【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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一章 新たな出会い

1‐11 嘘だ

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「は、っ……?」

 さも楽しそうに笑っている椰一は、実に告白をしてきた時以来に見たきりなように思う。

 その笑みを向ける先が自分ではないということも、その異性は誰なのかということも、思い浮かんだ疑問はすべて頭から抜け落ちた。

(なんで、誰……いや、それより隠れないと)

 何も悪いことなどしていないのに、そもそも二人はこちらに気付いていないのに、そんな考えが脳裏に浮かぶ。

 人が多いため鉢合わせる確率は少ないが、それでも顔を合わせてしまえば上手く取り繕えるか分からない。

 もし椰一と外で会った時は『他人のふり』をしろ、と言われているのだ。

 そして、自分が話し始めるまで黙っていろ、とも。

(あれ……?)

 よく考えればおかしい。

 否、龍冴が今の今まで気付いていなかっただけで、椰一の言う『約束』はおよそ恋人らしくないのだ。

 最初こそ変な先輩だと思った。

 けれど好きになるにつれて束縛されて嬉しい、そして言う通りにしなければ嫌われる、という洗脳にも似た感覚が芽生えていた。

 龍冴が無意識に見ないふりをしていただけで、やはり永睦の言っていた噂は真実で、その信憑性に間違いはないのだと気付く。

「いや、馬鹿かよ」

 それはこれまでの自分に対してなのか、はたまた椰一に向けた言葉なのか、最早分からなかった。

 どちらもあり得たかもしれないし、もしくは隣りに居る女子も、自分と同じように騙されているから出た言葉かもしれない。

 もっとも、その子が椰一の本命なのかもしれないが、今はもうどうでも良かった。

 とにもかくにも今すぐこの場から逃げたくて、龍冴は目の前にあるレジに向かうと会計を済ませ、足早にビルを出る。

 買うつもりはなかった本が鉄のように重い。

 それもこれも、学校以外で椰一を見たせいだ。

 けれど思っていたよりもダメージを受けていないのは、つい数日前に雅玖の前で泣いたせいか。

 交差点をいくつも通り、どれほど歩いたか分からなくなった頃、ズボンのポケットに入れている携帯がかすかに振動した。

「はっ……は、っ」

 雅玖からなのか桜雅からなのか分からないが、乱れつつある呼吸ではとても見る気にはなれず、しかし雅玖には書店にいないことを知らせないといけない。

 龍冴は額に浮かんだ汗を拭うと、携帯を取り出した。

『どこにいるん』

 すると通知が目に入り、一番上に雅玖のメッセージが表示されている。

 五分前に送信されているため、入れ違いになってしまったようで申し訳なく思いつつも、もう一度あのビルには戻れなかった。

 もしタイミングよく椰一が出てきたら、そうでなくともびくびくしながら来た道を戻るのは気が引ける。

『ごめん、もう帰る。また明日学校で』

『大丈夫なん』

 即座にメッセージが来て、少し笑う。

 心配性が過ぎるのはあまりよろしくないが、親友からであればなんであれ許せるから不思議だ。

『お前が思ってるほどじゃないから』

 ポン、と小気味いい音と共に『大丈夫』とプラカードを掲げているキャラクターのスタンプを送る。

『ならいいけど』

 しょぼんとしたスタンプが追加で送られ、また笑った。

 本音ではあれこれ聞きたいが、こちらの気持ちを尊重して聞かないでくれているのだ。

 それがどんなにありがたいことか、本人に言うには照れ臭いため伝えないが。

「っ……!?」

 すると背後から誰かがぶつかり、唐突な事に自重を支えきれず前につんのめった。

「わっ、すみません!」

 ぶつかってきた相手が慌てて謝罪する。

「や、俺の方こそ……、っ!?」

 こちらも謝罪しようと振り返ると、その人を挟んだ向こう側に見知った顔があった。

(椰一……!)

 頭一つ分ほど飛び抜けているため分かりやすく、そしてその隣りには先程の女子も居るはずだ。

「すみません、ぼうっとしてて……っ!」

 本当にすみません、ともう一度謝罪して龍冴は小走りでその場を後にする。

「え、ちょっと……!」

 ぶつかってきた相手が何かを大声で叫んでいるが、離れる事に無我夢中で龍冴には聞こえていなかった。
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