【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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二章 その後の俺は

2‐04 束の間の自由

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「なになに、なんの話~?」

 すると、生徒の一人がスキップをしながら軽やかに教室に入ってくるのが見えた。

「お、永睦えむ

「おはよ、うさぎちゃん」

 うさぎちゃん、とは他ならぬ永睦のことだ。

 姓が宇崎うざきで、初対面の時に図らずも舌を噛んでしまったのが発端だった。

 以後はそう呼んでいるが、ほとんどの生徒は宇崎か永睦と呼ぶため龍冴だけの特別な呼び名だと思っている。

「龍冴が可愛いって話」

 な、と雅玖がさも本当に話していたかのように言う。

「あー、分かるよ言いたいことは。見た目は遊び人っぽいのに、めちゃめちゃ純粋だし」

「はい?」

 うんうん、と永睦が理解したというように腕を組んで何度も頷く。

 こちらとしては何が何なのか心底分からないのだが、普通にしていてそう言われるのはあまりに解せなかった。

 今まで髪を染めることは一切せず耳の下で切っているものの、柔らかく毛先の跳ねた黒髪はくせっ毛だ。

 生まれてこの方なんの手入れもしていないが、よく女子から『羨ましい』と言われるのに悪い気はしない。

 しかし己の周囲に人が集まってくるのは、すべて人望だと──龍冴『だけ』が思っている。

 自分の顔面がいかに優れているのか、本人だけが分かっていなかった。

 顔立ちだけでなく誰に対しても心優しい性格も相俟って、人が絶えないのだ。

 実際、龍冴を悪く言う者はほとんどいない。

 仮に居たとしても意図して龍冴の意識を逸らし、耳に入れさせないようにしているため、それは雅玖や周囲のお手柄だろう。

 ただ、入学前にあった上級生の女子によるストーカー案件は別々で行動していたため、避けられなかったのだが。

「──ま、純粋でよかったよ」

 ぼそりと雅玖が何かを呟いた気がして、龍冴は首を傾げる。

「なんか言ったか? というか俺が純粋ってなんで」

「いーや、なんも。けど顔に出やすいもんなぁ、お前は」

「お、おい、また……!」

 こちらの言葉に被せるように雅玖が手を伸ばしてくる気配を感じ、とっさに頭を守ろうとしてもそれもむなしく頭を撫でられる。

「よーしよしよし、そのまま大きくなれよー」

 わしゃわしゃと最初よりも乱雑な手つきは、どこか愛があった。

(小さいって言いたいのか……!? あんまり変わらないだろ、一センチくらい。そもそも平均以上あるし!)

 親友の言葉をそのまま受け取っているとは露知らず、龍冴はただただ雅玖が満足するまで耐えた。

 こうなった時の雅玖は長く、あと数年もしたら後頭部が薄くなってしまうのではないかと思いながら。
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