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にぃに奮闘中
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「ひぇっ」
突如右耳から聞こえてきたいい声に慌てて耳を塞ぐとそこには下町の青年と言った服装のアレックスが座っている。
そんな格好をしていてもこの場で、いや、この国で一番かっこよくて可愛いことだろう。
「アレックス、どうしてここに…?」
「家令から聞いて。ウィルが下町の宿屋で、最愛で大層な黒髪の男前と逢瀬をしていると聞きまして。結婚初日から浮気ですか?」
「初日!?お前、なんでこんなとこいんだよおまえほんと大バカだな」
「結婚してると思ってるのはアレックスだけだよ!僕は許可してない!」
そうだ、だって僕は返して欲しいと言った。
そもそもアレックスと結婚するつもりで書いた訳じゃなくて手が勝手に書いたというか、とりあえず結婚はしていないのだ。
「ほぅ」
「ーーっウィル!いいからおまえ謝っとけ」
ブレットにそう叱りつけられて何故急に責められなければならないのかと酔った頭で怒りに震えると勝手に涙がこぼれてきた。
「なんでそんな事言うの…ブレットだって兄弟で結婚するのは変だって言ってたのに」
「ばっ!!ちげーよ!それはお前が血が繋がってなくて、婚約者だってこと言わねぇから」
「お前がウィルの“最愛の友人”か」
アレックスの視線にブレットは凍りついて1歩下がると人好きする笑みを浮かべた。
接客スマイルである。
「違います」
「ちがいません~!おまえがどう思ってても僕は親友だとおもってるんだからなぁ!」
「頼むから黙っててくれないか」
「確かに、ウィル好みの黒髪クール系美男ですね。俺の方が美しい黒髪だし身体付きは少し物足りなさそうですけど」
なんだか顔色の悪い笑顔も憂いがあって男前に見える。
イケメンというのはどんな表情をしても魅力的に見えるのだから得だなぁとしみじみ思いながらちびちびと酒を飲むと、アレックスはその手元で視線をとめた。
「……カンパリオレンジ、ですか」
「はっ!?いや、これはこいつが好きだから作っただけで深い意味は全く!これっぽっちも無いので」
「…初恋、ねぇ」
「マジで違うので勘弁してください」
めっちゃ嫌そうに否定された。
確かに向こうからしたら領主の息子で逆らえないし、たまに自分の店に飲みに来る地主みたいなものかもしれないが、そこまで否定しなくてもいいと思う。
そんなに親友の否定をされると悲しくなってくる。
「ふぇ…そんな…そんな否定しなくてもいいらないかぁ!!」
「あぁウィル…可哀想に…大丈夫。こんなクズ男は海に沈めようね」
「頼むから余計なこと言わないでくれオレはこの店をついで、家庭的で慎み深いけど夜はちょっと積極的な奥さんと、『まったく~嫁が俺の事大好き過ぎて困っちゃうよな』なんて惚気けながら、幸せに暮らさないといけない使命があるんだ!」
「だいぶ具体的で気持ち悪いな…」
引きつけを起こしながら涙を拭っているとアレックスが胸ポケットからハンカチを取り出して優しく拭ってくれる。
流石僕の最愛の弟は優しい。
どっかの親友とは大違いである。
「それにしてもなんてハレンチな男だ…何故こんな男がいいの?ウィル」
「ひっく…ひっく…なんれって、めんどうみいいし、かみ、きれいらから…」
電球の光が照らす黒髪は艶があって色っぽく、いつ見ても目の保養だ。
「…ウィルは本当に黒髪が好きだね……しょうがないな。じゃあこの男の髪を全剃りしよう。そうすれば俺以外見なくなるよねにぃに」
「まっって!!!!!」
「…ぜんしょり…面白そう」
「おい!!!!こら!!!待て!!俺の大事な髪を面白そうで全剃りさせるんじゃないっ」
全剃り……。
美形のブレッドが全剃りしているのを想像するととてもシュールで面白い。
それにしても無表情な親友の必死な顔は見慣れなくてつい笑ってしまう。
目ん玉が飛び出そうだ。
「あはは~!」
「あははじゃねぇ!」
熱くてふわふわして気分よくしていたけれど、なんだか急に眠たくなってきて視界の端に逞しい腕が映った瞬間吸い込まれるように隣のアレックスに抱きつく。
「ん?どうしたのにぃに。眠くなっちゃった?」
「ねむくなっら…」
「そっかそっか。じゃあ全剃りは俺に任せてここでいい子にしてて。眠ってしまってもいいよ」
優しい天使のような笑顔に安心してその頭を撫でるとアレックスはとろけそうな微笑みで僕の頬に口付ける。
「ん~」
右頬はしてもらったので反対も催促するとチュッチュチュッチュと、リップ音をたてて何度も唇を落とされてこそばゆい。
それにしても最愛の弟にこれだけキスしてもらえるなんて本当に幸せな人生だと思う。
離れていこうとしたアレックスの首に抱きついて頬っぺたにお返しのキスをすると頭を撫でられて、今度こそ距離を取られた。
「……ははっ」
「何その魔王みたいなは微笑み!?さっきまでの優しさは一体どこへ!?…ちょ、全剃りはするんですか?まって!!そのナイフ、髪を切るためですよね?!今ここでお陀仏にされたりしませんよね!?」
「ナイフで全剃りは難しいか…頭皮ごといきそうだ」
「ーーーーっまじで!無実なので!この人とはただの友人で、邪なことは一切ありませんから見逃してくださいお願いします!!!」
眠くなってきた僕はその喧騒を聞きながらうつらうつらと机に突っ伏した。
それに対して『こらてめぇ起きろ!お前のせいでこうなってんだからな!』という親友(仮)の言葉が聞こえてきたが睡魔には抗える訳もなく意識を手放したのだった。
突如右耳から聞こえてきたいい声に慌てて耳を塞ぐとそこには下町の青年と言った服装のアレックスが座っている。
そんな格好をしていてもこの場で、いや、この国で一番かっこよくて可愛いことだろう。
「アレックス、どうしてここに…?」
「家令から聞いて。ウィルが下町の宿屋で、最愛で大層な黒髪の男前と逢瀬をしていると聞きまして。結婚初日から浮気ですか?」
「初日!?お前、なんでこんなとこいんだよおまえほんと大バカだな」
「結婚してると思ってるのはアレックスだけだよ!僕は許可してない!」
そうだ、だって僕は返して欲しいと言った。
そもそもアレックスと結婚するつもりで書いた訳じゃなくて手が勝手に書いたというか、とりあえず結婚はしていないのだ。
「ほぅ」
「ーーっウィル!いいからおまえ謝っとけ」
ブレットにそう叱りつけられて何故急に責められなければならないのかと酔った頭で怒りに震えると勝手に涙がこぼれてきた。
「なんでそんな事言うの…ブレットだって兄弟で結婚するのは変だって言ってたのに」
「ばっ!!ちげーよ!それはお前が血が繋がってなくて、婚約者だってこと言わねぇから」
「お前がウィルの“最愛の友人”か」
アレックスの視線にブレットは凍りついて1歩下がると人好きする笑みを浮かべた。
接客スマイルである。
「違います」
「ちがいません~!おまえがどう思ってても僕は親友だとおもってるんだからなぁ!」
「頼むから黙っててくれないか」
「確かに、ウィル好みの黒髪クール系美男ですね。俺の方が美しい黒髪だし身体付きは少し物足りなさそうですけど」
なんだか顔色の悪い笑顔も憂いがあって男前に見える。
イケメンというのはどんな表情をしても魅力的に見えるのだから得だなぁとしみじみ思いながらちびちびと酒を飲むと、アレックスはその手元で視線をとめた。
「……カンパリオレンジ、ですか」
「はっ!?いや、これはこいつが好きだから作っただけで深い意味は全く!これっぽっちも無いので」
「…初恋、ねぇ」
「マジで違うので勘弁してください」
めっちゃ嫌そうに否定された。
確かに向こうからしたら領主の息子で逆らえないし、たまに自分の店に飲みに来る地主みたいなものかもしれないが、そこまで否定しなくてもいいと思う。
そんなに親友の否定をされると悲しくなってくる。
「ふぇ…そんな…そんな否定しなくてもいいらないかぁ!!」
「あぁウィル…可哀想に…大丈夫。こんなクズ男は海に沈めようね」
「頼むから余計なこと言わないでくれオレはこの店をついで、家庭的で慎み深いけど夜はちょっと積極的な奥さんと、『まったく~嫁が俺の事大好き過ぎて困っちゃうよな』なんて惚気けながら、幸せに暮らさないといけない使命があるんだ!」
「だいぶ具体的で気持ち悪いな…」
引きつけを起こしながら涙を拭っているとアレックスが胸ポケットからハンカチを取り出して優しく拭ってくれる。
流石僕の最愛の弟は優しい。
どっかの親友とは大違いである。
「それにしてもなんてハレンチな男だ…何故こんな男がいいの?ウィル」
「ひっく…ひっく…なんれって、めんどうみいいし、かみ、きれいらから…」
電球の光が照らす黒髪は艶があって色っぽく、いつ見ても目の保養だ。
「…ウィルは本当に黒髪が好きだね……しょうがないな。じゃあこの男の髪を全剃りしよう。そうすれば俺以外見なくなるよねにぃに」
「まっって!!!!!」
「…ぜんしょり…面白そう」
「おい!!!!こら!!!待て!!俺の大事な髪を面白そうで全剃りさせるんじゃないっ」
全剃り……。
美形のブレッドが全剃りしているのを想像するととてもシュールで面白い。
それにしても無表情な親友の必死な顔は見慣れなくてつい笑ってしまう。
目ん玉が飛び出そうだ。
「あはは~!」
「あははじゃねぇ!」
熱くてふわふわして気分よくしていたけれど、なんだか急に眠たくなってきて視界の端に逞しい腕が映った瞬間吸い込まれるように隣のアレックスに抱きつく。
「ん?どうしたのにぃに。眠くなっちゃった?」
「ねむくなっら…」
「そっかそっか。じゃあ全剃りは俺に任せてここでいい子にしてて。眠ってしまってもいいよ」
優しい天使のような笑顔に安心してその頭を撫でるとアレックスはとろけそうな微笑みで僕の頬に口付ける。
「ん~」
右頬はしてもらったので反対も催促するとチュッチュチュッチュと、リップ音をたてて何度も唇を落とされてこそばゆい。
それにしても最愛の弟にこれだけキスしてもらえるなんて本当に幸せな人生だと思う。
離れていこうとしたアレックスの首に抱きついて頬っぺたにお返しのキスをすると頭を撫でられて、今度こそ距離を取られた。
「……ははっ」
「何その魔王みたいなは微笑み!?さっきまでの優しさは一体どこへ!?…ちょ、全剃りはするんですか?まって!!そのナイフ、髪を切るためですよね?!今ここでお陀仏にされたりしませんよね!?」
「ナイフで全剃りは難しいか…頭皮ごといきそうだ」
「ーーーーっまじで!無実なので!この人とはただの友人で、邪なことは一切ありませんから見逃してくださいお願いします!!!」
眠くなってきた僕はその喧騒を聞きながらうつらうつらと机に突っ伏した。
それに対して『こらてめぇ起きろ!お前のせいでこうなってんだからな!』という親友(仮)の言葉が聞こえてきたが睡魔には抗える訳もなく意識を手放したのだった。
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