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六章 本当の終わりと始まり
6‐03 反撃と大きな救い
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「もう距離置きたい、って言ってたよな」
龍冴はひっそりと脚を進め、椰一にだけ聞こえるほどの声量で問い掛ける。
「なんで俺に話し掛けた。なんで、あの子を追い掛けないんだ」
微動だにしない男の後ろ姿に低く問うた。
答えてくれなくても構わなかったが、ややあって椰一が振り向いた。
「なんで……? そりゃあ簡単」
蠱惑的な笑みを向ける男は、それまで胸に浮かんだ感情など微塵も感じさせることなく、ゆっくりとした動きで唇を開いた。
「お前が楽しそうに笑ってるから、冷やかしに来たんだよ。まぁ、本当に居るとは思わなかったけどな」
緩やかに動く口元は文字通り楽しそうで、なのに声音はどこまでも冷たくて侮蔑的だ。
「女は適当に話してたら懐いてきただけ。俺の方から付き合ってってのは言ってない」
勘違いするなよ、という視線は低い声以上に、龍冴に対する嫌悪感で満ちている。
意味を取り違えたと思われたのか、じっとこちらを見つめる瞳が鋭利だった。
けれど前ほど怖さは感じず、すっと心が冷めていくのが分かる。
そういう事でしか強がれなくて、可哀想な人間だと思ってしまったから。
「あ、それから」
ふと龍冴から視線を移し、その場から動いていない大和を見た。
にっこりとこれ以上ないほどの笑顔で、椰一が殊更声高に言う。
「こいつ、病気だから」
軽く龍冴を顎でしゃくり、それだけでなく指をさして続ける。
「精神ってのかな、おかしいんだよこいつ」
「びょう、き……?」
大和だけでなく、龍冴すらオウム返しをするしかできない。
それはどちらが言ったのか判然としないが、きっと互いに口から出てしまったのかもしれない。
(何、言ってるんだ……?)
椰一の放った言葉をどれほど考えても、はっきりとは理解できなかった。
何をもってして椰一がそんなことを言うのか、付き合ったのは二ヶ月ほどの短い期間だが、それだけでこちらの人となりを分かった気でいるのか。
ぐるぐると考えている間にも、椰一は休むことなく唇を動かしていく。
「付き合ってた時、酷かったんだぜ? 催促ばっかだし、昼休みや放課後まで待てなくて、こいつの通知ばっか来るんだ」
休みの日は電話しようって言われたな、と椰一がどこか懐かしむように続ける。
「最後辺りなんか、浮気疑われて泣かれてさ。別れたくない、嫌だってそりゃあもう酷でぇの。……そうだよな、龍冴」
不意にじっと見つめられ、反射的に身体が硬直した。
最後の方はこの男の完全な嘘っぱちだが、確かに当初──噂など何も知らなかった頃──は相手が嫌がる事をしてしまっていた事実なのだ。
けれど椰一は龍冴のしでかした行動に怒るでもなく、やんわりと理由を付けて断るばかりで、やきもきしていたのもまたとない現実だった。
『構内で会っても話し掛けない、目も合わせない、知らないふりをしろ』と言われたのは、それからすぐだったように思う。
今思い返せば互いにやり過ぎだったと思うが、自分のしてきた事を一切言わず、こちらを下げる言葉ばかり吐くのは卑怯ではないか。
そう思うのに、反論したいのに、唇は震えるばかりで何もできない。
ただただ倒れないように踏ん張るのがやっとで、腕の中のぬいぐるみを落とさないようにと必死だった。
龍冴はひっそりと脚を進め、椰一にだけ聞こえるほどの声量で問い掛ける。
「なんで俺に話し掛けた。なんで、あの子を追い掛けないんだ」
微動だにしない男の後ろ姿に低く問うた。
答えてくれなくても構わなかったが、ややあって椰一が振り向いた。
「なんで……? そりゃあ簡単」
蠱惑的な笑みを向ける男は、それまで胸に浮かんだ感情など微塵も感じさせることなく、ゆっくりとした動きで唇を開いた。
「お前が楽しそうに笑ってるから、冷やかしに来たんだよ。まぁ、本当に居るとは思わなかったけどな」
緩やかに動く口元は文字通り楽しそうで、なのに声音はどこまでも冷たくて侮蔑的だ。
「女は適当に話してたら懐いてきただけ。俺の方から付き合ってってのは言ってない」
勘違いするなよ、という視線は低い声以上に、龍冴に対する嫌悪感で満ちている。
意味を取り違えたと思われたのか、じっとこちらを見つめる瞳が鋭利だった。
けれど前ほど怖さは感じず、すっと心が冷めていくのが分かる。
そういう事でしか強がれなくて、可哀想な人間だと思ってしまったから。
「あ、それから」
ふと龍冴から視線を移し、その場から動いていない大和を見た。
にっこりとこれ以上ないほどの笑顔で、椰一が殊更声高に言う。
「こいつ、病気だから」
軽く龍冴を顎でしゃくり、それだけでなく指をさして続ける。
「精神ってのかな、おかしいんだよこいつ」
「びょう、き……?」
大和だけでなく、龍冴すらオウム返しをするしかできない。
それはどちらが言ったのか判然としないが、きっと互いに口から出てしまったのかもしれない。
(何、言ってるんだ……?)
椰一の放った言葉をどれほど考えても、はっきりとは理解できなかった。
何をもってして椰一がそんなことを言うのか、付き合ったのは二ヶ月ほどの短い期間だが、それだけでこちらの人となりを分かった気でいるのか。
ぐるぐると考えている間にも、椰一は休むことなく唇を動かしていく。
「付き合ってた時、酷かったんだぜ? 催促ばっかだし、昼休みや放課後まで待てなくて、こいつの通知ばっか来るんだ」
休みの日は電話しようって言われたな、と椰一がどこか懐かしむように続ける。
「最後辺りなんか、浮気疑われて泣かれてさ。別れたくない、嫌だってそりゃあもう酷でぇの。……そうだよな、龍冴」
不意にじっと見つめられ、反射的に身体が硬直した。
最後の方はこの男の完全な嘘っぱちだが、確かに当初──噂など何も知らなかった頃──は相手が嫌がる事をしてしまっていた事実なのだ。
けれど椰一は龍冴のしでかした行動に怒るでもなく、やんわりと理由を付けて断るばかりで、やきもきしていたのもまたとない現実だった。
『構内で会っても話し掛けない、目も合わせない、知らないふりをしろ』と言われたのは、それからすぐだったように思う。
今思い返せば互いにやり過ぎだったと思うが、自分のしてきた事を一切言わず、こちらを下げる言葉ばかり吐くのは卑怯ではないか。
そう思うのに、反論したいのに、唇は震えるばかりで何もできない。
ただただ倒れないように踏ん張るのがやっとで、腕の中のぬいぐるみを落とさないようにと必死だった。
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