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結婚したのか……俺以外の奴と
③
しおりを挟む「お話中失礼。あなたがアレックスが昨日ご成婚された旦那様ですか?」
「はい。アレックスがお世話になっております」
「旦那!?」
「旦那…」
「ダンナ……」
騎士たちが口々に旦那と呟くせいで鳴き声のようになってきた。
僕がアレックスの旦那なのがそんなにおかしいのかと思ったものの、確かに釣り合いは取れていないので納得してしまった。
せめてもう少し身長が高ければちんちくりんには見えなかったはずなのに…!
何故父様達の高身長を受け継がなかったのか。
突然変異個体にも程がある。
「なるほどなぁ…アレックスがお熱だったお兄さんはあなたでしたか」
アレックスが僕の話を他の人にしてくれているなんて嬉しすぎる。
緩む口元を必死で抑えて、貴族の品格を損なわないように微笑むが、間違いなくだらしない顔をしている気がする。
しみじみと顎を撫でながらそういう熊のような男性に、さすが騎士団なだけあって全体的に大きいなと感心しているとふと気がついた。
「……?騎士団の方ですよね…?何故アレックスの事をそんなに知って…」
「実は私は騎士団から派遣されて、騎士学校の臨時教師として月に一度訪問していましてね」
「あ!なるほど…先生でしたか」
「ええ。それはもうアレックス君にはお世話になりましたよ。ええ」
意味ありげにそういう男性はアレックスを一瞥するとその頭を手刀でこつく。
「いつまでそうしているつもりだ。お前が紹介しなければ名乗れもしないのだが?」
「…勝手に話しかけたのですからご自身でお話したら良いのでは」
「アレックス・ロバート・テイラー?いくらお前が次期公爵閣下の伴侶だとしてもここでは俺の方が立場が上なんだからな?」
「アレックス・ロバート・キャンベルです」
「騎士団の在籍書類はまだアレックス・ロバート・テイラーだ」
基本的に貴族というのは身分の低い人間から高い人間に話しかけることは良しとされていない。
知人などの紹介を受けて初めて身分が低い人間が名乗ることを許される訳だが、今回は練習中に無作法に訪問したので恐らくこの場で1番立場のあるこちらの男性が話しかけてきたのだろう。
勝手に練習を抜け出して男とイチャイチャしていたら話しかけもするだろうと思う。
そもそもあってないような早馬を寄越しただけで訪問した僕が悪い。
「アレックス、紹介してくれるかな」
「…こちら俺が仮所属する第三騎士団団長ジル・パターソン様です」
騎士というのは大きくわけて二つの団体に分かれる。
王城内を守る近衛騎士団と、王都を守る騎士団の二つだ。
その中にも細かく分隊されているが、基本的には近衛になるには基本的には三年の実務が必要とされていて、貴族の場合は第三騎士団がその教育機関を兼ねた部隊で一番人数が多い。
当人の実力に合わせて昇格していき、第一まで昇格して本人が希望を出し近衛騎士団長が許可を出した場合や、推薦などの場合に近衛となることが出来る。
平民の場合は第四から第七まであるがそこは割愛する。
「お初にお目にかかります。パターソン伯爵が子息、次男のジル・ライナー・パターソンでございます。現在は騎士爵位を拝命しております」
「ご丁寧にありがとうございます。
僕はキャンベル公爵家嫡子、ウィルバート・ウィリアム・キャンベルと申します。弟…ではなく、夫がご迷惑をお掛けしているようで申し訳ない」
アレックスは人見知りだから騎士団で上手くやれているか心配だったが、手刀を入れてくれるくらい仲のいい先輩がいるのなら安心だ。
「明後日、登城せよとの王太子様からのご命令がアレックスに下りまして、急ぎ確認に参ったのです」
「左様でしたか。ならばこちらで明後日のシフトは調整しておきましょう」
「突然の事で手間をかけます」
「お気になさらず。上からの命令というのは逆らえないものです」
冗談めかしてそう言うジルに思わず声を上げて笑うと、アレックスが割って入るように少々身を乗り出し手を握った。
「とても…とても離れ難いけどにぃにもう帰らないとだよね…」
「「「「にぃに」」」」
野太い声たちの重奏に呆気にとられつつ笑顔を浮かべるとアレックスに向き直る。
「そうだね、ここにいても皆さんのご迷惑になるしね」
「馬車まで送るね」
「ありがとうアレックス。皆さん、お騒がせ致しました。王家の末端として感謝申し上げます。お国の為その優れた能力存分に磨き上げてくださいませ」
定型文として教わったものの今まで一度も使ったことがないその言葉を紡ぐながら微笑むと騎士達が一斉に敬礼をしてお見送りをしてくれた。
なんだか偉い人になった気分だ。
「アレックスは凄いなぁ…強いって知ってたけどあんなに強いんだね」
「にぃにを守るための力だからね。研鑽は惜しまないよ」
「アレックス?騎士はお国のために忠義を果たすんだよ?」
「第二王位継承権を持つにぃにを守ることは結果的にお国のために繋がるんだよ」
確かに。言われてみればそうである。
王太子殿下が成婚なされていない今、僕の価値は殿下のスペアであり、新たな王子が生まれない間は僕や、もし僕に子供が生まれれば僕の子供が権力を持つことになる。
「だから俺はこの国で一二を争うほど忠義心が強いってことだよね?」
「たしかに…」
お国のために僕を守るなんて、なんて忠義心の高い騎士だろう。これは騎士の鏡と呼んでも過言では無い気がする。
さすが僕のアレックスだ。
メリーが微笑ましげにこちらを見ている。
そうだろう。僕のおと……夫は健気で最高に愛らしいのだ。
「えらいね!アレックス!かっこいいぞ!」
「ありがとう。にぃにも素敵だよ」
「じゃあ僕は帰るけどお勤め頑張ってね」
そう言って剣だこのある手のひらを握り気持ちばかりの回復魔法をかける。
唯一僕が出来る少し元気になったかも……?程度の魔法だが、アレックスはとても喜んでくれるので貴族院に行く前などは毎日掛けていたものだ。
騎士になってからは婚姻届騒ぎがあったり、朝四時出勤には流石に付き合えなかったのでしていなかった。
「ありがとう」
アレックスのこの上なく嬉しそうな顔を見ると僕の胸は充足感に満たされるのだ。
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