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六章 本当の終わりと始まり
6‐07 不安に蝕まれる
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「……雨宮」
不意に大和がこちらを向き、椰一に向けていた時と同じくらい真剣な声で名を呼んでくる。
「この前の返事、だけど」
「っ」
ぴくりと無意識に肩が揺れた。
つい先程、椰一に放たれた言葉で、大和の気持ちはほとんど分かったも同然だ。
それくらい、どれほど自分が恋愛に疎くても察してしまう。
なのに改めて真正面から伝えられると思うと、それに呼応して心臓がうるさく音を立てているのを嫌でも意識する。
「……言っていい?」
緩く首を傾げて微笑まれてしまえば、断る方が無理だろう。
同時に、どくどくと早鐘を打つそれが聞こえやしないか心配になったが、どうやら杞憂だったかもしれない。
大和がこれ以上ないほど優しい笑みを向けてきていて、これでは自分の気持ちに勘付かれているも同然なのだ。
それでも不自然にならないよう、龍冴は某キャラクターのペンギンのぬいぐるみを半ば抱き締める形で、かすかに頷くしかできなかった。
大和が龍冴に向けて笑顔を見せたかと思うと、いつしかまっすぐに顔を見れなくなってしまったから。
「ありがと」
やや笑いを含んだ声は、もう椰一のことで怒っても、自分を責めてもいないようだ。
それに安堵しつつも、どこかへ向かっているのかくらいは聞いておきたいのが本音だ。
もう少し歩いた先には、商業施設を始めとした飲食店やラブホテルが立ち並んでいる。
あまりこの周辺に来たことは無く、それ以前に大和のことだから、そういう事をするために向かっているとはとても思えない。
けれど、頭の片隅に大和に組み敷かれるところを想像してしまうのは、ひとえに龍冴もそこらの同級生と変わらない健全な男子だからか。
(な、何考えてるんだ俺は……! 先輩はそんな、そんなヤリチンじゃない……はず、多分)
そもそも両想いも同然のため、仮に身体を繋げるとなれば多少は時間と勇気が要るくらいだが。
「……ここでいいか」
ふと短く呟いた大和が脚を止め、龍冴もならって立ち止まる。
視線の先には丁度二人分座れそうな場所があったため、促されつつ並んで座った。
すぐ側には犬の置物があり、待ち合わせスポットなためか周囲には人が集まっていた。
けれどほとんどは携帯に視線を移しているか、友人やカップル間で談笑しているため、こちらを見てくる気配はない。
今の自分達がどう思われているのか気になりつつも、間違っても挙動不審な仕草をしないか心配になる。
気にし過ぎかもしれないが、大和の迷惑になる行動や言葉は極力避けたいのが本音だ。
そして、最大の懸念事項は不用意なことを言って嫌われることだけだった。
(もし嫌な顔されたら、冷たくされたら、って思うからだ。……先輩に限って、それはないと思うけど)
告白の返事を聞くだけといっても、こちらの反応一つで態度は変わるのだ。
毎週のように男女問わず誰かから告白されていたため、相手が豹変するか殴られそうになる場面を、嫌というほど経験してきた。
けれどいざ自分が『待つ側』になると、それまでの出来事など無に等しいから不思議な気持ちになる。
(告白してきた人たちも、こういう気持ちだったんだろうな)
今か今かと返事を待っているこの時間が、酷く心臓に悪い。
もっとも大和の返事は既に分かっているも同然なのだが、それでも嫌になるくらいだった。
同時に、つい今しがた邪な考えをしていた自分を恥じる。
羞恥か期待か──両方という場合も十分にあり得るが──、どくどくと脈が早くなる感覚があったから。
まるで身体が心臓になってしまったかのようで、加えて隣りに座ったことでかすかに肩が触れ合っている。
あとほんの少しでも密着すれば、大袈裟な反応をしてしまうのは悲しいかな目に見えていた。
不意に大和がこちらを向き、椰一に向けていた時と同じくらい真剣な声で名を呼んでくる。
「この前の返事、だけど」
「っ」
ぴくりと無意識に肩が揺れた。
つい先程、椰一に放たれた言葉で、大和の気持ちはほとんど分かったも同然だ。
それくらい、どれほど自分が恋愛に疎くても察してしまう。
なのに改めて真正面から伝えられると思うと、それに呼応して心臓がうるさく音を立てているのを嫌でも意識する。
「……言っていい?」
緩く首を傾げて微笑まれてしまえば、断る方が無理だろう。
同時に、どくどくと早鐘を打つそれが聞こえやしないか心配になったが、どうやら杞憂だったかもしれない。
大和がこれ以上ないほど優しい笑みを向けてきていて、これでは自分の気持ちに勘付かれているも同然なのだ。
それでも不自然にならないよう、龍冴は某キャラクターのペンギンのぬいぐるみを半ば抱き締める形で、かすかに頷くしかできなかった。
大和が龍冴に向けて笑顔を見せたかと思うと、いつしかまっすぐに顔を見れなくなってしまったから。
「ありがと」
やや笑いを含んだ声は、もう椰一のことで怒っても、自分を責めてもいないようだ。
それに安堵しつつも、どこかへ向かっているのかくらいは聞いておきたいのが本音だ。
もう少し歩いた先には、商業施設を始めとした飲食店やラブホテルが立ち並んでいる。
あまりこの周辺に来たことは無く、それ以前に大和のことだから、そういう事をするために向かっているとはとても思えない。
けれど、頭の片隅に大和に組み敷かれるところを想像してしまうのは、ひとえに龍冴もそこらの同級生と変わらない健全な男子だからか。
(な、何考えてるんだ俺は……! 先輩はそんな、そんなヤリチンじゃない……はず、多分)
そもそも両想いも同然のため、仮に身体を繋げるとなれば多少は時間と勇気が要るくらいだが。
「……ここでいいか」
ふと短く呟いた大和が脚を止め、龍冴もならって立ち止まる。
視線の先には丁度二人分座れそうな場所があったため、促されつつ並んで座った。
すぐ側には犬の置物があり、待ち合わせスポットなためか周囲には人が集まっていた。
けれどほとんどは携帯に視線を移しているか、友人やカップル間で談笑しているため、こちらを見てくる気配はない。
今の自分達がどう思われているのか気になりつつも、間違っても挙動不審な仕草をしないか心配になる。
気にし過ぎかもしれないが、大和の迷惑になる行動や言葉は極力避けたいのが本音だ。
そして、最大の懸念事項は不用意なことを言って嫌われることだけだった。
(もし嫌な顔されたら、冷たくされたら、って思うからだ。……先輩に限って、それはないと思うけど)
告白の返事を聞くだけといっても、こちらの反応一つで態度は変わるのだ。
毎週のように男女問わず誰かから告白されていたため、相手が豹変するか殴られそうになる場面を、嫌というほど経験してきた。
けれどいざ自分が『待つ側』になると、それまでの出来事など無に等しいから不思議な気持ちになる。
(告白してきた人たちも、こういう気持ちだったんだろうな)
今か今かと返事を待っているこの時間が、酷く心臓に悪い。
もっとも大和の返事は既に分かっているも同然なのだが、それでも嫌になるくらいだった。
同時に、つい今しがた邪な考えをしていた自分を恥じる。
羞恥か期待か──両方という場合も十分にあり得るが──、どくどくと脈が早くなる感覚があったから。
まるで身体が心臓になってしまったかのようで、加えて隣りに座ったことでかすかに肩が触れ合っている。
あとほんの少しでも密着すれば、大袈裟な反応をしてしまうのは悲しいかな目に見えていた。
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