【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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五章 離れたくない、そう思った

5‐14 また別の相手

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 ほとんど味が分からなかったが、パフェを食べ終えると大和がふと『ゲーセンに行こう』と言った。

 聞けばここは商業施設のため、雑貨や服に飲食店、果てには娯楽施設が収まっているらしい。

 ここら一帯に初めて来たというのもあるが、よくよく聞いていると何度かテレビや雑誌で取り上げられている、と言うのだから驚きだ。

 あまりテレビを観ないだけでなく、雑誌も漫画や小説くらいしか買わないため知らなかった。

(……気遣ってくれたんだろうな)

 龍冴は何度目とも分からない言葉を心の内で唱えるとそっと目を伏せ、腕の力をわずかに強める。

「ありがとうございます、本当に」

 今、龍冴の腕の中には某ゲームのモンスター──ペンギンのぬいぐるみが抱えられていた。

 小さい頃から好きなキャラクターで、しかしUFOキャッチャーとなると大の苦手だ。

 ぬいぐるみなんか欲しがるのは子供っぽいから、と思いこそすれすぐには諦めきれず、一度二度となけなしの百円玉を投入しても獲れなかった。

 すると、そんな龍冴に大和が苦笑しながら『見てて』と言ってきた。

 果たして角度やアームの動きを見ながら格闘すること二度、龍冴と同じ手数でペンギンのぬいぐるみを獲得した。

 が、さすがに弟にあげるものだと思っていため、やんわりと『上手ですね』と言うと、大和は少し呆れながら言ったのだ。

『欲しかったんだろ。だからほら』

 あげる、と言いながらぬいぐるみの手を取って、龍冴の手の甲に触れてくる。

 見た目よりもふわふわとしたそれは、じわりと心の奥深くに侵入して馴染んでいく。

 それは大和の優しさが関係しているのか、単にこのぬいぐるみが手元に来て嬉しいからなのか。

 否、どちらも関係しているだろう。

 隣りを歩く大和を見上げれば、ふわりと困ったように笑った。

「大袈裟だな、これくらい」

 なんでもない事のように言うからか、こちらが恐縮していることに気付いていないようだ。

 そのことに複雑な気持ちになりこそすれ、ぽそりと口の中で呟く。

「……本当ならパフェも割り勘したかったんですけど」

 すると大和はゆっくりとした動きで肩に手を置いてきて、半ば抱き寄せられる形になる。

「っ」

 仮にもここには不特定多数の人間が居て、メダルゲームやUFOキャッチャーに夢中とはいえ、誰が見ているか知れないのだ。

 友達同士であってもここまで距離が近いのは稀で、それが好きな相手であれば意味は違ってくる。

 大和とて、龍冴が自分のことを好きだと知らない訳ではない。

 好意を伝えた時と何も知らなかった時とでは、相手に対する行動がそれまでとは変わるのが普通だろう。

 そもそも恋愛対象が同性か、どちらも大丈夫という場合、相手が高確率でノンケ──異性が好きで、振られる事も少なくないという。

 大和もその部類で、気まずくなってしまったのもそれが理由なのだと思った。

「そんなの気にすんなって。ってか、俺がしたかったからしてるんだから、お前はなぁんにも心配しなくていいの」

 なのにこうして抱き寄せてきたり、勘違いさせるような事を言うのは、この先の言葉を期待してしまうのも無理からぬことだった。

 しかし最後の方はまるで幼い子供を相手にしているようで、図らずも吹き出してしまう。

「っ……その口調、笑うんでやめてください」

 笑い混じりの声で言うと、ふと肩に乗っている手の力が強くなった。

「先輩……?」

 至近距離で視線が絡み合う。

 普段よりも大和の身長がわずかに高いのは、少し厚底のブーツを履いているからだろうか。

 ほんの少し龍冴が背を伸ばせば、唇が触れ合いそうな距離だった。

「──雨宮」

 ゆっくりと紡がれる声が、かすかに震えていた。

 それでも瞳は意志を持ったようにはっきりと、ともすれば黒い双眸そうぼうの奥に確かな熱を感じる。

 周囲の機械音や同年代の騒ぎ声すら、今だけは聞こえなくなった。

「俺、は……」

「──あれ」

 大和がそろりと唇を開こうとしたのと同じくして、不意に楽しげな声が重なる。

「雨宮に鷹月じゃん。なに、二人揃って珍しいなぁ」

 声がした方を見れば、椰一が居た。

 隣りには先月見た女子生徒とはまた別の、小柄な女の子が椰一の腕に細いそれを絡めていた。
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