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第23話 攻略できたの
しおりを挟む「信じられないわ。こんなのズルよ、ズル」
ウィンステン侯爵家の自室にて、アンテレーゼは癇癪を起こしていた。なぜなら、王家から重大な発表があるから貴族は全員王城に来るようにという召喚状が届いたからである。こんな中途半端な時期に重大発表なんてそもそもおかしい。ついでに言えば招待状ではなく召喚状だ。お越しください。ではなくて、必ず来い。なのである。
「一体誰が?ヒロインである私を出し抜いたのは誰なのよ」
ギリギリと親指の爪を噛み、アンテレーゼは鬼の形相である。王太子妃候補筆頭と囁かれていたアンテレーゼに対して召喚状を送り付けてくるだなんて、それはすなわちアンテレーゼが王太子妃候補から外れた事を意味するのだ。
「何をしてるの、アンテレーゼ」
まるで優しさの欠片も持ち合わせていない声でアンテレーゼを呼んだのは、他ならぬ母であった。いつの間にかにアンテレーゼの部屋に入ってきて、睨みつけるような目でアンテレーゼを見ている。
「お母様……」
慌てて口から親指を外すが、それ以前に部屋の中の惨状が酷い。部屋のあちこちに落とされたクッション、割れてはいないがテーブルから落とされたティーカップ、腹立ち紛れに蹴り倒した化粧台の椅子。花瓶が倒れ水がこぼれ花が床に落ち、椅子が倒れた反動で化粧台の上の化粧品が床に散乱している。怯えたメイドたちが壁際に肩を寄せあって震えていた。
「アンテレーゼ、あなたは一体、何をしているのかしら?」
ゆっくりと含みを込めた言い方にアンテレーゼは息を呑んだ。マルティンとの婚約破棄以来、どうにも母親のアンテレーゼに対する態度がおかしいのだ。乙女ゲームのヒロインであるアンテレーゼは、引く手あまたの令嬢となり、王太子妃候補筆頭として社交界の華として君臨するはずであるのに、なぜだかどこのサロンにも母親はアンテレーゼを連れて行ってはくれないのだ。だから、アンテレーゼは父親が受けた招待のついでの扱いで社交界に参加するしかないのだが、学園を卒業したアンテレーゼ個人宛に招待状が届かないことに対して不満しかないのである。
それなのに、母親はアンテレーゼに新しいドレスを仕立てることを良しとしない。それどころか、部屋で大人しくしていなさい。とまで言い出す始末だった。そして、父親とパーティーから帰宅する度に盛大なため息をつかれてしまうのだ。一体何が不満なのか。不満なのはアンテレーゼの方だと言うのに。
「お母様、何ではありません。召喚状が届いたのですよ」
ヒステリーを起こす寸前のところで踏みとどまり、アンテレーゼは今しがたメイドから渡された王城からの召喚状を母親に見せた。
「この程度のこと、既に承知です。アンテレーゼ、お前は自分が何をしでかしたのか分かっていないようですね」
母親が手にした扇でアンテレーゼの頬を叩いた。軽く当てるような感じではあるが、アンテレーゼにとっては充分に屈辱的な出来事であった。
「お母様?」
胸の内に激しく渦巻く憎悪を押さえつけて、アンテレーゼはかろうじて母親を呼ぶに留まった。それ以上の言葉を紡ごうとすれば、目の前にいる母親を罵倒してしまう未来しか見えない。
「あなたは、一体何をしているのかしら?八つ当たり?そんなことをしていい立場にいるとでも思っているの?ギンデル侯爵家との婚約が破棄されて、王太子妃候補に本当になれたと思っているのですか?」
母親の言葉は、一言一言がまるで苦虫を噛み潰したような感情を含んでいて、アンテレーゼの耳に届いた。そんな言葉だからこそ、聞いていて不愉快に気持ちにしかならない。
「何を仰られているのですか、お母様。当たり前ではありませんか、私は侯爵令嬢ですのよ。婚約者のいない歳頃の貴族令嬢の中で私が一番身分が高いではありませんか。それに、王城では何度も王太子殿下とはティータイムを過ごしております」
アンテレーゼの反論を聞いて、母親であるウィンステン侯爵夫人の頬が引きつった。
「それです。それを咎められての婚約破棄だったとなぜ思わないのですか」
「お母様のおっしゃっていることこそ、わたしには分かりませんわ。国王陛下の名のもとに交わした婚約ですもの。国王陛下が不要とみなしたから、婚約が破棄されたのではないのですか。その証拠にギンデル侯爵家のマルティンは廃嫡されたではありませんか。私に意地悪をしたからに他なりません」
アンテレーゼが強い口調で言い返せば、母である夫人は深いため息をついた。
「お前は何も分かってなどいないのです。貴族社会の複雑さを」
そう言って頭を何度か左右に振ると、アンテレーゼを見て再び口を開いた。
「召喚状の通りに明日は王城に向かいます。貴族令嬢らしい服装を心がけなさい。お前たち、くれぐれも粗相のない装いをアンテレーゼにするのですよ。分かりましたね」
ウィンステン侯爵夫人はキツイ口調で命令をすると、アンテレーゼの部屋を後にしたのだった。
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