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第22話 純潔のケツは
しおりを挟む「分かりやすく言えば処女性のことですね」
聖騎士ラインハルトが実にあっさりと答えてくれた。それはもう、そんなこと大した話じゃないですよ。的な感じで、さも当たり前のように口にした。実際当たり前の話なので、フィルナンドは大きな瞳をさらに大きくして驚いていた。
「心配するでない聖女よ。聖女の純潔は我が守ろうぞ」
フェンリルがそういえば、すぐに対抗意識を持つのはフィルナンドである。
「そうだよ。マルティン。マルティンの純潔、つまりはお尻は僕が死守するからね」
そんなことを言って、さりげなくフィルナンドの手がマルティンの尻を掴む。
「な、なんだ」
驚いてマルティンがフィルナンドを見れば、フィルナンドは爽やかな笑顔を浮かべてマルティンを見た。
「ここにいる全員がマルティンの純潔を守るから、心配しないでね」
フィルナンドが念を押すように言えば、全員が深く頷いたのだった。
「純潔を守るって、具体的には?」
恐る恐るマルティンが聞いてみれば、最初にふふんと鼻を鳴らしながら答えたのはフェンリルである。
「いいかよく聞け聖女よ。まず、我の聖魔法によってお前に汚らわしい感情を抱いた男は近づくことができないようになっている」
マルティン以外の全員がうんうん頷いているが、なんだかちょっとわからない。
「もちろん、物理的には我々聖騎士がお守りいたします」
ラインハルトが補足するように言えば、フェンリルがふんっと鼻を鳴らした。
「もちろん僕はぁ、ポーションを作るよ。聖女は各地で祈りを捧げて穢れを祓うのがお仕事だからね。魔力も相当使うだろうから、疲労回復も兼ねた魔力回復のポーションは必要だよね」
フィルナンドがそんなことを言えば、地質学者サージアスが補足するように話をする。
「私は主に国からの依頼を受けて調査を行いますが、フェンリル様の許可を得られましたので、聖女様のお仕事のサポートをさせていただきます。つまり、穢れの発生した地域の調査です。教会内にある地図に特殊な魔道具を当てますと、穢れが発生した地域が特定できるのです」
それを聞いたとき、マルティンの記憶がまた一つ蘇った。乙女ゲームでは、サージアスが仲間になっていると事前に穢れの発生する地域が特定できたので、穢れが小さいうちに現地に到着して戦闘に入れたのだ。逆に、サージアスがいないと穢れ発生の報告を受けてから移動するため、到着した時に穢れが大きくなっていて戦闘が長引くことになっていた。何回かそんなことを繰り返しているうちに、闇落したフェンリルと戦闘をして勝利し、聖女になるというのが乙女ゲームの流れだったのだが、マルティンは最短も最短のルートを進んでしまったようだ。
「なるほど。それなら俺は冒険者になっていて正解だったな。毒耐性があるから多少の穢れは何とかなるだろう」
マルティンがそんな返事をしてしまったものだから、フィルナンドが心底がっかりした顔をした。だが、マルティンはそれをみなかったことにして、話をもとに戻した。
「で?俺の純潔って狙われてるの?」
問題はそこである。絶対に確認をしなくてはならないところだ。
「もちろんです。聖女様の純潔は常に狙われております。何しろ聖女様と交われば不老不死、無病息災など真偽不明の噂が飛び交っておりますからね。権力者たちに狙われているのです」
それを聞いてマルティンは背筋が寒くなった。
(俺男なのに抱かれちゃうの?)
率直に考えれば貞操の危機である。しかも複数の権力者とか、笑えない話である。実際、フィルナンドが寝込みを襲ってきて童貞は奪われている。だがしかし、冷静に考えればわかりそうなものなのだが、誰もが完全に忘れ去っていたのだ。
マルティンは聖女だけれど男である。
男から積極的に純潔を奪おうとする権力者がいるだろうか?普通に考えたらいるはずがないのだ。ましてやここは乙女ゲームの世界である。そもそも乙女ではないマルティンがヒロインポジションについたからと言って、純潔が狙われるなんてそんなのおかしいのである。ある意味、アンテレーゼの指摘は至極全うなのだ。
だがしかし、誰一人気が付いてなどいないのが現実なのであった。
「それに、聖女が産んだ子は奇跡の子として崇められますから」
さらにラインハルトが追い打ちをかける。奇跡の子、つまりあらゆる能力を有した全能の子が生まれてくるということなのだ。
「いや、俺男だから」
そこでようやくマルティンが結論を口にしてみたが、フェンリルがふんっと鼻を鳴らした。
「何を言っているのだ聖女よ。男であろうとも聖女なら子が成せるであろう」
それをきいてマルティンの顔が青ざめた。
「いや、俺男ですけど?」
マルティンがいやいやと首を振ると、またもやフェンリルがふんっと鼻を鳴らした。
「ここに子宮があるのだ。子をなせるであろう」
そう言って、鼻先をマルティンの下腹に押し付けてきた。
「はい、そこまでー」
そう言ってフェルナンドがフェンリルの鼻先を押しのけた。
「残念でしたー。千年前と違って男の子宮は退化して妊娠できないんですぅ」
「なんだとっ」
驚いたフェンリルが再びマルティンの下腹に鼻先を押し付けてきた。
「むぅ、確かに機能していないではないか。これでは確かに聖女であっても子を成すことができぬではないか」
ぐぬぬぬぬっとフェンリルが頭を抱えた。とはいっても前足で頭をはさんだだけなので、なんともかわいらしい姿ではあるのだけれど。
「うむわかった。案ずるな聖女よ。我は子を成すことができるフェンリルぞ。あの時助けてもらった子らは300年ほど前の聖女が産んだ子ではあるが、今世は我が聖女の子を産んでみせよう」
さも名案だとばかりにフェンリルは嬉しそうに尻尾を振った。その姿はどう見ても威厳のある聖女の守護者フェンリルではなく、飼い主にかまって欲しくて尻尾を振っている大型犬である。
「駄目ですー」
そこに割って入ってきたのはもちろんフィルナンドである。
「なにがダメなのだ」
「マルティンの子を産むのは僕なの」
「お前先ほど男の子宮は機能を失っていると言ったばかりではないか」
「そこですー、それですー」
そう言ってフィルナンドは一冊の本を取り出した。もちろん魔法カバンにしまってあったことは言うまでもなない。
「これはぁ、僕がマルティンにもらった結納の品です」
誇らしげに掲げられた一冊の本は、確かにマルティンがフィルナンドに渡したポーション生成の本である。ギンデル侯爵家の倉庫の奥深くにしまわれていたいわゆる古書だったものだ。古い本なので、言い回しが難しく、更には材料の表記も昔の名称だったりして、読み解くことがなかなか難しい一冊である。
「そう、結納の品ということは、僕とマルティンは婚約関係にあるということでーす」
そう言ってフィルナンドはマルティンにしなだれかかった。もちろん、マルティンも覚えている。確かにそんなことを言って本と魔道具を押し付けるようにしてペトモル伯爵家を後にした記憶がちゃんとある。あの頃は、思い出した記憶を何とかしたくて、思い出した順に片っ端から処理をしていたのだ。
「しかも、この本のここ、ここにはなんと!子宮の機能を回復させるポーションの生成方法が書かれているんだよ。ねえ、マルティン」
なんて言ってフィルナンドはマルティンにキスをした。もちろん頬っぺただ。
「結納の品にこんなものを贈るだなんて、マルティンはおませさんだよね。でもね、僕。マルティンの期待にちゃんと応えるから心配しないで。もうすぐポーションが完成するから。そうしたら、僕たち結婚しようね?」
ここにきてとんでも発言である。
「何を言うか!聖女の純潔を守るのではなかったのか」
焦るフェンリルの鼻先をつついてフィルナンドは余裕の笑みを浮かべた。
「何言ってるのさ、マルティンの子を産むのは僕・だ・よ」
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