【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
71 / 91
六章 本当の終わりと始まり

6‐01 『新しい』恋人

しおりを挟む
(また、違う子だ……)

 先月見た女子生徒とは系統が違い、けれどばっちりとメイクをしているため、同一人物という可能性も否定できない。

 龍冴りょうがは無意識に、ペンギンのぬいぐるみをぎゅうと抱き締めた。

 女の子の着ている服は膝下までで、薄いピンク色のワンピースは胸元にフリルがあしらわれている。

 小柄なせいもあってか、龍冴ですら庇護欲を掻き立てられるその子は、やや高い声で椰一やいちの腕にますます抱き着いた。

「ね、喉乾いちゃった。早くフードコート行こ?」

 甘えるように紡がれた言葉は女子特有のもので、龍冴とて何度も聞いてきたものだ。

 けれど今ばかりは嫌悪感しか湧かず、二人とも早くいなくなって欲しいとすら思う。

「結構遊んだもんなぁ。けど、ちょーっとこの二人に用事があるんだ。ごめんだけど、先行ってて?」

 椰一は困ったように笑うと、その子の頭を抱き寄せてつむじ軽く口付けた。

「え、で……でも」

 女の子は何をされたのか分かったようで、なのに龍冴と大和やまとの方を交互に見る。

 どこか選別するような視線は、どんな『用事』があるのかピンと来ていない様子だった。

 それは龍冴も同じだが、嫌な予感がしてならないのだ。

 こちらにとって損をするような言葉を、目の前の男は言う気がする。

「っ……」

 隣りに立つ男の雰囲気がかすかに変わったのを悟ったのか、女の子が小さく声を漏らす。

 もしくは自分達の関係が気になっていて、けれど椰一の無言の圧力が怖いのかもしれなかった。

 男二人でゲーセンに来ている事はもちろん、片方はぬいぐるみを持っているのだ。

 自分にそういう趣味があると思われるのは、この際どうでもいい。

 龍冴が今気になるのは、椰一がどちらに対してどんなことを話すのか、そして女の子は新しい『恋人』なのか、これだけは聞いておかなければならなかった。

「……じゃあすぐ終わるようにするから。エレベーターのとこ、あそこで待っててくれると嬉しい」

「う、うん。わかっ」

「──せっかくだし、『彼女』さんも居ましょうよ」

 女の子の声に被せるように、ふと大和が言った。

「先輩……?」

 不意を突かれたのは椰一や名指しされた女の子だけでなく、龍冴は隣りに立つ大和を見上げた。

 表情こそ笑みを浮かべているが、その声音はいつになく硬い。

 まるで椰一のことを敵と見なしているように聞こえた。

「なんでわざわざ先に行かせるんですか? 俺は話すこと無いんでいいですけど、すぐだったら一緒に居る方がいいでしょ」

 俺だったらそうします、と大和が続ける。

「な、なんでお前に……」

「それとも何かやましい事があるから、先に行けって言うんですか。もしかして聞かれて困るようなこと、俺らのどっちかに言うつもりだったとか?」

「そ、そうなの……?」

 半ば椰一の言葉を遮り、矢継ぎ早に唇を動かす。

 女の子の問い掛けにすら何も言えないのを悟ると、大和は更に畳み掛ける。

「──ああ、そっか。雨宮あめみやがアンタにとって余計な事言う前に、引き離したかった?」

 だからか、と大和が一人納得したように頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

処理中です...