いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛

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結婚したのか……俺以外の奴と

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そしてさらに二日後。
ヒートが完全に終わったのを確認して朝食の場に向かうと、そこには僕的には約二週間ぶりのアレックスがいて、再会の喜びから羞恥など忘れ思わずこぼれた笑顔を向けた。
すると僕が入ってきたことに気がついたのか、アレックスがこちらを見たが、瞬間的に顔を逸らした。


「おはようございます…兄様」

「あ、アレックス…?」


アレックスは僕の前では『にぃに』と甘えた小僧だが、両親の前では流石に弁えているらしく『ウィル兄様』や『兄様』と呼ぶので全然おかしなことでは無いのに何故だか悲しく感じて眉根が下がる。
それに合わせて僕から目をそらすその仕草で1週間前の父上との話を思い出した。
ヒート時の羞恥で悶えていて忘れていたが父上は『今朝アレックスが僕達に婚約を解消して欲しいと嘆願してきたよ』と言っていた。
つまりアレックスは僕に愛想をつかしていて、もう僕の顔など見たくないということでは無いのか。
たどり着いた結論の衝撃から心ここに在らずでフラフラと食卓に近づく。


「おはようウィルバート。体の調子はどうだ」

「…おはようございます。調子はいいです」

「そうかい!パパは心配だったんだよぉ……今回のヒートはかなり強いみたいだったからね」


お父様はそう言うと『さぁさぁ』と自分の斜め右の席に誘導する。


「様子は時折こちらで確認していたが、まだ軽度だったな。
次からはもっと……………………変化があるだろう」


長い沈黙の後父上が言った言葉に漠然としているなと首をかしげつつ席に着く。
お父様の斜め右、父上の正面、そしてアレックスが左隣の席である。


「久しぶりにみんなで朝食が取れて嬉しいよ!ウィルとは一月ぶりだね……パパがいなくて寂しくなかったかい?」


寂しいか寂しくないかと言われれば寂しくないこともないが寂しいと言うほど気にしてもいない。
けれどそんなことを言えばお父様は当分家に引きこもることが分かっていた。
故にとりあえず『寂しかった』と答えておこうかなと思った時。


「寂しくないぞ。ウィリアム」

「どうしてレオが答えるんだい!?ウィルは寂しがっているかもしれないじゃないか!」

「ウィルは今年二十四だ」

「まだ二十四じゃないか!」


大きな体格なのに小型犬のようにキャンキャンと文句を言っているお父様を父上は右から左に聞き流してサラダを口に運んでいる。


「お前がそんなだからウィルバートはろくな反抗期が来なかったんだ。
全く……きっとウィルバートだって『寂しいってことは無いけどお父様にそんなこと言ったら泣いて喚いてひっつき虫になる』って思っているさ」


表現に違いはあれどしっかり心を読まれていて思わず僅かに俯いてしまった。


「だっ……だってウィルは俺の可愛い可愛い天使なんだぞ……パパが居られない間羽が伸ばせましたとか!もう少し外出されては?なんて先陣を切って言われた日には……」

「想像だけで泣くな。仕方ない男だな」


父上はそう言うと胸元のポケットからハンカチを取り出すとお父様の涙を拭いていた。
こうして見ると父上は男らしいが母性……なのか父性なのかが強いなと実感する。


「レオお義父様、ドレッシングがこぼれますよ」

「おっと……」


お父様の涙を拭うのに意識を取られフォークを持ったままだった父上がアレックスの言葉に慌てて皿に置く。


「それでどうだ。ようやく本当のヒートが来たんだろう?
巣から出てアレックスを迎えに行くくらいだ。もう逃げようもあるまい。
式はいつにする?」


父上の言葉に頭の中が疑問で思考をとめた。

『今朝アレックスが僕達に婚約を解消して欲しいと嘆願してきたよ』

と父上が言っていたのに何を言っているのだろう。


「アレックスとは婚約解消するのでは……?」

「なんだって!?」
「どういうこと!?」


お父様とアレックスが同時に疑問を示し凄い速さで僕を見つめてくる。
双方ともギラギラとした目力で腰が引ける。
そもそもアレックスが別れたいと言ったのでは?と思ったが到底言える雰囲気では無かった。


「ああ……うっかり……そうだったな」

「そうだったなとはなんだレオ!?」

「どういうことですかレオお義父様!」


明らかにアレックスが婚約解消を求めている空気ではなかったので分からないなりに整理してみる。
父上は僕がアレックスに対して【弟であるのに好きな訳ない】という態度をしていたのを知っている。
そのうえでクライシス殿下とのいざこざを知り業を煮やしていた?


「ああ、いや。ウィルがあまりに煮え切らないものだから、ちょっと灸をすえてやろうとおもってな」


つまりその結果アレックスが居ない間に僕を焦らせて強引に解決してしまおうとしたのかもしれない。


「すみません……」

「まぁその結果気づいたのだから良かろう」

「全くよくありませんが?万が一ウィルに逃げらたらどうするおつもりだったのですか????
お父様と言えど真っ向対決は避けられませんよ」


血走っている瞳の今にも射殺しそうな眼圧で父上を見つめるアレックスに怯むこともなく微笑むと優雅に紅茶を啜った。
何故だろう。
勝者の余裕を感じる。


「大丈夫だ。その際は全力で御相手しよう。ウィリアムが」

「ああ!任せろ」

「レオお義父様ではないのですね……」

「当たり前だ。このように繊細で可憐でか弱い私が戦ってみろ。
お前のような強者を相手にすれば、間違いなく向き合った瞬間にストレスで倒れてしまうだろう」

「それは確かに遅かれ早かれウィリアムお義父様と戦う未来は避けられそうにありませんね」


アレックスは剣術が得意なオールラウンダータイプ。
お父様は魔法が得意なオールラウンダータイプ。
若干の得手不得手は違えども双方とも高い能力を持っているのは知っているので、戦わせれば間違いなくろくな事にならないことは安易に想像が着いた。
外部で戦ったとしても間違いなく公爵家の壁は何ヶ所か修繕が必要になるだろう。


「それにしてもヒートが来るまで自分の気持ちが分からないなどと……ウィルは少しおっとりすぎる」

「決まったからには早く……」

「お義父さま方、まだ俺は兄様からお返事を頂いていませんので、まずは本人からお聞きして少し浸らせて頂きたいのですが」

「僕!アレックスと結婚はできません」


決死の覚悟で声を張上げた瞬間、時間が止まったかのように静寂に包まれた。
空気のように存在感を消し、給仕のために控えているメイドや執事達も微動だにせず居るのは変わらないが殺伐とした空気に飲み込まれているのか少々表情が厳しい。


「……何故だかきいても?」


感情を押し殺したような声でアレックスはそう問いかけて真っ直ぐに僕を見つめてくる。
その視線に後ろめたさから反射的に視線を逸らした。


「にぃに、何故?」

「……………そ、れは……」


極度の緊張で口が乾く中、僕は口を開く。





「あ、アレックスの邪な妄想をする僕がアレックスと結婚していいわけが無い!」

「「「………………」」」

「僕はいかがわしい人間だ!
こんなに可愛いアレックスの尊厳を踏みにじるような服を着せたいと思ってる変態なんだ!
アレックスを十歳のころから知っているのに!
こんな稚児趣味な僕がアレックスと結婚なんて!!!!!!」


僕の言葉に誰一人反応することなく沈黙が続いた後に、一人、僕の言葉の処理が完了したのか首を傾げた父上が唇を開く。


「稚児趣味?誰が」

「僕です!」

「ウィルバートは巷の少年を性的な意味で見ているのか?
さすがにそれは私もお前を止めないといけないな」

「見ておりませんが、アレックスの事はいかがわしい目で見ております」


「………っ……」


打ちひしがれるようにテーブルに行儀悪く肘をついたアレックスの顔を見るとなぜだか感激したような表情をしているように見える。
一体どういう感情なのだろうか。


「ウィル~?あんまりいかがわしい目で見ている、等というものじゃないぞ?
人前がやぶさかでは無いものも居るだろうが本来そういったものはひっそりとするべきだとパパは思うんだ」


仕方ない子どもを見るような視線に、仕方ないのはお父様だ!と言わんばかりに睨みつけると何故か頭を撫でられた。
解せない。

「お父様!」

「パパ」

「パパ!父上!真面目に聞いてください!」

「聞いているとも!ウィル」
「聞いているさウィル」


見事に言葉を被せてきた両親はそう言うと二人顔を見合わせて父上の方が口を開いた。


「婚約者であるアレックスをいかがわしい目で見て誰が咎めようか。
お前たちは婚姻さえ結んでしまえば子どもだって作れるんだぞ」

「そうだぞウィル。
あと、パパも孫は見たいがそれまでの過程についてはそれはもう腸が煮えくり返るだろうから、ひっそりしてもらえるかな?」

「僕はそんな話はしておりません!全く!
僕はアレックスに……は、破廉恥な……」


自らへの怒りと羞恥から震える指先を眺め決死の覚悟を込めて、握り締めた拳でテーブルを押さえつける。


「ウィルバート?パパのお話聞いていたかな?あまりパパはウィルバートのそういうお話は聞きたくないぞ」


お父様の言葉は右から左。
興奮した状態の僕はいかに自分がアレックスにふさわしくないのかを伝えようと懸命に頭を回転させていた。


「……め、メイド服や」

「「「メイド服?」」」

「……きょ、胸部の谷..谷間がハート型に切り抜かれたおむねの見える……とにかくい、いかがわしいやつです!」


羞恥心から目を瞑り叫んだあと恐る恐る目を開け周囲の様子を伺う。
すると先程まで僕の言葉に微笑ましいものを見る目や仕方の無い子を見る目をしていた二人が訝しげに眉根を寄せた。


「い、異国のセーラー服なる太ももが出たドレスを履かせる想像をしたりしているのです!これがアレックスへの尊厳を無視した非道徳的ないかがわしい行為だと言わずしてなんだと言うのですか!」


僕の精一杯の告白に両親には訝しげに。
先程まで難解な表情をしていたアレックスには戸惑いの表情で見つめられて僕は俯いた。

消えてしまいたい。
けれどアレックスにこんな変態の稚児趣味の男と結婚させてはいけないのだと【兄としての理性】がそう言っている。


「だから婚約は解消した方がいいって、言ったんです」

「……にぃには俺にそんな服を?」

「まさか……」
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