れているのか平然としていた。

 ――ええ、美形の方は他人からの熱い視線なんて気にしていられませんよね。

「アーシア、紹介しよう。彼はレイン子爵の息子のクリスだ。そして……」

「存じ上げておりますよ。ユリアン様のご婚約者でモードレット侯爵令嬢のアーシア様ですね? 今話題のご令嬢あらせられる。初めまして、クリス・レインと申します。どうぞお見知りおきを」

 クリス様はそういうとゆったりと微笑んだ。

 ――うわ。なんだか余裕のある微笑み。可愛いのに雰囲気はユリアンより年上に見えるわね。

 私も負けずに微笑み返すと軽く腰を落とした。これはドレスじゃないと見栄えしないけど淑女の礼なのよ。

「ええ、初めまして、クリス様。お会いできて光栄ですわ」

「ユリアン様からよくお話をお聞きしていましたから、初対面の気がいたしませんね」

 クリス様はそんなことを仰ると私をじっと見つめてきた。クリス様は女性的な容貌だけど流し目のセクシーさが半端ない気がする。

 ――あれれ? クリス様って、こんなセクシーキャラだっけ? 何か違くない?    可愛いショタ属性だった筈……。

 クリス様の背はそう高くなくて、並ぶと私より少し大きいくらい。

「……まあ、そうですの。それは嬉しく思いますわ」

 私もそう言いながらやや細めた目でクリス様を観察した。レイン子爵の息子のクリス様は貴族の男性の定番の外出用のお召し物を着込んでいた。その手には白い手袋をしていて、喉元までもきっちりとしたひらひらのシャツを身に着けていた。残念なことに今の格好では性別についてはよく分からない。なんたって今の私自身がそうだしねぇ。

 ――果たしてクリス様は男なのか女なのか?

「何か?」

 私の窺うような視線を感じたのか、クリス様は少し戸惑い気味に訊ねてきた。

 ――ええ、私はただあなたが男性なのか女性なのか知りたいだけなんです。でも、あなたを攻略する気はありません。でも『ゆるハー』に性別が不確かな設定なんてあったかしら?
 
 ……もしかして、これも周回ルート限定ってものなの? まあ、最後までこういうことは侮れません。

 私のそんな考えは露とも悟られないように二人に黙って微笑んでみた。すると二人は驚きの表情のあと顔を逸らせたのよ。どういうとこかしら?    失礼しちゃうわね。折角満面の笑みを見せたつもりなのに。

「そう言えばユリアン様は来週末の拙宅のガーデンパーティにお出ていただけるのでしょうか?」

 クリス様がそう言うとユリアン様は私の方を見遣った。その視線にクリス様は肯いた。

 ――何でしょう?

 クリス様はやや緊張気味に私に話しかけてきた。

「よろしければ、アーシア様もいらしていただけると光栄です」

 私はその申し出に驚きつつ断りを入れた。

「私は社交界にはまだ……」

「いえ、そのような堅苦しいものでなく、若い者達の気のおけない集まりですのでお気軽にご参加いただけるかと」

 それに私は戸惑った。今まで、直接誘われたことはないのでどうしたらいいのか悩んでしまった。

「アーシアのお家の方の許しがあれば……」

 私の代わりにユリアン様がお話してくれて私もそれならばと黙って肯いた。そしてクリス様とはそこでお別れして私達は寮に帰った。



 すると翌々日、一度帰るようにとの家から手紙が届いた。どうやら私のガーデンパーティへの出席の件だった。
だから、私は今週末は侯爵家に戻ることになった。学園生活にも慣れて一週間はあっと言う間に過ぎた。






 家に戻るとお父様とお兄様はお出かけとのことだった。お母様とはレイン子爵のパーティの話になった。

「――そうね。正式なデビューはこの夏にと思っているけれど、それくらいなら構わないでしょう」
 
「社交界デビュー……」

「婚約者がいても、そろそろあなたもね」

「私は婚約をしているんですか?」

 お母様の言葉に思わず私は聞き返してしまった。

「あら、破棄した覚えはないわよ」

「で、でもお兄様は、お父様も……」

「あの二人は最初から認めていないわよ」

 ――え? それって、どういう……。

「でも、国王陛下にはもう申し上げているから」

 そう言ってお母様は扇を出すとぱらりと優雅に広げて見せた。

 ――さすがにお母様は王家の血を引くお方だ。見せどころを心得ていらっしゃる。優雅でまるで往年の女優を思わせるわ。

「国王陛下にですか?」

 私はお母様の言葉に驚いて唯繰り返すだけだった。私のそんな様子に呆れたようにお母様は仰った。

「それはそうよ。高位貴族の結婚には国王陛下のご裁可は必要ですからね」

 さあさ、ガーデンパーティの用意をなさいと仰ってお母様は執事に何か指示を与えていた。



 夕食の席でお母様はお戻りになったお兄様とお父様に私の話の説明をなされた。お父様はガーデンパーティぐらいならと渋々承諾していた。

「……アーシアが行きたいと言うなら」

 お兄様はそう言うとその妖艶なアメジストの瞳を曇らせていた。

 ――うう、それに負けてなるものかっ。

「ユリアン様も是非ご一緒にと……」

 私はそう言うと視線を落としてみた。目の前には美味しそうな冷製ポタージュがおいてあった。うちのシェフの自慢料理だ。トマトのコクがこれまた絶品なのに喉に通りにくいったら……。でも、お兄様がどう言おうと我が家ではお母様の発言は絶対なのよね。我が家の指標と言ってもいい。

 気まずい沈黙の後、ルークお兄様の悩ましげな溜息が聞こえてきたが否と言う言葉は上がらなかった。

「それはそうと、ルークはアーシアの学園入りはどうするのかしら?」

 お母様の連続攻撃に私はせっかく口にした冷製ポタージュを盛大に吹き零しそうになった。

 ……お流石、宮廷の社交界を見事に渡り切っていらっしゃるお母様は間髪入れずの攻撃を繰り広げますわ。

「あの学園は名門中の名門です。現に公爵令嬢も入学をしているし、反対のしようがありません」

 ルークお兄様はそう言って言葉を切った。

 ――よっしゃあぁぁ。案外簡単に言質をとったぁ。とったどぉぁ。

 私はテーブルの下で渾身のガッツポーズをしてからお兄様の方を見上げた。

 しかし、お兄様はその超絶美貌の妖艶さで我が国どころか諸外国の社交界の女性達を魅惑の虜にしているというアメジストの瞳に悲しみを織り込んで私を見つめていたのよ――――――。

「……アーシアから私に何も相談も無かったのが、……それが、……私は兄として、とても悲しい――。私はそんな風にアーシアを育てた覚えがないのに……」

 そう悲しそうに仰るとルークお兄様はその美貌を苦悶の表情に変えていた。それに何故かお父様も横でうんうんと肯いていた。

 お母様はもう言い切ったとばかりに我関せずと優雅にポタージュを口にしていた。

 ――お兄様に育てられた覚えは――、無いと言い切れないのが悲しいっ。あれはどちらかというと黒歴史ですのよ! ムチ使いの令嬢なんて。

 私はそれを思い出して、こんな席でありながら頭を抱えそうになったが、なんとか強張った笑みを浮かべただけで我慢した。

「私も予定があって、ガーデンパーティに私は付き添いが出来そうにないけれど……」

 ――つ、ついてくる気でしたか!? ルークお兄様ぁぁ……。

 ルークお兄様はそう一度言葉を切ると私だけが知っている例の腹黒い笑みを浮かべていた。ご令嬢方がまるっと騙されたあの微笑み。

「分かっているよね。アーシア? 侯爵令嬢として、品格のある行動をするように」

 私はそれにぶんぶんと首を上下に振っていた。

 ――嗚呼、ポタージュが口の中でシェイクされて何がなんだか。



 翌日はパーティへの出席準備や学園への荷物をチェックして終わった。お兄様はお忙しいらしくて今日もお出かけされていた。
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