【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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四章 夏本番、近付く距離

4‐15 胡散臭い笑顔

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 帰りのホームルームを終え、生徒らは思い思いに一人で帰路に就くか、友人間で歩きながらお喋りに花を咲かせていた。

 それこそ龍冴の少し前を歩く永睦と仁も同じで、時折笑い声が聞こえてくる。

「──龍冴?」

「っ……! び、びっくりさせるなよ」

 ふと隣りを歩いていた雅玖が顔を覗き込んできて、反射的に声を漏らした。

 雅玖は基本的に二人の輪には入らず、常に龍冴から一歩下がるか隣りを歩いてくれるのだ。

 不審な人間がいれば真っ先に気付けるように、という雅玖なりの気遣いだと分かっているものの、こうして不意打ちをする時があった。

「いや、さっきから呼んでるんだぞ一応。……ってか、またなんかあった感じ?」

 雅玖の瞳が軽く細められる。

(なんで分かるんだ)

 普段からあまり口数が多い方ではないが、この男にはなんでもお見通しらしい。

「……いや」

 一度でも肯定すると、絶対に助けようとするだろう。

 何も雅玖がそこまでしなくても、今回ばかりは本当に誰も関係ない──判断を見誤った己こそが悪く、助けてもらう事ではない。

 じっと顔を見られるのが嫌で、ふいと雅玖から顔を背けた。

 右に一歩ずれて距離を取ろうとするも、わずかに遅かったようだ。

「──わっかりやすいなぁ、本当」

「え、わっ!?」

 呆れた声が聞こえるとともに、わしわしと普段よりもずっと乱雑に頭を撫でられる。

「おい、馬鹿雅玖……! やめろ!」

 雅玖にこうされるのは一週間ぶりで、少し嬉しい気持ちもあるが、つい先程の事もあってか泣きそうになってしまう。

 期末試験の間は大和か椰一のことを考えていたからか、普段以上に勉強に身が入らず、得意科目であっても平均あるかすら怪しい。

 それ以前に何が正しくて何が悪かったのか、もはや正常な判断ができなくなっている。

 それすらも雅玖に見破られている可能性が十分にあり、けれどこちらが何か言わない限り踏み込んでこないのはありがたかった。

「んで、今日はどうすんの」

 やがて満足したのか、やや高い雅玖の声が響く。

 このあとファミレスへ行くのか、と暗に聞いているのは明白だ。

 このところは──大和と気まずくなった三日目以降──ホームルームが終われば、一人でまっすぐ帰っている。

 桜雅はやっと空気を読んでくれたのか、はたまたタイミングが悪いのか分からないが、大和と顔を合わせて以降は迎えに来てくれていない。

 それはそれでなぜなのかと思ったが、何度も『もう迎えはいらない』と桜雅が帰宅してすぐに言ったのは紛れもない自分だ。

 桜雅は弟の頼みを有言実行してくれただけで、なんの落ち度もないのだ。

 ただ、誰とも会話をせずに帰るのは少しばかり寂しかったため、こうして試験終わりにどこかへ行こう、と誘ってくれたのは嬉しい。

 しかし桜雅には一応連絡を入れようと思い、メッセージアプリを開いたのだ。

 すると、一番上に椰一のアイコンが表示されていた。

 仮に返してくれているのであれば、一時間後に通知が来るはずだった。

 やはりそれまで筆無精だったのが嘘のように早くて、龍冴が送ってから四分後にメッセージが返されていた。

『待ってるから』

 簡潔なそれは、いかにもあの男らしい。

 なのに嫌な予感がするのはなぜだろうか。

(まさか、な)

 さすがにこの近くで待っているとか、駅前で待ち伏せているとかではあって欲しくなかった。

 なぜか椰一がただ『返信を』待ってるとは思えず、こう思うのは恐怖があるからだと理解している。

 怒った時の椰一がどんな表情でどんな言葉を吐くのか知らないが、考えるだけで時間の無駄だろう。

 龍冴は脳裏に浮かんだすべてを払拭するように無理矢理笑みを浮かべ、口を開いた。

「俺も──」

「あれ、雨宮?」

 一緒に行く、という言葉に被せるように、誰かの声が重なった。

 低く楽しげな声音は、つい二週間前まで毎日のように通話をして聞いていたものだ。

 どくん、と心臓が嫌な音を立てる。

(いや、だ)

 反射的に息を詰め、ぎゅうと手の平を強く握り締める。

 けれど意思に反して身体はその声に反応し、龍冴は恐る恐る背後を振り向いた。

「今帰り?」

 こちらに軽く手を上げて歩いてきたのは、今しがた考えるのを止めた椰一その人だった。
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