8 / 91
一章 新たな出会い
1‐04 確信したこと
しおりを挟む
◆◆◆
午後の授業を終え、放課後になった。
永睦と仁はホームルームが終わるとひと足先に三年生の教室がある別棟へ出向いたため、少し遅れて雅玖と共に向かっている。
「──なぁ、龍冴」
「ん?」
しばらくなんでもない話をしながら廊下を歩いていると、不意に雅玖に名を呼ばれ、龍冴はちらりと親友に視線を向けた。
「その……大丈夫、か?」
「あの二人もだけど、お前もお前で心配性だよなぁ」
常に明るい雅玖にしてはあまりに悲しそうな表情をするため、龍冴は軽く苦笑した。
「……大丈夫だよ、俺は」
自分に言い聞かせるように、今日三度目の言葉を唇に乗せる。
事実、雅玖はこちらが何でもないふうを装っていても、こうして気に掛けてくれる事が何度もあった。
それは友人としてではなく、それよりももっと深い──大切な存在として言ってくれているのだと理解している。
それがどんなにありがたく、また申し訳ないかこの男は分かっているのだろうか。
(嘘つけないんだよな、そこがいいとこなんだけど)
すると雅玖が居心地悪そうに頭を掻いた。
「あのさ、久世……幸と付き合ってすぐ、トラウマがあるって教えてくれたんだ。それと永睦が言ってた話が……どうも似てるんだよな」
だから、と雅玖はその場で立ち止まる。
同時に龍冴は踏み出そうとした体勢のまま固まった。
「──もしかして、お前の恋人『も』そうなんじゃないのか?」
その言葉に、頭から冷水を浴びせられた心地になる。
自分自身にどれほど 『違う』と言い聞かせても、第三者から指摘されるのとではまるきり意味合いが違った。
そして実際に合点がいってしまうのだ。
龍冴は震えそうになる声を叱咤して、なんとか声を出そうとする。
「な、……か、な」
なのに出てくるのは意味を成さない声ばかりで、ほとんど言葉として形成されない。
「……な、わけ……な、いだろ」
それでも痛いほど手を握り締め、なんとかそれだけを絞り出すと、ややあって背後に居る親友を振り向いた。
「馬鹿だな、雅玖は。そもそもあいつが言ってることは半分嘘だろうし。……いや、そう思いたい」
上手く笑えたか怪しいが、雅玖のなんとも言えない苦しげな表情を見るに失敗したのだと気付く。
龍冴はきゅうと唇を噛み締め、ぼそりと呟いた。
「……もし本当だったら、どうしたらいいんだろうな」
それこそ幸の二の舞に自分がなったも同然で、あの時の表情にも納得がいく。
けれど、どう足掻こうと椰一が自分を大切にしてくれたのは本当なのだ。
手を繋いでキスをして、つい先日も初めて身体を繋げた。
涙を流しながら『好き』や『愛してる』と言えば、『俺も』と返してくれた。
(あ、そうか……)
そこではたと気付く。
椰一の方から好意を伝えられたのは最初だけで、付き合ってからは龍冴の方から言わないと何も言ってくれなかったのだ。
といっても、やはり濁されるばかりで、はっきりとした好意は告白してくれた一回きりなのだが。
「は、っ……ははっ」
無意識に乾いた笑いが漏れる。
最後まで己を律しようとしたというのに、これでは駄目だ。
いつになく真剣な表情をする雅玖を見ていると、すべてをぶちまけてしまいたくなる。
そして、椰一が自分にしてきた数々の言葉や行為に気付いてしまったからか、信じようとした気持ちがバラバラに崩れていくのが分かった。
好きだった相手に冷める時はこんな感じなのか、と頭の片隅で思う。
唐突に笑い出した龍冴に、雅玖は何も言わず肩を抱き寄せてくれた。
普段ならば手を払いのけるところだが、今ばかりはその優しさに甘えたくなる。
ぽつぽつと他の生徒も廊下を通る中、いつしか龍冴は雅玖の背中に己の手を回して静かに泣いた。
午後の授業を終え、放課後になった。
永睦と仁はホームルームが終わるとひと足先に三年生の教室がある別棟へ出向いたため、少し遅れて雅玖と共に向かっている。
「──なぁ、龍冴」
「ん?」
しばらくなんでもない話をしながら廊下を歩いていると、不意に雅玖に名を呼ばれ、龍冴はちらりと親友に視線を向けた。
「その……大丈夫、か?」
「あの二人もだけど、お前もお前で心配性だよなぁ」
常に明るい雅玖にしてはあまりに悲しそうな表情をするため、龍冴は軽く苦笑した。
「……大丈夫だよ、俺は」
自分に言い聞かせるように、今日三度目の言葉を唇に乗せる。
事実、雅玖はこちらが何でもないふうを装っていても、こうして気に掛けてくれる事が何度もあった。
それは友人としてではなく、それよりももっと深い──大切な存在として言ってくれているのだと理解している。
それがどんなにありがたく、また申し訳ないかこの男は分かっているのだろうか。
(嘘つけないんだよな、そこがいいとこなんだけど)
すると雅玖が居心地悪そうに頭を掻いた。
「あのさ、久世……幸と付き合ってすぐ、トラウマがあるって教えてくれたんだ。それと永睦が言ってた話が……どうも似てるんだよな」
だから、と雅玖はその場で立ち止まる。
同時に龍冴は踏み出そうとした体勢のまま固まった。
「──もしかして、お前の恋人『も』そうなんじゃないのか?」
その言葉に、頭から冷水を浴びせられた心地になる。
自分自身にどれほど 『違う』と言い聞かせても、第三者から指摘されるのとではまるきり意味合いが違った。
そして実際に合点がいってしまうのだ。
龍冴は震えそうになる声を叱咤して、なんとか声を出そうとする。
「な、……か、な」
なのに出てくるのは意味を成さない声ばかりで、ほとんど言葉として形成されない。
「……な、わけ……な、いだろ」
それでも痛いほど手を握り締め、なんとかそれだけを絞り出すと、ややあって背後に居る親友を振り向いた。
「馬鹿だな、雅玖は。そもそもあいつが言ってることは半分嘘だろうし。……いや、そう思いたい」
上手く笑えたか怪しいが、雅玖のなんとも言えない苦しげな表情を見るに失敗したのだと気付く。
龍冴はきゅうと唇を噛み締め、ぼそりと呟いた。
「……もし本当だったら、どうしたらいいんだろうな」
それこそ幸の二の舞に自分がなったも同然で、あの時の表情にも納得がいく。
けれど、どう足掻こうと椰一が自分を大切にしてくれたのは本当なのだ。
手を繋いでキスをして、つい先日も初めて身体を繋げた。
涙を流しながら『好き』や『愛してる』と言えば、『俺も』と返してくれた。
(あ、そうか……)
そこではたと気付く。
椰一の方から好意を伝えられたのは最初だけで、付き合ってからは龍冴の方から言わないと何も言ってくれなかったのだ。
といっても、やはり濁されるばかりで、はっきりとした好意は告白してくれた一回きりなのだが。
「は、っ……ははっ」
無意識に乾いた笑いが漏れる。
最後まで己を律しようとしたというのに、これでは駄目だ。
いつになく真剣な表情をする雅玖を見ていると、すべてをぶちまけてしまいたくなる。
そして、椰一が自分にしてきた数々の言葉や行為に気付いてしまったからか、信じようとした気持ちがバラバラに崩れていくのが分かった。
好きだった相手に冷める時はこんな感じなのか、と頭の片隅で思う。
唐突に笑い出した龍冴に、雅玖は何も言わず肩を抱き寄せてくれた。
普段ならば手を払いのけるところだが、今ばかりはその優しさに甘えたくなる。
ぽつぽつと他の生徒も廊下を通る中、いつしか龍冴は雅玖の背中に己の手を回して静かに泣いた。
7
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
幼馴染が「お願い」って言うから
尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。
「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」
里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。
★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2)
☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。
☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる