【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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二章 その後の俺は

2‐07 信頼してるから

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「なんだよ、改まって」

 龍冴は中庭にある二人掛けのベンチを背に、くるりと華月を振り向く。

 目の前には青々とした樹が存在感を放っており、太陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。

「あそこだとゆっくりできないから。あと、君は人気者だから俺が居たらもっと集まってくるかなって」

(なんの心配してるんだか)

 申し訳なさそうに眉根を下げる華月は、最後に顔を合わせた時よりも青白い。

 伏せている睫毛が頬に柔らかく影を落としているが、その肌は透き通るほど白かった。

 夏だというのに長袖のシャツを着ているため、暑さで倒れやしないか心配になる。

 こう思う自分もまた心配性だな、と頭の片隅で思う。

「……普通にしてるだけだよ、俺は」

 そう、龍冴は至って普通の、どこにでも居る人間なのだ。

 こうして誰かから『人気者』と言われる度、誰かに呼び出されて告白される度、その思いは一層強くなる。

 ただ他の者と同じように接しているだけなのに、なぜこうも神聖化されるのか疑問でならなかった。

 それを目の前の男に聞いても、自身が求める答えが出てこないのは分かっている。

 それでも神妙な顔付きで黙っているため、堪らず龍冴は口を開いた。

「そんなとこ突っ立ってないで座ったらいいだろ。……ただでさえお前は、その」

 身体が弱いのに、とはとても言えなかった。

 幼い頃から持病があり、毎食忘れずに薬を飲まないと命に関わるのだという。

 しっかりと飲んでいても発作が起きてしまった時は、また別の薬を飲んで落ち着くまで安静にしているしかない、と淡い笑みを浮かべて教えてくれた。

『まぁ慣れてるから。大丈夫、だよ』

 そう言った時の華月の横顔は、数ヶ月が経った今でも覚えている。

 こちらからすれば可哀想で、しかしそうした感情を他人が決めつけるなどよくないだろう。

「優しいね、龍ちゃんは」

 ふふ、と華月は小さく笑うと、やがてベンチに腰掛けた。

 座るのを見届けると龍冴も隣りに座り、しばらくの間樹々が擦れる音に耳を傾ける。

 夏特有の柔らかくしかし生ぬるい風が頬を撫で、少しの不快感があったが、不思議と話を急かす気にはなれなかった。

 華月があえて中庭を選んだ理由に、心のどこかで勘付いているからだろうか。

(暑いには暑いけど)

 それでも龍冴は目を閉じ、耳に意識を集中させる。

 正門の方で生徒達が騒ぐ声も、自分はもちろん隣りに座っている華月の息遣いも、静かだからかよく響く。

 そこに樹の擦れる音が合わされば、ほんの少し心が落ち着いていく気がした。

 椰一について悩んでいることでさえ、今だけはどうでもよくなるほどだ。

「──実はね」

 どれほど時間が経ったのか分からなくなった時、ふと華月が唇を開いた。

 龍冴はふっと瞼を上げ、ゆっくりと隣りに顔を向ける。

「っ」

 視界に入った華月は、このまま消えてしまいそうなほど儚い笑みを浮かべていた。

「……俺、手術するんだ。主治医からは成功するか分からない、って言われたけど」
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