ヤンキー、悪役令嬢になる

山口三

文字の大きさ
28 / 42

28ゴードンの回想

しおりを挟む

「ゴードン様、パラディ男爵令嬢がおいでです。緑の応接間にお通ししてございます」
「ありがとう、カイエン。すぐ行くよ」

 アカデミーの模擬戦から早くも10日が過ぎた。今日はリンを王宮に招待した日。緑の応接間には王室お抱えのドレスメーカーを呼んである。リンにドレスを何着かプレゼントしようと思ったからだ。

『あ、それと殿下! ダンスのパートナーに指名するなら、リンにドレスくらい用意してあげて下さいね』 

 模擬戦の後、ジュリエットに言われた事がずっと気に掛かっていた。それでリンに心当たりを聞いたところ、ダンスの発表会で着たドレスはレンタルだったとリンが打ち明けてくれた。

 考えてみればパラディ男爵家は領地も狭く、あまり裕福な家柄ではなかった。婚約発表の後に安物のドレスを着て私の横に立つのは、私に恥をかかせる事だと考え、レンタルしたのだろう。上等なドレスを持っていない事を配慮できなかった私の落ち度だ。

 しかしそれをジュリエットに指摘されるとは思ってもみなかった。

 ジュリエットはずっと、私とリンが一緒にいる事を快く思っていなかった。昼休みの時間も私とリンを二人きりにさせまいと、必ず私達の間に割り込んで来た。挙句にはリンに相当な嫌がらせをしていると私の耳に入ってくる始末。それも自分が直接手を出すのではなく、取り巻きの令嬢たちにやらせているというから卑劣極まりない。

 そんなジュリエットがリンを庇護するような発言をするとは・・。それとも配慮に欠いた私への嫌味だったのか。

 ジュリエットが変わってしまったのは何時からだったろう。幼い頃は活発で表情豊かでとても愛らしい少女だった。小さな体で私とライオネルの後を必死について回るジュリエット。可愛い妹が出来たようで自分もうれしかった。

 ジュリエットを王太子妃候補として、妃教育を実施すると聞いた時は戸惑いも感じた。ジュリエットの事は妹の様に思っていたからだ。それでも家族になればそれなりに慈しみ合い、上手くやって行けるだろうと思っていた。

 だがジュリエットは変わってしまった。上品で、高位貴族としての威厳は十分過ぎる程備えたが、幼い頃の様な純粋さが失われてしまったように私は感じた。更に妃教育が始まってからは周囲への態度が尊大になったと噂が流れて来た。


 初めてその話を聞いたのは2年ほど前の春の茶会でだったか。

 王宮で毎年春に開催される大規模な茶会で、私と同じテーブルについていたジュリエットが、手にしていたお茶のカップを取り落とし、こぼれたお茶がドレスを汚すというハプニングが起きた。

 これは同じテーブルにつこうとしたピケット伯爵夫人がジュリエットにぶつかったせいだった。ジュリエットは共の侍女とすぐ席を立ち、しばらくしてから着替えて戻って来た。その後は何事も無く茶会は終わったはずだった。


「ピケット伯爵夫人にはとんだ災難でございました」
「ピケット伯爵夫人? ジュリエットではなくてか?」

 側近のカイエンが自室で私の着替えを手伝いながら言った。カイエン・ロバーツは5年ほど前から私の側近を務める伯爵家の令息だ。よく気の付く、私より少し年上の頼りになる側近だ。

「はい。その‥ジュリエット様とぶつかったのはわざとではないのですから・・」
「何かあったのか?」

「伯爵夫人にジュリエット様の控えの間がどこか聞かれまして、お連れしたところ・・」

 今日のカイエンはやけに口が重く、なかなかその先を話そうとしない。

「はっきり言ってくれて構わない。何かあったのなら、きちんと把握しておきたいんだ」

「それが、中からジュリエット様が怒鳴り散らす声が聞こえて参りまして‥『ゴードン様の前で大恥をかかされた』とか『ドレスを弁償しなさい』と。その場に同席していた夫人の侍女によりますと法外なドレスの賠償金を請求されたそうで、金額について抗議すると『払えないなら同じ目に合うといいわ』とおっしゃって熱いお茶をかけられたそうでございます」

 この話にはさすがの私も驚いた。まさかジュリエットがそんな事をしていたとは。でも確かに、誰かが火傷をしたらしいと侍女が慌てているのを廊下で見かけた。ジュリエットが火傷をしたのなら侍女と退席した時に治療を受けたはずだ。やはりお茶を掛けられたピケット伯爵夫人が火傷を負ってしまったのだろう。

 ジュリエットが他の貴族に対して『自分は未来の王妃』なのだからと、傲然とした態度を取るのはこれが初めてではない、とカイエンは言っていた。

『未来の王妃』

 確かに私と結婚すれば、ゆくゆくはジュリエットがこの国の王妃になるだろう。だが今のジュリエットと私は上手くやって行けるのか? 子供の頃はあんなに表情豊かだったジュリエットが、今は私に対して全く感情を見せなくなった。これはジュリエットが欲しているのは、王妃と言う地位だけだからではないか? 彼女は私に対して愛情の欠片も持ち合わせてはいないのではないか。

 そんな事を考える様になった時、リンと出会った。リンは私が王太子だからと言って特別な態度を取る事は無かった。一人の生徒として私と話し、意見もした。私だけでなく誰とも分け隔てなく接し、いつもひまわりのように明るく笑った。

 リンと一緒にいると私は自分が王太子だということをつい忘れてしまう。気づけばすっかり彼女に心奪われていた。リンに自分の気持ちを打ち明けると、彼女も私を想ってくれていると返事をくれた。

 王太子とはいえ、私にも幸せになる権利があるはずだ。クレイ公爵家と政治上のしがらみがあるわけではない。リンを選んで王室に不都合は無い。

 ジュリエットが妃教育を受けているとはいえ、現状ジュリエットにその資格があるのだろうか? 心優しいリンの方がずっと王妃に相応しいのではないか?

 アカデミーではリンへの嫌がらせが頻発していた。このまま見過ごすわけにはいかない。私はとうとう陛下にリンとの婚約を申し入れたのだった。

 幸い、陛下も母上もリンとの婚約を承諾してくれた。リンがしがない男爵令嬢である事を承知の上でだ。リンの身分については反対される大きな要因になると思っていたのだが、意外だった。

 婚約発表後はリンに対する嫌がらせは無くなった。アカデミーの生徒たちは手のひらを返したようにジュリエットに冷淡な態度を取るようになった。だがそれも因果応報だろう。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~

百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!? 「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」 総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも! そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...