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第7話 僕の計画の邪魔するやつは許さない
しおりを挟む「マルティン、最高だったぁ」
ペトモル伯爵邸の自室に戻ったフィルナンドは、深夜であるにもかかわらず、大きな声で叫んでいた。
「フィルナンド様、はしたないです」
すぐさまたしなめてきたのはフィルナンド付きのメイドのジョアンナだ。
「もう、ジョアンナってば聞いてよ。マルティンはね、童貞だったんだよ。あの女とやってなかったの。本当に良かったよ。僕のマルティンが汚されていなくって」
ジョアンナの話なんか聞いちゃいないフィルナンドは、クッションを抱き抱えて身悶えていた。
「フィルナンド様、そのような言葉を口にしてはいけません」
ジョアンナがまたもやたしなめるが、聞いてなどいない。そもそも僕のマルティンではないだろう。と突っ込む人は誰もいないし、どちらかと言うとマルティンを汚したのはフィルナンドである。
「マルティン、冒険者になってたんだよねぇ。すっごくかっこよくなってた。まぁ、前からかっこよかったんだけど、割れた腹筋が凄かった。本当はさぁ、そこに擦り付けたかったんだけど、そうすると動きにくいから我慢したんだよね」
クッションを抱きしめたままフィルナンドは先程の行為を思い出してポォっとした、顔をした。もちろん、メイドのジョアンナからしたら『はしたない』としか言いようがないのであるが、もう言っても仕方がないと悟ってしまったらしく、ジョアンナは眉ひとつ動かさないで部屋の隅に棒立ちである。
「マルティンの為に作ったポーション、役にたってよかったよ。今夜は僕のつくったポーションを飲んでマルティンが寝るでしょ……ふふ、僕のつくったポーションがマルティンの体に入り込んで……ふふふふ」
何を想像したのかは分からないが、先程よりももっと『はしたない』顔をしてフィルナンドはクッションを抱きしめたまま天井を見つめた。
「でも、マルティンの部屋のベッド、ちょっと狭かったんだよなぁ」
「仕方がありません。平民街の宿屋です」
「ふたりで寝るには狭いんだよ」
「平民街の宿屋の寝台は一人用でございます」
「二人で泊まる事だってあるじゃない」
口を尖らせてフィルナンドが文句を言うと、ジョアンナはやれやれと言った顔をした。
「フィルナンド様、二人で泊まるような場合は上級の宿に泊まります。2人部屋でしたら寝台が二つございます」
ジョアンナがとても当たり前のことを口にした。
「マルティンが二人部屋なんかに泊まるなんて許せない」
フィルナンドがキッとした顔でジョアンナを睨みつけた。
「ですから、一人部屋なんですから寝台が狭いのは仕方がありません。急遽入れ替えたものですが、ペトモル伯爵邸のゲスト用に御座います」
ジョアンナが、しれっと答えたことはカナリとんでもない内容である。
「まぁ、スプリングがきいていて使い心地は良かったよ。マルティンが粗末な寝台で休むなんて僕が耐えられないからね」
フィルナンドはなんでもないことのように口にしているけれど、寝台ひとつを入れられる魔法カバンは大変高価な物である。それを使って、下町の宿屋の寝台とペトモル伯爵邸の寝台を入れ替えたのだ。それはもう動き回された騎士たちのおお仕事である。もちろん、冒険者ギルドに現れた貴族に仕えるメイドはここにいるジョアンナだ。金貨一枚で情報を聞き出し、素早く処理をする。有能な側仕えとして至極当たり前のことをジョアンナはしたまでである。流石に冒険者との直接交渉は騎士たちに任せたものの、現場を仕切ったのはジョアンナだ。フィルナンドが何を望むのかを瞬時に想像し、フィルナンドの気持ちが済むように処置をする。
「流石に毎日は通えないよねぇ」
フィルナンドがそう呟けば、ジョアンナの片眉が動いた。
「進言させていただきます」
部屋の隅からジョアンナがフィルナンドのそばにまでやってきた。
「フィルナンド様。マルティン様は平民になられたばかりでございます。聞いたところによりますと、国王陛下の宣言を聞いた途端に王の間から走り去られたとの事。余程貴族のしがらみがお嫌でいらっしゃった事と思われます」
ジョアンナの話を聞いてフィルナンドは小さく頷いた。
「その足で真っ直ぐに冒険者ギルドに向かわれ、かつ、阻害認識の効果のあるマントや切れ味のよろしい剣を持たれていたのは、こうなることを予想されていたとしか思えません」
「そうだね。僕もそう思うよ」
当然のことだが、マルティンが大好きなフィルナンドは、学園にいた時は暇さえあればマルティンの観察をしていた。もちろん、自分の騎士にマルティンの動向を探らせていたことは言うまでもない。ただ、学園を卒業してすぐに婚約破棄の手続きが行われるとは思っていなかった。しかも、まさかのマルティンの廃嫡である。
「国王陛下はマルティンが、目障りだったって事だよね」
「フィルナンド様、お言葉が過ぎます」
慌ててジョアンナが咎めるが、フィルナンドは気になどしない。
「よっぽどアンテレーゼを皇太子妃にしたいと見える。その際に、アンテレーゼが誰かさんのお下がりなんて言われたくないだけなんだよ」
フィルナンドは胃のあたりがムカムカして仕方がなかった。何しろフィルナンドの大切なマルティンを、まるでゴミクズみたいに捨てたのだ。素行がどうこうだろうと、マルティンはギンデル侯爵家の嫡男だったのだ。それを国王の采配で廃嫡とは随分と乱暴な決断である。そもそも、マルティンが学園内で貴族らしからぬ行動を取っていた。と言うのなら、ほとんどの生徒がそうである。授業中は真面目に取り組むが、それ以外の時間は監視の目がないから自由気ままに過ごす生徒ばかりだった。フィルナンドが知る限り、マルティンは自分の婚約者を監視していただけである。其れが貴族らしからぬ行為だと言うのなら、婚約者に咎められる行為をしていたアンテレーゼはなんだと言うのだろう。
「あの女がそんなに欲しいのかなぁ」
フィルナンドは記憶にあるアンテレーゼの姿を思い出してみた。確かに貴族の令嬢らしく白く滑らかな肌をしていて、よく手入れされているであろう髪は光沢があり滑らかだった。皆とおなじ制服を着てはいたが、その腰はほっそりとしていて男なら抱きしめたいと思っただろう。
そんなアンテレーゼだったから、アチコチの子息たちが学園内のサロンにアンテレーゼを誘っていた。そしてアンテレーゼは婚約者がいるにもかかわらず、一人でそのサロンに赴いていた。だから婚約者であるマルティンに、咎められていたのだ。それを知っているフィルナンドだからこそ、貴族にあるまじき行為をしていたのはアンテレーゼだと思うのだ。サロンに赴いただけ、社交をしていただけ、と言うのなら、一言婚約者であるマルティンに断るのが貴族としての行動である。それを怠り続けたアンテレーゼとアンテレーゼをサロンに誘った子息たちのほうが貴族らしからぬ行為をした者たちなのではなかろうか。
「まぁ、そのおかげでマルティンからあの女が離れたから僕は万々歳だけどねー」
フィルナンドは嬉しさのあまり声を上げて笑った。廃嫡されたおかげで、マルティンに新しい婚約者があてがわれることは無い。ついでにいえば、ギンデル侯爵も国王陛下も、もうマルティンに命令をすることが出来ないのだ。自由になったマルティンに、フィルナンドが何をしてもだれにも文句は言われない。
「待っててね。マルティン。僕は必ず男の子宮を復活させるポーションを作ってみせるからね」
高らかに宣言をするフィルナンドをそばで見ていたジョアンナが冷めた目で見つめていた。
「フィルナンド様、またそのような戯言を」
ジョアンナの声が耳に届いた途端、フィルナンドがジョアンナを思いっきり睨みつけた。
「戯言じゃないから!1000年ほど前は貴族の男は妊娠して後継を自分で産んでいたの。今でもその名残の子宮が貴族の男にはあるんだからね。女になんか頼らなくても子孫繁栄してたんだから」
女であるメイドのジョアンナにずいぶんな暴言吐くフィルナンドではあるが、それが間違いのないことなのでジョアンナも否定することは出来なかった。
「女に産ませたら誰の子種か分からないじゃない。だから僕は僕の子宮でマルティンの子を産むんだからね」
ギュッと、両の拳を握りしめフィルナンドは違うのであった。
もちろん、メイドのジョアンナがずっとフィルナンドの部屋に遮音の魔道具を発動させていたのは言うまでもない。
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