【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
57 / 91
五章 離れたくない、そう思った

5‐01 不穏な影

しおりを挟む
「っ、ぁ……」

 心臓が痛いほど音を立てており、目の前の男がこちらに近付いてくる度に身体の震えが止まらなくなる。

 龍冴りょうがは半ば無意識に、隣りに立つ雅玖がくの制服のズボンを軽く摑んだ。

 すると雅玖の手がそっと重ねられ、握り締められる。

 じんわりと熱が伝わってきて、けれど怖気は完全に無くなりそうにない。

「奇遇だな、話すのって初めてだっけ?」

 椰一やいちは龍冴の反応に気付いているのかいないのか、尚も言葉を重ねてくる。

 にこにこと笑みを形作る唇から吐き出されるものを、今まで予想できなかった訳ではない。

 元々、校内では話し掛けない取り決めをしていたのだ。

 今日この日までずっと、互いに『表向きは』無関係の先輩と後輩という立ち位置だった。

(なんで、なんで……)

 付き合ってすぐ、話し掛けようとした時はあとになってメッセージアプリで『やんわりと』いさめられた。

 以降は龍冴の方から椰一の姿を見つけても無視を決め込み、この二週間では顔も見たくないほどになっていた。

 柔らかく細められた瞳で相手の姿を映し、形のいい唇はそれが真実かのように甘く愛の言葉を囁く。

 しっかりとした大きな手は、他の人間にも等しく『そういう事を』していると知ってしまった。

 それが気持ち悪く、また先程文面で問い詰めたのが悪かったのか、椰一が出てくるにはあまりにタイミングが良過ぎる。

 これではストーカーをしているのと何ら変わりなく、それも相まって額や背中にいくつもの汗が伝った。

「悪いんだけど、雨宮あめみやのこと借りてもいい?」

 すぐ終わるからさ、と椰一が続ける。

「……ここで話せばよくないですか?」

 龍冴の代わりに雅玖が問うてくれ、しかしその声音はいつになく硬い。

「けど待たせるのも悪いし、先行っててくれると嬉しいな。……行こっか、雨宮」

 にこりと椰一が更に笑みを深め、龍冴は反射的に口を開きそうになった。

(いやだ)

 同じ言葉を何度となく心の中で呟き、ただ無意識に口に出ていたとしてもきっと椰一は強引にどこかへ連れて行くだろう。

 高校の周辺はビルや飲食店があり、そこから少し逸れれば一転して住宅街だ。

 そんな中でも二人きりになれる場所は限られているため、どこへ行くのかという不安があった。

「雨宮?」

 椰一が重ねて名を呼んでくる。

 穏やかな声音は一見『優しい先輩』だが、本音は『早く来い』と思っているに違いない。

 現に隣りに立っている雅玖の視線がこちらにも突き刺さりそうなほど鋭利で、自分以上に警戒しているのだと分かる。

 まさか龍冴が『椰一にこんな事をされ、こういう事をしていた』と事細かに聞いている、とは露ほども思っていないだろう。

「──雅玖」

 震えそうになる声を叱咤して、龍冴はそっと大切な友人の名を囁いた。

「大丈夫だから、先行ってて。……いつものとこだろ、多分」

 ちらりと背後に視線を向けると、永睦と仁が待っているのが見えた。

 けれどこちらに来る気配はなくて──否、本当は気になるのだろうが──、好奇心が旺盛な二人をあまり待たせてもよくない。

 もう少しすればどちらかが我慢できず駆け寄ってきて、椰一に根掘り葉掘り聞くという事態にだけはしたくなかった。

「……分かった」

 雅玖は短く言うと頷き、しかし名残惜しそうな瞳を投げ掛けてくる。

(……心配性だな)

 龍冴は内心で苦笑した。

 誰に対しても分け隔てなく接する己を心から理解してくれる人間は、実のところ身内以外であまりいない。

 昔から外面がいいのは今に始まった事ではないが、雅玖からしてみればそれが危なっかしく感じるらしい。

 過保護さなら桜雅に負けず劣らず、むしろいい勝負をするだろう。

 ただ、どちらもそれが回り回って過干渉じみているのは否めない。

(大丈夫だってのに)

 何かあれば真っ先に連絡する、というのが雅玖との暗黙のルールになっている。

 携帯を取り上げられたり壊されでもしない限り、無事を知らせられるのだ。

 ぽんぽんと安心させるように雅玖の背中を叩くと、龍冴は無理矢理口角を上げた。

「行きましょうか。佐野さの先輩」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

天使な坊っちゃんの護衛中なのに、運命の相手がしつこすぎる。

濃子
BL
はじめて会ったやつに「運命の相手だ」、って言われたら?あんたならどうするーー? ーーおれは吉備川 翠(すい)、明(あかる)坊っちゃんの護衛兼屋敷の使用人だ。坊っちゃんが男子校に行くことになり、心配した旦那様に一緒に通わされることになったんだけど、おれ、2つ上なんだよね。 その上、運命の相手だ、なんていう不審者にもからまれて、おれは坊っちゃんを守ることに、生命をかけてるんだよ、邪魔はしないでくれーー! おまけに坊っちゃま高校は、庶民には何もかもがついていけない世界だし……。負けるな〜!おれッ! ※天使な坊っちゃんの護衛をがんばる、ギャグ多め、たまにシリアスな作品です。 ※AI挿絵を使用していますが、あくまでイメージです。指のおかしさや、制服の違いなどありますが、お許しください。 ※青春BLカップに参加させていただきます。ギャグ大好きな方、応援よろしくお願いします🙇

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...