【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
10 / 91
一章 新たな出会い

1‐06 勉強会

しおりを挟む
 ◆◆◆




 それから数日後、学期末のテスト期間に入った。

 これが終われば待ちに待った夏休みで、ほんの少しの期待とピリピリとした緊張感で、校内が普段とは違った空気をまとっていた。

「あーーーーー! わっっっかんねぇ! 数学なんかなんの役に立つんだ!」

 ゴン、と派手な音を立てて仁が机に突っ伏す。

「……まぁまぁ、分かんないとこあったら教えるからさ。全員で赤点回避しようぜ」

 な、とそんな仁の肩を叩き雅玖が言う。

「神様? がっくんってば神様なん?」

「いや、これ中学の基礎の応用だって。しっかり授業聞いてたら分かるよ。ほら、ここはこの公式を──」

「うへぇ……」

 雅玖が仁を教える体制に入った側ら、龍冴はその向かいに座って黙々とペンを走らせていた。

 テスト勉強をしよう、と言ったのはほかでもない仁だ。

 なんでも一人でやるより友達とやる方がはかどるため、それならばと龍冴の家へ集まった。

 永睦は急ぎの用があると言い、家に来る事はなかったが明日はお邪魔すると言う。

(……知らない間に俺の家がメインになってる気がする)

 最初こそ、他の三人の家にローテーションで集まって、来たる試験へ向けて勉強していた。

 いつしか龍冴の家だけに集まるようになったのは、すべてこの家に居る『男』が原因だろう。

「──りょーうーちゃんっ! と、みんな~」

「っ!」

 かすかなドアの音が聞こえたと同時に、龍冴は反射的に身構えた。

「あ、桜雅おうがさん」

「お邪魔してまーす!」

 姿を表した細身の男は。小さなトレイに人数分のジュースとお菓子を載せており、にこにこと笑って部屋に入ってきた。

 桜雅に気付いた雅玖は軽く会釈を、仁はシャーペンを持っている手の方を大きく上げて挨拶をする。

「うんうん、二人とも礼儀正しいねぇ。……ってあれ、うさぎちゃんはいないの?」

 きょろきょろと桜雅が部屋の中を見回す。

 どうやら永睦を気に入っているようで、それもあってか桜雅が家に居ることを龍冴から聞くと、何かと理由を付けて来ないのだ。

 友人が一人減ったのは寂しい反面、永睦と桜雅のテンションはほとんど同じのためいない気がしない。

 ただ、問題はこの男だった。

「あいつ、家の用事とかなんとかで無理って言ってました」

「そっかぁ、残念」

 どこか他人事のように雅玖が言えば、桜雅はさも落胆したように声を落とす。

 しかしそれも一瞬で、いそいそと勉強に使っているテーブルとは別の、小さな丸テーブルにトレイを置くと桜雅は声高に口を開いた。

「さ、龍ちゃん。分かんないところあったら、遠慮なくお兄ちゃんに教えてね?」

 龍冴の隣りにぴったりと座った桜雅は、人好きのする笑みを浮かべて言った。

 耳の下ですっきりと切り揃え、淡いブラウンに染めた男の髪の毛が頬に掛かって擽ったい。

 それ以外にも言いたいことや気になることはたくさんあるが、この距離感が今は鬱陶しくもある。

(こっちは考え事してるってのに)

 もちろん、馬鹿正直に言えばそれこそ面倒臭いこと極まりないのだ。

 不自然にならない程度に桜雅から距離を取るも、すぐに空いた隙間を埋めてくる。

 それでも二度三度移動するが、桜雅は構わず身体のどこかを触れさせて座ってくる。

「教えて、ね?」

 桜雅は殊更ゆっくりと、先程と同じ言葉を繰り返した。

 年が四つ離れているからか、それとも既に大学二年の時点で就職が決まって暇なのか分からないが、桜雅は今年の春からずっと勉強を見てくれている。

 難関の名門大学に在学しているというのもあるが、元々の地頭の良さもあって高校生の試験範囲など至極簡単なものだろう。

 そんな兄が誇らしくもあり、しかしこの距離が常だからか辟易するのも事実だ。

 龍冴は低く嘆息し、諦めて桜雅の好きなようにさせた。

 どんなにこちらが拒否しても、めげずに距離を詰めてくるメンタルの強さが羨ましいとすら思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

処理中です...