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一章 新たな出会い
1‐06 勉強会
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◆◆◆
それから数日後、学期末のテスト期間に入った。
これが終われば待ちに待った夏休みで、ほんの少しの期待とピリピリとした緊張感で、校内が普段とは違った空気を纏っていた。
「あーーーーー! わっっっかんねぇ! 数学なんかなんの役に立つんだ!」
ゴン、と派手な音を立てて仁が机に突っ伏す。
「……まぁまぁ、分かんないとこあったら教えるからさ。全員で赤点回避しようぜ」
な、とそんな仁の肩を叩き雅玖が言う。
「神様? がっくんってば神様なん?」
「いや、これ中学の基礎の応用だって。しっかり授業聞いてたら分かるよ。ほら、ここはこの公式を──」
「うへぇ……」
雅玖が仁を教える体制に入った側ら、龍冴はその向かいに座って黙々とペンを走らせていた。
テスト勉強をしよう、と言ったのはほかでもない仁だ。
なんでも一人でやるより友達とやる方が捗るため、それならばと龍冴の家へ集まった。
永睦は急ぎの用があると言い、家に来る事はなかったが明日はお邪魔すると言う。
(……知らない間に俺の家がメインになってる気がする)
最初こそ、他の三人の家にローテーションで集まって、来たる試験へ向けて勉強していた。
いつしか龍冴の家だけに集まるようになったのは、すべてこの家に居る『男』が原因だろう。
「──りょーうーちゃんっ! と、みんな~」
「っ!」
かすかなドアの音が聞こえたと同時に、龍冴は反射的に身構えた。
「あ、桜雅さん」
「お邪魔してまーす!」
姿を表した細身の男は。小さなトレイに人数分のジュースとお菓子を載せており、にこにこと笑って部屋に入ってきた。
桜雅に気付いた雅玖は軽く会釈を、仁はシャーペンを持っている手の方を大きく上げて挨拶をする。
「うんうん、二人とも礼儀正しいねぇ。……ってあれ、うさぎちゃんはいないの?」
きょろきょろと桜雅が部屋の中を見回す。
どうやら永睦を気に入っているようで、それもあってか桜雅が家に居ることを龍冴から聞くと、何かと理由を付けて来ないのだ。
友人が一人減ったのは寂しい反面、永睦と桜雅のテンションはほとんど同じのためいない気がしない。
ただ、問題はこの男だった。
「あいつ、家の用事とかなんとかで無理って言ってました」
「そっかぁ、残念」
どこか他人事のように雅玖が言えば、桜雅はさも落胆したように声を落とす。
しかしそれも一瞬で、いそいそと勉強に使っているテーブルとは別の、小さな丸テーブルにトレイを置くと桜雅は声高に口を開いた。
「さ、龍ちゃん。分かんないところあったら、遠慮なくお兄ちゃんに教えてね?」
龍冴の隣りにぴったりと座った桜雅は、人好きのする笑みを浮かべて言った。
耳の下ですっきりと切り揃え、淡いブラウンに染めた男の髪の毛が頬に掛かって擽ったい。
それ以外にも言いたいことや気になることはたくさんあるが、この距離感が今は鬱陶しくもある。
(こっちは考え事してるってのに)
もちろん、馬鹿正直に言えばそれこそ面倒臭いこと極まりないのだ。
不自然にならない程度に桜雅から距離を取るも、すぐに空いた隙間を埋めてくる。
それでも二度三度移動するが、桜雅は構わず身体のどこかを触れさせて座ってくる。
「教えて、ね?」
桜雅は殊更ゆっくりと、先程と同じ言葉を繰り返した。
年が四つ離れているからか、それとも既に大学二年の時点で就職が決まって暇なのか分からないが、桜雅は今年の春からずっと勉強を見てくれている。
難関の名門大学に在学しているというのもあるが、元々の地頭の良さもあって高校生の試験範囲など至極簡単なものだろう。
そんな兄が誇らしくもあり、しかしこの距離が常だからか辟易するのも事実だ。
龍冴は低く嘆息し、諦めて桜雅の好きなようにさせた。
どんなにこちらが拒否しても、めげずに距離を詰めてくるメンタルの強さが羨ましいとすら思う。
それから数日後、学期末のテスト期間に入った。
これが終われば待ちに待った夏休みで、ほんの少しの期待とピリピリとした緊張感で、校内が普段とは違った空気を纏っていた。
「あーーーーー! わっっっかんねぇ! 数学なんかなんの役に立つんだ!」
ゴン、と派手な音を立てて仁が机に突っ伏す。
「……まぁまぁ、分かんないとこあったら教えるからさ。全員で赤点回避しようぜ」
な、とそんな仁の肩を叩き雅玖が言う。
「神様? がっくんってば神様なん?」
「いや、これ中学の基礎の応用だって。しっかり授業聞いてたら分かるよ。ほら、ここはこの公式を──」
「うへぇ……」
雅玖が仁を教える体制に入った側ら、龍冴はその向かいに座って黙々とペンを走らせていた。
テスト勉強をしよう、と言ったのはほかでもない仁だ。
なんでも一人でやるより友達とやる方が捗るため、それならばと龍冴の家へ集まった。
永睦は急ぎの用があると言い、家に来る事はなかったが明日はお邪魔すると言う。
(……知らない間に俺の家がメインになってる気がする)
最初こそ、他の三人の家にローテーションで集まって、来たる試験へ向けて勉強していた。
いつしか龍冴の家だけに集まるようになったのは、すべてこの家に居る『男』が原因だろう。
「──りょーうーちゃんっ! と、みんな~」
「っ!」
かすかなドアの音が聞こえたと同時に、龍冴は反射的に身構えた。
「あ、桜雅さん」
「お邪魔してまーす!」
姿を表した細身の男は。小さなトレイに人数分のジュースとお菓子を載せており、にこにこと笑って部屋に入ってきた。
桜雅に気付いた雅玖は軽く会釈を、仁はシャーペンを持っている手の方を大きく上げて挨拶をする。
「うんうん、二人とも礼儀正しいねぇ。……ってあれ、うさぎちゃんはいないの?」
きょろきょろと桜雅が部屋の中を見回す。
どうやら永睦を気に入っているようで、それもあってか桜雅が家に居ることを龍冴から聞くと、何かと理由を付けて来ないのだ。
友人が一人減ったのは寂しい反面、永睦と桜雅のテンションはほとんど同じのためいない気がしない。
ただ、問題はこの男だった。
「あいつ、家の用事とかなんとかで無理って言ってました」
「そっかぁ、残念」
どこか他人事のように雅玖が言えば、桜雅はさも落胆したように声を落とす。
しかしそれも一瞬で、いそいそと勉強に使っているテーブルとは別の、小さな丸テーブルにトレイを置くと桜雅は声高に口を開いた。
「さ、龍ちゃん。分かんないところあったら、遠慮なくお兄ちゃんに教えてね?」
龍冴の隣りにぴったりと座った桜雅は、人好きのする笑みを浮かべて言った。
耳の下ですっきりと切り揃え、淡いブラウンに染めた男の髪の毛が頬に掛かって擽ったい。
それ以外にも言いたいことや気になることはたくさんあるが、この距離感が今は鬱陶しくもある。
(こっちは考え事してるってのに)
もちろん、馬鹿正直に言えばそれこそ面倒臭いこと極まりないのだ。
不自然にならない程度に桜雅から距離を取るも、すぐに空いた隙間を埋めてくる。
それでも二度三度移動するが、桜雅は構わず身体のどこかを触れさせて座ってくる。
「教えて、ね?」
桜雅は殊更ゆっくりと、先程と同じ言葉を繰り返した。
年が四つ離れているからか、それとも既に大学二年の時点で就職が決まって暇なのか分からないが、桜雅は今年の春からずっと勉強を見てくれている。
難関の名門大学に在学しているというのもあるが、元々の地頭の良さもあって高校生の試験範囲など至極簡単なものだろう。
そんな兄が誇らしくもあり、しかしこの距離が常だからか辟易するのも事実だ。
龍冴は低く嘆息し、諦めて桜雅の好きなようにさせた。
どんなにこちらが拒否しても、めげずに距離を詰めてくるメンタルの強さが羨ましいとすら思う。
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