【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

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第二章

四十七 秋の大舞踏会は婚約破棄?

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 今年の秋の大舞踏会は少し違う。そんなことが貴族階級の間に囁かれていた。それは――ー。我が国の王太子の婚約者と目されていた令嬢の婚約破棄のことだった。つまり、ローレン公爵家のジョーゼットのこと。

 幼少期からのあまたの婚約者候補と競い合って、残ったジョーゼット。私と違ってアベル王太子様とは幼少期からの幼馴染。私は、ほら、ちょっと体が弱かったからね。え? わかままムチ打ち令嬢だったから、表にだせなかったのだろうって? ……ええ、その通りですわ! 今は違うけどね。

 『この婚約は間違っていた!』そんなあおり文句がゴシップ新聞や雑誌にデカデカと書かれていた。何故か王太子様のお姿と並べてるのよ。まるで王太子様が言ってるみたいじゃないの。やめてよね。不吉だから。私はユリアンルートなの。他のルートにはいきませんからね。それに庶民に戻りたいの。

 流石のルークお兄様も低俗な記者の取材攻勢にだんだん苛立ちを示しだした。本来のお兄様は腹黒で表情を表に表すことは少ないのだだけど。それだけ今回の事は大変なんだと思う。でも本家王室発行のものはそんなことは一文字も書かれていないけどね。



「まさか、アーシアがこんなことになるなんてねぇ」

 我が家のサロンではお母様がお茶を口に運びながら暢気な口調でお話している。私と言えば秋の大舞踏会用のドレスの試着をしている。もうドレスは出来上がっていて、最終、どれにするのかお母様とご相談中なのよ。

 ちらりと私を見遣るととんでもないことを仰った。

「いっそ、もう王太子様を狙っちゃう?」

「バ、バカなことを仰らないでください! お母様。私はユリアン様一筋で……。それに庶民に……。ぐへぇ」

 勢いついて言ったものの最後は力が出ない。だって、コルセットをぎゅっと締め上げられたのよ。カエルが潰されたような声ですって? 失礼しちゃうわ。カエルにね……。

「まあ、いろいろ浮いた噂は女の勲章よ。あなたは別に悪いことをしている訳でないし。それにそんなことをするタイプじゃないしねぇ」

 ――お母様、流石、娘のことをよく分かっていらっしゃいます。ええ、できればガブちゃんと代わって、富豪の平民になって、こたつにみかんか半裸にアイスを狙っています。この夏は暑かったのでとくにそう感じました。コルセットにドレスってどんな修行?


 するとそこへノックの音と共にルークお兄様がやってきた。

「まあ、ルーク。レディの着替え中よ」

「レディ? そんなものがこの部屋に母上以外に誰がいるというのです?」

 ルークお兄様は端正なお顔を顰めながらそう仰いました。酷いことを言われたような気がするけれど反論する余地はありません。

「……ドレスか、丁度良かった。今から王宮へ参る。お前も一緒に来い」

「はひ?」

 私の奇妙な返事に構わず、お兄様と共に王宮へ。



 流石お兄様は次代宰相候補として有望視されているせいで、さくさくと入場から奥宮まで進まれます。ノーチェック、ノータイムよ。凄いわ。

「何処にいくのでしょうか?」

 つかつかと迷いもなく進むので置いて行かれそうになる。少し息が上がりかけて、コルセットとの相乗効果で私は酸欠気味に。

 厳重に衛兵らに守られた扉の向こうは――。

「やあ、ルーク。よく来たね」

 気さくに話しかけてくる我が国王太子様でした。――ちょまっ。私の口から出そうになったけれど何とか押し留めたのは褒めて欲しいの。

「本日は、天候にも恵まれて、殿下にあられましては――」

「いいよ。堅苦しい挨拶は、今日はお互いプライベートだし」

 ルークお兄様は短い挨拶と敬礼をして、用意されたソファに私達は座った。

「さて……」

 暫しの沈黙の後、王太子様の口からお聞きしたのは……。

「我々、王室の者としてもこの度の民意を推し量っているところだ。ルーク、お前も分かってくれると思う」

「殿下、それは……。うちのアーシアではそのような重責には……」

「あの海の開港式には見事な腕前を見せてくれた。あのような活躍は人の口に戸は建てられぬというように。箝口令を敷いてもどこからか漏れるのだろう」

 ――どういうこと? ひょっとしてあのムチ使いとか猛獣使いのこと? あれはルークお兄様ということにしてある筈。

「――特別な加護のある娘。未来の王妃として相応しいと」

 王太子様は両手を組みながら重苦しい雰囲気でそう仰ったのよ。ルークお兄様も黙ってしまわれた。

「……加護というほどでは……」

 やっとぼそりと言えたけれど黙殺されてしまった。

「あの、それに私はユリアン様と婚約してるんです……」

 お母様から王家の了解は得ていると聞いた。まだそれは有効じゃないかと思う。お兄様は認めないと言っていたけど。

 ルークお兄様はぴくりと指先を動かしたけれど否定の言葉は出なかった。

「……それは破棄してもらうしかないな。お互いに」

 なんと王太子様がそう仰ったのよ。お互いにって言うことはジョーゼットと婚約なさっていたのね。

「ジョーゼットとはお友達で……。そんな私……。ジョーゼットこそ王太子妃に相応しいと思います」

 言えたわ。とても大事なことよ。私は胸を撫でおろしていた。王太子様も私の言葉に満更でもない様子だった。しかし、立ち上がって王太子様は窓際にお立ちになった。

「私もそうであれば、しかし、きみは自分の名声に気が付いていないようだね。あの海の出来事で『男装の果敢な騎士』『サーベルタイガーを制した聖なる御使い』と言って民衆の劇場で上演されていることを。どうやら開講式には有名脚本家も参加していたようだね。それで、この夏の上演は連日盛況だったようだよ。延長も決まっている程ね」

 は? そんなことは知りません。夏はジョーゼットの高原で快適にすごしましたので。ユリアン様のところは残念ながらお邪魔できませんでしたけど。

 何なの、その聖なる御使いとか厨二? そんなの冗談じゃないんですけど。

「王室も民意を無視できないのだ」

「しかし、殿下。うちのアーシアでは……。それにあれは私が――」

 ルークお兄様も必死に否定をしてくれていた。お兄様頑張ってくださいな。

 このままでは私ってジョーゼットから見たら婚約者を横取りするヒロインポジション? 冗談じゃないんですけど。
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