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二章 その後の俺は
2‐01 紛失
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「おかえり、りょーちゃああああん!」
「え」
ドアを開けてすぐ、ばたばたとこちらに掛けてくる桜雅が視界に入った。
「うっ!?」
反射的に避けると、桜雅はそのままドアに顔面を強かにぶつける。
「あー……大丈夫?」
思ったよりも派手な音が響き、龍冴はそっと声を掛ける。
「っ痛ぇ……避けるこたない、だろ……」
ぶつけた顔を抑えたまま、桜雅が低く吐き捨てた。
普段はにこにこと笑顔の反面、ほんの少しでも苛立つ事があれば口が悪くなるのだ。
それは高校時代の名残りで、当時の桜雅はそれはそれは悪かった。
進学先は巷であまり評判のよくない高校だったが、蓋を開けてみれば民度が良かった。
入学してしばらくは尖っていたものの、次第に改心していったさまは当時の兄を見ていた身としても驚愕ものだ。
身体のあちこちへ大量に開けていたピアスは、今は両耳に一つずつ。
口調も柔らかなものになり、しかし元来の性格はまだ改善の余地があるようだった。
けれどなんの飾り気の桜雅もそれはそれで好きなため、今のままでもいいと思う。
(まぁ絶対言わないけど)
言ってしまったら最後、このまま地獄の抱擁をされる事は目に見えているのだ。
さすがにそれは固辞したくて、龍冴はあまり感情を揺さぶらないよう努めつつ唇を開いた。
「いきなり顔見せたらびっくりするだろ。……というか、もっと他に言うことが」
「そう! そこだよ、問題は! お前、なんで俺の連絡無視した!?」
どうやら余計な一言だったようで、間髪入れずに返される。
「あ、やっぱいいです。すんませんした」
これ以上面倒極まりない事態になるのはなんとしても回避したくて、龍冴は早歩きで階段を上がった。
「え、おい龍冴」
さすがに自室まで着いてくる気はないらしいのを幸いに、龍冴はふっと唇を歪めた。
「あんまり言ってると嫌いになるから。じゃあな、お兄ちゃん」
「は、え……え、嫌い……? なん、いやけどあの龍冴が、お兄ちゃんって呼んでくれた……!」
階下が何やら騒がしいが、この分だと機嫌は直ったようでひとまず安堵する。
「……チョロ過ぎんか」
それでも普段から名前はおろか、兄さんとも呼ばないため不意打ちをした自覚はある。
次に桜雅と顔を合わせれば、ハグは免れないだろうなと思うと憂鬱に拍車が掛かった。
自室に入ってすぐ、ベッドの端に腰掛けると通学用のカバンを放り投げるように床に置く。
「……あれ」
すると、腕に抱えていた本を持っていないのに気付いた。
椰一の視界から逃げるのに必死で、どこかに落としてしまったらしい。
それだけでなくがっしりとした青年に背後からぶつかられたからか、その時に落としたのかもしれない。
「いや、絶対そうだ」
今から向かえばさすがに鉢合わせる事はないだろうが、人混みの中下を向いて本が入った袋を探すのは骨が折れる。
そうでなくとも、今度こそ桜雅が着いてくるかもしれない。
窓から空を見れば遥か彼方が茜色に染まっており、もうじき暗くなるだろう。
「まぁ……いい、か」
明確に欲しいと思っていた訳でも、読みたいと思っていた訳でもないが、誰かが拾って交番に届けてくれているかもしれない。
そう思い至ったが、さすがに本一冊のためにそこまで脚を向ける気にはとてもなれなくて、龍冴はそのままベッドに横になった。
まだ椰一の楽しそうな笑顔がフラッシュバックし、しかし悲しいやら裏切られたやらの負の感情は少しも湧いてこない。
あるのはただ、何もしたくないという無気力感だけだった。
(欲しいって思った時、また買えばいいし)
どこか他人事のように心の中で呟くと、龍冴はそっと瞼を閉じた。
三十分後、けたたましいノックのあと部屋に入ってきた桜雅から、夕飯が出来たと起こされるのはお約束だろう。
「え」
ドアを開けてすぐ、ばたばたとこちらに掛けてくる桜雅が視界に入った。
「うっ!?」
反射的に避けると、桜雅はそのままドアに顔面を強かにぶつける。
「あー……大丈夫?」
思ったよりも派手な音が響き、龍冴はそっと声を掛ける。
「っ痛ぇ……避けるこたない、だろ……」
ぶつけた顔を抑えたまま、桜雅が低く吐き捨てた。
普段はにこにこと笑顔の反面、ほんの少しでも苛立つ事があれば口が悪くなるのだ。
それは高校時代の名残りで、当時の桜雅はそれはそれは悪かった。
進学先は巷であまり評判のよくない高校だったが、蓋を開けてみれば民度が良かった。
入学してしばらくは尖っていたものの、次第に改心していったさまは当時の兄を見ていた身としても驚愕ものだ。
身体のあちこちへ大量に開けていたピアスは、今は両耳に一つずつ。
口調も柔らかなものになり、しかし元来の性格はまだ改善の余地があるようだった。
けれどなんの飾り気の桜雅もそれはそれで好きなため、今のままでもいいと思う。
(まぁ絶対言わないけど)
言ってしまったら最後、このまま地獄の抱擁をされる事は目に見えているのだ。
さすがにそれは固辞したくて、龍冴はあまり感情を揺さぶらないよう努めつつ唇を開いた。
「いきなり顔見せたらびっくりするだろ。……というか、もっと他に言うことが」
「そう! そこだよ、問題は! お前、なんで俺の連絡無視した!?」
どうやら余計な一言だったようで、間髪入れずに返される。
「あ、やっぱいいです。すんませんした」
これ以上面倒極まりない事態になるのはなんとしても回避したくて、龍冴は早歩きで階段を上がった。
「え、おい龍冴」
さすがに自室まで着いてくる気はないらしいのを幸いに、龍冴はふっと唇を歪めた。
「あんまり言ってると嫌いになるから。じゃあな、お兄ちゃん」
「は、え……え、嫌い……? なん、いやけどあの龍冴が、お兄ちゃんって呼んでくれた……!」
階下が何やら騒がしいが、この分だと機嫌は直ったようでひとまず安堵する。
「……チョロ過ぎんか」
それでも普段から名前はおろか、兄さんとも呼ばないため不意打ちをした自覚はある。
次に桜雅と顔を合わせれば、ハグは免れないだろうなと思うと憂鬱に拍車が掛かった。
自室に入ってすぐ、ベッドの端に腰掛けると通学用のカバンを放り投げるように床に置く。
「……あれ」
すると、腕に抱えていた本を持っていないのに気付いた。
椰一の視界から逃げるのに必死で、どこかに落としてしまったらしい。
それだけでなくがっしりとした青年に背後からぶつかられたからか、その時に落としたのかもしれない。
「いや、絶対そうだ」
今から向かえばさすがに鉢合わせる事はないだろうが、人混みの中下を向いて本が入った袋を探すのは骨が折れる。
そうでなくとも、今度こそ桜雅が着いてくるかもしれない。
窓から空を見れば遥か彼方が茜色に染まっており、もうじき暗くなるだろう。
「まぁ……いい、か」
明確に欲しいと思っていた訳でも、読みたいと思っていた訳でもないが、誰かが拾って交番に届けてくれているかもしれない。
そう思い至ったが、さすがに本一冊のためにそこまで脚を向ける気にはとてもなれなくて、龍冴はそのままベッドに横になった。
まだ椰一の楽しそうな笑顔がフラッシュバックし、しかし悲しいやら裏切られたやらの負の感情は少しも湧いてこない。
あるのはただ、何もしたくないという無気力感だけだった。
(欲しいって思った時、また買えばいいし)
どこか他人事のように心の中で呟くと、龍冴はそっと瞼を閉じた。
三十分後、けたたましいノックのあと部屋に入ってきた桜雅から、夕飯が出来たと起こされるのはお約束だろう。
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