いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛

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にぃに奮闘中

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「気づいたら弟と結婚してた?」

「う、うん」

「意味わからんのだが」

「だよね」

「だよね、じゃねぇよ。なんで弟と結婚することになんの」


ファーストキスを奪われ婚姻届を取り返せぬままお忍びで領地に遊びに出た。
何をどうしていいのか分からなくなって僕は親友に会いにとある酒場へと足を踏み入れたのだ。
そこは宿を兼ねた飲食店で、セクシーなお姉さんや美形の男子、可愛い男の子なんかが奢られ待ちの、お仕事探しをしていたりする場所で、いかにも下町といった混沌感が好きな場所だった。
とはいえそれだけでこの店に来ている訳ではなく、親友はこのお宿の跡継ぎ息子で勤務中のバーテンなので職務中にお邪魔しているわけである。
いくら親友とは言っても領主の息子が休みの日に会おうなどと言えば断れないだろうし、そんな嫌な貴族にはなりたくない。
という訳で仕事中にお邪魔しているわけである。
喋り方に関してはあまりかしこまられるとお忍びがお忍びで無くなるのでやめて欲しいと頼み続けて五年位でようやく外してくれた。
長い道のりであったが、僕は大変のろま……マイペ……気が長いとよく言われるほどなのでその会話すらも楽しめた。
ちなみに彼と僕の付き合いは七年目になる。


「えっと…ちょっとうっかりアレックスとキスしてしまって」

「うっかり」

「ファーストキスは結婚する人とするんだよと言い続けてきたものだから…結婚しないって言ったら嘘つくのって言われて」

「はぁ」

「婚姻届を書いてってお願いされたんだけど」


カクテルが出来上がったのかカップに注ぎうつすと『ちょっとまて』と呟いてどこかに歩いていく。
可哀想な親友こと、ブレットは指通りの良さそうな黒髪を揺らして切れ長な目を細めて麗しく笑うと、よその客に酒を差し出しに行った。
数秒話をして戻ってくると手元に何か紙らしきものを持ちながらポケットにしまってこっちに戻ってきた。
おおかたデートのお誘いかなにかが書かれた紙だろう。本日三回目だ。


「で?続きは」


その顔の無表情さと言えば全くもって別人である。


「なんか……可愛いお顔でオネダリされて気がついたら……」

「お前そのうちやべぇ不平等契約結ばされて一文無しにされるぞ」

「アレックスがそんなことするわけないだろ!まぁもしそんなことがあってもアレックスが望むなら仕方ないけど」

「………じゃあもう結婚も受け入れろよ」


ゲンナリとした顔でもシェイカーを振るう姿は様になりすぎてイケメンというのは恐ろしいものだなとしみじみしながら手元の酒をあおる。
ちなみに今シェイクしている酒は僕の酒である。


「弟と結婚だよ?有り得る?お前で言うなら弟さんか妹さんと結婚するんだよ」

「ウチはそんな爛れた兄妹仲じゃねぇの、お前のとこと違って」

「なんだって!僕達は清く正しく絆を極めてきたんだぞ!」

「清く正しい絆は兄弟で結婚することにはなんねぇだろうが」


全くもって正論である。
ぐの根も出ない正論に打ちひしがれながらツマミのチーズに手を伸ばすと、ブレットは出来上がったカクテルを目の前に置いた。
とても美しい白みがかったオレンジ色のドリンク。
僕の大好きなカンパリオレンジである。


「貴族が近親婚多いのは知ってるが、さすがに実の兄弟で結婚させるのはやばくないか」

「いや、血は繋がってないし、婚約者ではあったんだけどさ~、アレックスが十六になったら解消する予定だったの」

「は?」

「なにさ、血は繋がってなくたって兄弟は兄弟だろ」

「そりゃ…まぁそうかもしれないが……初耳なんだけど」


ブレットの言葉に僕たちは顔を見合せて数秒見つめあってしまった。
それにしてもイケメンだ。
最近気がついたがお父様と僕を産んでくれたお父様もどちらも方向性は違うが美形だったし、アレックスも言わずもがな美形だしで、僕の美的感覚は贅沢にも最上級レベルの面食いらしい。
このブレットもイケメンだと思っているが、少々目が細いし、唇も薄すぎると思っている。
もう少し肉厚な唇が僕の好みだ。
が、周囲の反応を見る限り僕が思う以上に彼はイケメンなんだと思う。
普通に毛が生えた程度の顔立ちの分際で生意気すぎる評価をしてしまった。


「言ってなかったかい?」

「聞いてねぇよ、それだいぶ話変わってくんだろ」

「そうかな?」

「そうだよ!」


ブレットにしては珍しく大きい声だったので、本人も慌てて口を抑えた。
相当驚いているらしい。


「何、お前もしかして【いつまでも兄離れしないブラコンで毎日どこかしこキスばかりしてくる困ったちゃんだけど、なんでも出来る自慢の弟】が血の繋がらない弟か!?」

「ああそうだよ。アレックスは本当に出来が良くてね……」

「その話は今はいい。じゃあ思春期迎えるまで風呂に入って一緒に寝てたαの弟ってそいつのこと?!」


弟の自慢話も聞いてくれないなんて、なんて非情な親友なんだ。


「ああ、そうだよ。とはいえ十四の頃にはやめたけどね」

「十四って………お前……おまえ……通りでおかしいと思ったんだよな…ほんと…おまえ、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど本当に馬鹿だな……」


親友のズバズバ言ってくれるところは大変好きだがさすがにボロクソ言い過ぎではないだろうか。
頭が良くないのは知っているが自分で言うのと他人から言われるのでは全く違うと思う。
あと僕はこれでも公爵子息なんだからな。
不敬罪でアレックスの可愛い所耐久トークの刑に処すぞ。


「おまえ…それブラコンじゃねぇだろ絶対」

「なぁに言ってるのさ、アレックスは立派な甘ちゃんブラコンだよ。いつまでも僕に抱きついて来るし、朝一絶対僕の元に来ておはようのキスをしないと学校に行かないんだ」

「……」

「あ…いや、それは僕がアレックスに冷たくされると泣きそうになるのが困るから愛情表現としてしてくれていたみたいだったんだけど…ってあれ、じゃあやっぱりアレックスはブラコンじゃない……?」

「そうじゃねぇだろ…」

「やっぱりブラコンだよね!うんうん。可愛いんだよ~うちのアレックスは~♡お兄ちゃん想いで優しくて」


げんなりとした諦めの境地ですと言わんばかりの顔を隠そうともせずブレットは一度目を閉じると笑みを浮かべた。
僕に笑みを浮かべるなんてここ数年記憶にないというのに。


「おまえさ、ここに来ることもちろん伝えてるんだよな」

「アレックスには伝えてないけど、家令には伝えてるよぉ」

「なんて伝えた」

「最愛の親友に会いに行ってくるって言っ」

「阿呆が!!!!!!!」 


本日二回目の怒鳴りにその場が一瞬静まり返り、数秒後喧騒が戻ってくる。
けれどブレットは心ここに在らずといった様子で頭を抱えている。


「酷いな~僕だって僕が賢くないことは分かってるよ」

「そうじゃねぇよ…」









「浮気ですかにぃに」










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次回更新は2025/05/25です。
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