ヒロインに婚約破棄された悪役令息

久乃り

文字の大きさ
8 / 27

第8話 活動報告とレベル上げ

しおりを挟む

「さて、耐性値を上げるとするか」

 マルティンは昨日に引き続き地下道でネズミ型の魔物を狩る依頼を受けていた。昨日の時点で毒耐性を得ることはできたけれど、耐性値のレベルが低ければ意味が無い。マルティンが目指しているのは毒耐性のレベルを最大限に上げて、毒無効のスキルを得ることなのだ。

「そう簡単には上げさせてはくれないか」

 昨日と同じようにネズミ型の魔物を狩るけれど、毒耐性の数値が上がる気配は無い。

「こいつじゃ毒が弱いって事か」

 流石に昨日と同じ100個のシッポを集めたところで、マルティンはようやくこの答えにたどり着いた。何度もと言うけれど、きっかり100回噛まれてはみたものの、毒耐性があるせいで毒を受ける事が無くなってきてはいた。そもそも既に耐性があるから、弱い毒では毒状態に陥らないらしい。左手に手にした冒険者登録証を見つめながらマルティンは考えた。

「依頼は受けていないが、貴族街との境界線付近に毒蛇の魔物がいたよな」

 毒蛇の魔物は自然繁殖したのではなく、地下道を使って貴族街に侵入しようとする賊を追い払うために、地下道に放たれたのだと聞いている。だから駆逐してはいけないのだけれど、定期的に間引きの依頼は出ていた。そうしないと増えすぎた毒蛇の魔物が貴族街に出てきてしまうからだ。
 ちなみに、毒蛇の魔物は前世の記憶で言うところのコブラのような姿をしている。ネズミ型の魔物よりはるかに俊敏に襲いかかってくるのだ。しかも巻きついてくるから厄介なのだ。乙女ゲームのとき、地下道に入るのに貴族街からだったので、イキナリ強い魔物からの遭遇にマルティンはだいぶ驚いたものだった。まぁ、良く考えればスタート地点が初心者の街でないのだから当たり前の事なのである。

「間引きの依頼が出ているのかは知らないが、言い訳としてはしていたことにしよう」

 何を持ってそう言い訳するのかは分からないが、マルティンは納得して貴族街の入り口付近に進んで行った。その辺になると、地下道に水が流れているせいで、ネズミ型の魔物は貴族街の方へ行けないし、毒蛇の魔物は平民街の方へと行くことは出来ない。

「さて、飛び越えるのに道具は、いらないよな」

 貴族街と平民街を隔てるように、地下道に流れる水を見てマルティンは考えた。乙女ゲームの時は、貴族のおぼっちゃまらしく橋を渡して水の上を渡ったのだが、冒険者となった今、そんなお上品な事などする必要がなかった。冒険者らしく動きやすい服は、廃嫡される前に馴染みの店で仕立てていたからだ。理由は簡単だ。乗馬をする時に動きやすく汚れが目立たない服を仕立てるように申し付けるだけだった。侯爵家嫡男として無様なことは出来ないからと言えば、仕立て屋が気を利かせて、転倒防止や防御の魔法陣を刺繍してくれていた。

「軽々飛び越えられる」

 貴族街の側へと飛び移ったマルティンは、辺りを警戒した。ネズミ型の魔物とは違い、毒蛇の魔物は物陰に潜んでいるのだ。

「とぐろを巻いてこっちを見てるな」

 ただでさえ暗い地下道の、さらに濃い影となっている場所に、とぐろを巻いた毒蛇の魔物がいた。しかも足音に反応しているらしく、しっかりとマルティンの方を見て舌を出して警戒していた。

「さて、どうしたものか」

 目を凝らせば1匹ではないことがすぐに分かった。毒耐性のレベルを上げたいが、一度に複数から噛みつかれては命の危険がある。

「一匹づつコチラを向かせるしかない、な」

 マルティンはいろいろ考えた結果、もう一度反対側に戻り、ネズミ型の魔物を一匹追い立てて、反対側つまり毒蛇がいる方に剣で弾き飛ばしてみた。剣ではじき飛ばしたから、当然ネズミ型の魔物は切り傷をおい、そこから血を流した。

「お、反応した」

 怪我をして動き回るネズミ型の魔物の足音と、傷から流れる血の匂いと温度に毒蛇の魔物が反応した。複数の毒蛇の魔物がネズミ型の魔物に向かって飛びかかった。ネズミ型の魔物は血をまき散らしなが逃げるが、移動速度は毒蛇の魔物の方が上だったらしく、一匹が追いつきネズミ型の魔物に噛み付いた。
 断末魔の悲鳴が非常に耳障りであったが、毒蛇の魔物を分散させる事に成功したマルティンであった。

「よし、一匹づついこう」

 マルティンが勢いよく貴族街側に飛び移ると、その着地音に反応した毒蛇の魔物が飛びかかってきた。

「よしこいっ」

 冒険者登録証を握りしめた左腕を前に出すと、毒蛇の魔物はあっさりと噛み付いてきた。

「ぐぅ」

 牙の鋭さが格段に違い、しっかりと毒蛇の魔物の牙がマルティンの腕にくい込んでいた。

「コレは、なかなか……くる、な」

 冒険者登録証に現れた紫色のエフェクトは、ネズミ型の魔物に噛まれた時よりも格段に濃かった。しかも噛まれた衝撃で耳鳴りがした。

「くそっ」

 腰の剣ではなく、魔法カバンから短剣を取り出して毒蛇の魔物の脳天に突き刺した。相手が動かないからこそ、確実にとどめがさせるというものだ。
 よろけながらも足元に他の毒蛇の魔物が居ないことを確認し、マルティンは絶命した毒蛇の魔物を確認した。マルティンの腕に噛み付いたから、当然その牙には赤い血が付いているが、牙の根元からは黒っぽい液体が滲み出ている。

「これがこいつの毒か」

 地下道の壁にある小さな隙間に毒蛇の魔物が刺さったままの短剣を差し込んで、マルティンは魔法カバンから毒消しのポーションを取りだした。そして、冒険者登録証を確認しながらゆっくりと傷口に毒消しのポーションを垂らした。傷口に染み込むように毒消しのポーションを垂らしていけば、後頭部に痺れるような感覚が来て、ゆっくりと傷が塞がっていった。

「少し、上がったな」

 傷口は塞がり、毒状態も解除されたものの、まだ頭がクラクラする。次の一匹に見つかれば、他の毒蛇の魔物たちにも見つかることだろう。

「とりあえず、コイツを持ち帰っておくか」

 短剣に刺さったままの毒蛇の魔物をそのまま魔法カバンにしまい込むと、左腕の袖を直してマルティンは地下道を平民街の方へと移動したのだった。
 そして冒険者ギルドで昨日と同じようにネズミ型の魔物の討伐依頼の報酬を受け取り、【ネコのシッポ】に早々に引き上げるのだった。

「風呂に入るにはどうすればいいだろうか?」

 【ネコのシッポ】で夕食を取りながら、マルティンは女将に聞いてみた。浄化の魔石を拝借してきているから清潔な状態を保つことはできるけれど、今まで貴族として毎日風呂に入る生活を送ってきて、まして前世日本人としての記憶もあれば、風呂に入れないのはなかなか辛いものである。

「水浴びでいいなら冒険者ギルドの地下にあったはずだけど」

 女将はそんなことも知らないのか。といった顔で答えた。だがしかし、マルティンが望んでいるのは風呂であって水浴びではない。冒険者ギルドの地下で水浴びができることぐらい知っている。基本は解体の作業をする者たちが魔物の血を洗い流すために設置された施設で、金を払えば冒険者も利用することができる。ただ、本当に水浴びで、手押しポンプで流れ出る水を頭からかぶるだけの設備なのだ。

「いや、お湯の張られた浴槽に入りたいんだ」

 マルティンが自分の希望を伝え直すと、女将は改めてマルティンのことをじっくりと見た。もちろん、女将はちゃんと知っているのである。フィルナンドから直接交渉されてマルティンの部屋の寝台だけを取り替えたことも、泊まり客を極力取らないようにすることも、女将は了承済みなのである。先払いで金貨を渡されてしまえば断る理由がなかった。マルティンの部屋を一番奥にして、手前の部屋に常連の女冒険者を泊める事にしたのも女将の采配である。

「それなら娼館に行くしかないかねぇ」
「娼館?」

 とんでもワードを聞かされて、マルティンは危うく食事を吹き出しそうになった。

「あんたみたいな綺麗な顔をした男が公衆浴場に行ったら勘違いされちまうよ。身の安全を考えるなら娼館しかないねぇ」

 女将に笑いとばされて、マルティンは改めて自分の顔を鏡で確認するのだった。

 

 
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

俺はモブなので。

バニラアイス
BL
冷酷な第二王子×悪役令息の取り巻きモブの話です! ちなみにモブが溺愛されます! 初めて書くので誤字脱字お許しください💦 似ている作品があるかもですが先に謝っておきますごめんなさい🙏💦

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

乙女ゲームで強悪役な俺が人外攻略達とハーレムになりました

鮎田
BL
操り人形屋敷の悪役令息に生まれ変わった転生少年。 悪役令嬢の姉二人に挟まれながら、一人で生きていくためにレベルを上げ続けていた。 乙女ゲーム開始の一ヶ月前、事件は起きた。 魔術学園で力を隠して目立たないようにひっそりと暮らしていた。 攻略キャラクターはまだ動かないとのんびりしていたら、魔術学園の先生として赴任してきた。 騎士団長、副団長、執事、謎の商人、双子暗殺者全てが人外先生となる。 悪役令嬢のヒロインと結ばれるはずが、俺に構いすぎていてなにか可笑しい。 強レベルの悪役令息は最強レベルの攻略キャラクター達に愛されて逃げ出した。 自分が弱いんじゃなくて、お前らが強すぎるだけだろ! 人外六人の攻略キャラクター×強キャラ悪役令息 学園の姿と外の姿、二つの顔を持つ彼らは魅了レベル強キャラ少年を逃さない。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼不定期連載となりました。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...