13 / 27
第14話 初の指名依頼も僕のもの
しおりを挟む「今日はよろしくね。マルティン」
ニコニコと笑いながらフィルナンドはマルティンの腕にしがみついてきた。依頼主と依頼を請け負った冒険者の関係であるから、マルティンはフィルナンドを払い除けることなんてできるはずがない。もっとも、こんなことは学園時代日常茶飯事であったので、マルティンは何も気になどしてはいなかった。
「依頼内容は……採取時の護衛?」
受付嬢アンナから渡された依頼書を確認して、マルティンは不思議そうにフィルナンドの後ろに立つ騎士を見た。どう見てもフィルナンドのペトモル伯爵家から一緒にやってきたフィルナンド付きの騎士にしか見えないのだが、そんな騎士が二人もいるのにわざわざ冒険者ギルドに依頼を出して、マルティンを護衛にする意味が分からない。
「あのね、マルティン」
怪訝そうな顔をしたマルティンに、フィルナンドはソッと耳打ちをした。
「ああ、そういう事か」
フィルナンドの依頼の内容を理解したマルティンは、依頼書を魔法カバンにしまうと、すぐにフィルナンドを連れて冒険者ギルドを出ていった。もちろん、騎士たちも無言で後に続く。冒険者ギルドを出て裏手に回ると、そこには馬を連れた騎士が待機していた。
「マルティン、これが僕の馬だよ」
フィルナンドが嬉しそうに馬の手綱を掴むので、マルティンは少し目を細めて馬を見た。
「学園にいた頃からの馬だな。名前は確か、ユユだったか?」
栗毛の牝馬は、学園にいた頃からフィルナンドが乗っていた馬で、マルティンがよく乗馬に付き合っていたものだ。
「さすがは僕のマルティンだね。ちゃんと名前を覚えてる」
フィルナンドが嬉しそうにはしゃぐものだから、控えている騎士が少し慌てた様子を見せたが、ユユはそんなフィルナンドになれているため大人しいままである。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
至極真っ当な質問をマルティンがしたものだから、フィルナンドは唇を尖らせてマルティンの胸の当たりをゆびで押した。
「もぉ、マルティンってば堅物なんだから、いままでどおり、僕とタンデムに決まってるでしょ」
フィルナンドがそう答えると、騎士の顔があからさまにゆがんだ。もちろんその顔はマルティンにしか見えないため、フィルナンドは気がついてなどいない。
「わかった」
騎士のあからさまな態度を見ても、マルティンは特に何も言わなかった。いや、平民となり冒険者を家業としているのだから、騎士にどんな態度を取られても仕方の無いことなのである。
「ふふふ、マルティンに守られてる感じするよね」
フィルナンドの愛馬ユユにつけられている鞍は2人乗り様の特注品である。つまり、学園の頃からマルティンはこのようにしてユユに乗っていたのであった。
「素材の場所はマルティンしか知らないでしょ?」
ユユに揺られながらフィルナンドは背後のマルティンに話しかけた。
「お前に渡した本の内容なんか、もう忘れたよ」
ぶっきらぼうに答えるマルティンであるが、学園の頃、何度かユユに乗ってフィルナンドが欲しがるポーションの素材を王都の外に取りに行った事があるのは確かだった。もちろん、その頃はマルティンも侯爵家嫡男であったから、護衛の騎士を何人も引き連れていたことは言うまでもない。
「マルティンのそんなところがだーい好き」
フィルナンドが背後に座るマルティンに無理やり抱きつこうとするから、バランスが崩れる。だが、マルティンが体勢を崩してフィルナンドに怪我をさせる訳には行かないので、マルティンは手綱を掴んだままフィルナンドの好きにさせるしか無かった。
「やっぱり、こうやってマルティンの顔を見つめたいよね」
安定性とか安全性などフィルナンドには関係ないらしい。それどころか後ろ向きに移動することに対して三半規管がなんともないようで、マルティンは呆れつつもそのまま受け入れるしか無かった。もっとも、二人ナンドが後ろをずっと見ることになってしまったため、騎士たちは無表情にならざるを得ない事になったことは言うまでもない。
「『天使の雫』だぁ。すっごい綺麗」
フィルナンドが求めていた素材とは、虹色の輝きを放つ葡萄である。もっともこの世界の認識から言うと果物の葡萄に似た形をした素材と言う扱いになる。乙女ゲーム的にはアイテムの扱いになるで、マルティンの魔法カバンに納めることは簡単なことだった。
「で?この魔法袋にひと房づつだったな?」
「うん、そう」
マルティンよりも背の低いフィルナンドは、随分と背の高い木のはるか上に実る美しい『天使の雫』を見上げていた。
「首が疲れるぞ」
そう言い残し、マルティンは器用に木を登る。貴族が木登りだなんて有り得ない行為なので、こうやって冒険者を雇って素材を採取させるというわけだ。まぁ、学生時代もマルティンが木登りをしていたのではあるけれど。
「チャント見張っててよね」
フィルナンドは護衛騎士に向かってキツイ口調で命令をしていた。実はこの『天使の雫』はとても貴重な素材である。上級のポーションに使われる素材であるが、とにかく採取の方法が難しい上に、見つけにくい素材であるため、滅多に手に入る素材ではないのである。だから、発見した場合、他の者に奪われないように厳重に見張りを立てて、採取する必要があるのだ。
マルティンは木の上で自分の身体を固定するようにベルトを木に巻き付けると、ひと房づつ魔法袋に入れてからその房の枝を切った。もちろん、枝を切る為の道具はハサミである。マルティンが、まだギンデル侯爵家嫡男であった頃に工房に作らせた品だ。この世界の刃物と言ったらナイフや剣、包丁と言った片刃の刃物ばかりであったから、それを応用して作らせたのである。もにろん、作るためにはそれ相応の技術が必要ななので、今のところハサミを所有しているのはマルティンとフィルナンドだけとなる。
「採れたぞ」
スルスルと木を降りてマルティンはフィルナンドの前に立った。多少木の小枝や葉が体に着いてしまってはいるが、そこは気にしない。
「ありがとう。マルティン」
「仕事だ」
ぶっきらぼうに返事をしつつ、マルティンは魔法カバンから『天使の雫』をひとつ取り出した。
「ほら、口を開けろよ」
言われてフィルナンドは素直に口を開けた。そこにマルティンが一粒押し込んだ。
「ぅんう、美味しい」
さすがにとりたての美味しさは各別で、フィルナンドは頬を押さえてその美味しさを堪能する。
「お前の用意した魔法袋十個分は別にある。とりたてを口にできるのは自分へのご褒美だな」
そんなことを言いつつ、マルティンも『天使の雫』を一粒口にした。甘く爽やかななんとも言えない果汁が口いっぱいに広がり、果実は噛むことなく口の中で溶けるようになくなって言った。
「何回食べても不思議な食べものだよね」
ひと房を全て食べ尽くした後、フィルナンドはハンカチで口元を拭った。そう、学生時代からなんかいかマルティンに採取してもらっていたからだ。もちろん、マルティンがこの場所を知っていたのは乙女ゲームの知識である。
「ほら、お前の魔法カバンに移すぞ」
マルティンに催促され、フィルナンドは自分の肩掛けカバンを開いた。フィルナンドは伯爵家嫡男であり、薬師ギルドの副所長でもあるから、いかにもな魔法カバンを所持しているのである。
「ありがとう。これで依頼達成だよね」
嬉しそうにマルティンに抱きつこうとするフィルナンドを受け止めながら、マルティンはため息混じりに答えた。
「無事に帰るまでが依頼だ」
48
あなたにおすすめの小説
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
俺はモブなので。
バニラアイス
BL
冷酷な第二王子×悪役令息の取り巻きモブの話です!
ちなみにモブが溺愛されます!
初めて書くので誤字脱字お許しください💦
似ている作品があるかもですが先に謝っておきますごめんなさい🙏💦
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
乙女ゲームで強悪役な俺が人外攻略達とハーレムになりました
鮎田
BL
操り人形屋敷の悪役令息に生まれ変わった転生少年。
悪役令嬢の姉二人に挟まれながら、一人で生きていくためにレベルを上げ続けていた。
乙女ゲーム開始の一ヶ月前、事件は起きた。
魔術学園で力を隠して目立たないようにひっそりと暮らしていた。
攻略キャラクターはまだ動かないとのんびりしていたら、魔術学園の先生として赴任してきた。
騎士団長、副団長、執事、謎の商人、双子暗殺者全てが人外先生となる。
悪役令嬢のヒロインと結ばれるはずが、俺に構いすぎていてなにか可笑しい。
強レベルの悪役令息は最強レベルの攻略キャラクター達に愛されて逃げ出した。
自分が弱いんじゃなくて、お前らが強すぎるだけだろ!
人外六人の攻略キャラクター×強キャラ悪役令息
学園の姿と外の姿、二つの顔を持つ彼らは魅了レベル強キャラ少年を逃さない。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる