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第24話 召喚状の内容は如何に
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王城の一室で、アンテレーゼはイライラが募っていた。召喚状で呼び出されたと言うのに、貴族たちは未だに控えの間で待機させられていたからだ。しかも椅子もテーブルもなく、立ったままでの待機である。対して広くもない部屋に、貴族の階級ごとにまるで押し込められるようにされたとあって、アンテレーゼは屈辱でいっぱいだったのだ。
もちろん、見知った貴族は何人もいるのだけれど、誰もアンテレーゼに話しかけてなど来ないのだ。母親は黙って壁際にたたずみ、扇で口元を隠した姿勢をとり、周りへ拒絶の態度をしめしていた。侯爵である父親は他の侯爵と何かを小声で話し込んでいる。小さな塊がいくつもできていると言うのに、アンテレーゼだけが何処にも属することが出来ないまま、時間だけが過ぎていった。
「広間にお移り下さい」
扉が開け放たれ、侍従が大きな声で宣言した。扉の近くにいる者からゆっくりと移動が開始される。ずっと閉められていた堅苦しい扉が開け放たれて、ようやく息ができる。そんな心境になったアンテレーゼを母親が鋭く睨み付けてきていた。思わずアンテレーゼは背筋を正し立ち止まる。
「最後までお待ちなさい」
父親はとっくに出ていったというのに、アンテレーゼは母親に制止され立ち止まる。他の貴族の令嬢たちが横目でアンテレーゼを見ていくのがなんとも屈辱的であった。
そして集められた広間は普段は王家主催のパーティーなどが開催される一番格式の高い広間であった。王族が座る玉座には誰もおらず、誰も近づけないように騎士たちが隙間なく並んでいることしか見えなかった。
「国王陛下の御成です」
高々と響く宣言が聞こえ、両開きされた扉から国王が入場してきた。その後に続くのは王妃とその子ども達。広間に集まった貴族たちは全員が頭を下げ、国王陛下の言葉を待つ。
「面を上げよ。これより我が国の大事を話す」
頭をあげた貴族たちは国王の言葉を聞いて、ただ事ではない事が起きるのだとソワソワとした気持ちを押し隠しながら国王を見た。なぜなら国王が玉座に座っていないからだ。
「聖女様のご入場です」
侍従がふたたび高らかに宣言をした。国王陛下が頭を下げるから、貴族達もそれに習う。聖女の正体を知っているアンテレーゼは不愉快な気持ちが溢れてきて、とても頭を下げる気持ちになどなれなかった。けれど、隣に立つ母親に頭を押さえつけられて、否応なしに床を見させられてしまった。
「お前は本当にろくなことをしない」
耳元で母親のきつい声が聞こえた。何を言っているのだろうか?アンテレーゼは頭を押さえつけられたまま、隣の母親を睨みつけた。ろくなことをしていないのはマルティンの方である。ズルをしてアンテレーゼから聖女の肩書きを奪ったのだ。
「面を上げよ。我は聖女の忠実なる下僕にして守護神フェンリルである」
まるで脳裏に響き渡るかのようなフェンリルの声が聞こえ、国王も貴族も慌てて頭をあげた。玉座の前には白いフワフワとした衣装に身を包んだマルティンが立っていて、その前に立派な体躯をしたフェンリルがまるで仁王立ちするかのごとく集まった貴族たちを見下ろしていた。マルティンの隣に立つのはフィルナンドで、マルティンの左腕に自分の腕を絡めるようにしていた。
「皆の者、喜ぶがいい。我が国に聖女様が現れた」
国王がそう宣言したところで怒号のような歓喜のようなそんななんとも言えない声がうねりのように上がった。もちろんアンテレーゼは怒りに満ち溢れた目でマルティンを睨みつけるが、周りには大勢の貴族がいる。かき分けて突進するなんてことはとてもじゃないけれどできるわけが無い。何より、母親が鋭い眼差しでアンテレーゼを見ているのだ。なんなら、手にした扇がアンテレーゼの唇に当てられていた。
「聖女のお名前はマルティン様。慈悲深い心を持ち自らの身体が傷付くことを恐れずに闇落ちしていたフェンリルを覚醒に導かれた」
誇らしげにマルティンの偉業を讃えたのは聖騎士のラインハルトである。腰の剣を抜き胸もとに当てるようにして宣言をするのは聖女への忠誠の証である。その光景を目の当たりにして、アンテレーゼの心の内にまたもや憎悪の念が湧き上がった。だが、アンテレーゼが感情の赴くままに一歩踏み出そうとした時、広間に集まった貴族たちが歓声を上げたのだ。その声はただしく聖女マルティンを讃えるものであったから、アンテレーゼは気圧され体が縮こまる思いをした。もちろん、そんな時でも隣に立つ母親は鋭い目でアンテレーゼを見ていた。
「皆の者、よく聞いて欲しい」
聖騎士ラインハルトの次に口を開いたのは国王だった。玉座に座らず立ったまま話をする国王を見れば、聖女がどれほどの存在なのか言わずとも知れずと言うものである。
「古来より、聖女と交われば不老不死を得られる。聖女の産んだ子は万能である。と囁かれてきた。それゆえ聖女は魔物だけでなくあらゆる権力者たちにその身を狙われてきた」
国王の言葉を聞いて眉根を潜めるのは聖騎士たちである。確かに古来よりまことしやかに言われてきたことではあるが、事実であった確証は何処にもないのである。
「しかしながら、聖女はその純潔を失えば聖女の力を失ってしまう。それ故に権力者たちは常に聖女を守る立場と利用しようとする立場の者の間で危険にさらされてきた。それ故に守護神フェンリルが存在するのである」
国王がそう話せば、フェンリルが自慢げに鼻を鳴らした。そんなフェンリルの頭をマルティンが優しく撫でる。
「だがしかし、此度の聖女マルティン様は男である。故に純血を失わずしてその子孫を残すことが可能となった」
国王がそう宣言すると、広間に集まった貴族たちが歓声を上げた。率直に自分たちの血筋に聖女の血を入れることにたいする喜びである。
「はいはい。そこまででーす。聖女の血をそこいらの女になんか渡せるわけないでしょ」
話に割って入って来たのは誰あろうマルティンの自称婚約者のフィルナンドである。
「皆さんは、1000年ほど前までは男が自分で後継者を産んでいたことをご存知ですか?」
唐突なフィルナンドの問いかけに広間に集まった貴族たちは目を見開いた。驚きのあまり誰もが言葉を失ったらようで、口を半開きにしてフィルナンドを見ている。
「ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、僕の名前はフィルナンド・ペトモル、伯爵家の嫡男で薬師ギルドの副所長をしています」
フィルナンドが簡単な自己紹介をすると、羨望の眼差しが集まった。若くして薬師ギルドの副所長に就任したフィルナンドの才能は誰もがみとめるところであり、貴族の令嬢たちからすれば最優良物件であるからだ。
「こちらの古文書とも言えるポーションの調合書に書かれているんです。男の子宮を復活させる調合方法が」
その本を持ってるのがマルティンだったら疑われたかもしれないが、今では国中に名を知られた薬師のフィルナンドが持っていることに価値があるのだ。だからこそ、広間に集まった貴族たちは疑うことをしなかった。それどころかフィルナンドの話に食いついてきたのだ。
「僕は長年このポーションの調合方法を探していました。何しろ僕は幼い頃視力に欠陥がありましたから、そのせいで同年代の貴族の子女たちから奇異の目で見られてきました。だから僕は結婚なんて出来ないと思っていたんです。けれどこの本にめぐり逢い、男の子宮を復活させる手段を見つけ出したのです。男の子宮の機能が復活すれば、もう跡継ぎ問題で悩む必要はなくなります。だって、当主自らが産んだ子なら、間違いなく当主の子なんですから」
フィルナンドがそう高らかに言い放てば、広間に集まった貴族たちは自然に拍手喝采となったのであった。
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