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にぃに奮闘中
③完結
しおりを挟む目が覚めるとそこはアレックスの部屋だった。
状況が呑み込めないまま辺りを見渡すと隣にはアレックスが眠っている。
寝顔も世界で一番かっこよくて可愛い。
「あれっくちゅ~」
「……んぅ」
「んーーー!!!!きゃわいいねぇ、あれっくちゅ……」
時計を見ると眠っていたのは一時間程度だったようであまり酔いは冷めていない。
ふわふわ心地よい熱に身を委ねて抱きついて顔中にたくさんキスをする。
「……にぃに、おきたの」
「おきたよぉ」
今だ眠そうなアレックスにキスの雨を降らせてその頭を抱きしめると僕の胸に熱い息がかかった。
「………」
「あれっくす…?」
普段なら沢山話しかけて来るはずのアレックスが黙り込んだので不思議に思い、動きを止めて再度呼びかけた。
「どうしたのあれっくす」
「……ぐすっ」
「ーーっあ、あれっくす?な、なんでないてるの!?」
「にぃに……」
「なぁに、どうした」
緊急事態発生。
僕の可愛い可愛い可愛い可愛いアレックスが涙を流している。
誰だ僕のアレックスを泣かさた愚か者は!
騎士団の奴らか!?
こういう時のための血統である。
パパに頼み込んで騎士団の食堂メニューをそいつだけ異国のネバネバする腐った豆とパンのみにしてやる。
でも健康面も気になるからとても異臭を放つらしい魚も付けてやろう。
「あれっくすぅ…どちたの……にぃににお話して?」
「にぃに……どうして帰ってきてくれなかったの…?」
「えっ、と……それは気まずくて……」
「………ぐすっ……」
「あぁ!う!……あれっくす?にぃにはあれっくすのにぃにでいたいって言うか……まだ結婚は受け入れられてなくて」
僕の言葉にそのキレイな碧眼から涙を零して悲しそうに眉を寄せる。
その顔を見るともう堪らなくて再びアレックスを強く抱き締めて宥めた。
「泣かないであれっくす……あれっくす……ね?結婚しなくてもぼくたちは変わらないよ」
「………にぃに」
「うん?どった?」
「結婚しなくても変わらないんだよな…?」
「そうだとも!」
「じゃあ結婚しても変わらないよな?」
「………ん?」
「俺が誰かと結婚しても俺たちは家族、兄弟でしょ?」
うるうる。
きゅるきゅる。
そんな目で見つめられるとこの兄はときめきが止まらないのである。
「そうだとも!!」
「じゃあにぃにと結婚しても俺たちは兄弟だよな」
「え?」
「だよね?」
「えっと……う、うーん?」
誰か別の人と結婚した場合でも僕は思い出や絆こそが兄弟の証だと思うから戸籍に繋がりはなくとも僕たちは兄弟。
ならば僕と結婚した場合でもそれらを持っている僕たちは兄弟でおかしくはない。
おかしくは無いけれど……何か違うような気がする。
「だってこのままだと俺たち元夫婦のバツイチだよ?」
「はっ!?」
「別れたら俺たち兄弟では居られないよ……結婚相手から元旦那さんと一緒に居ないで!って言われて俺たち離れ離れだよ」
「たしかに!!」
「皆に大好きなウィルに振られて結婚初日でバツイチになったアレックスだって言われちゃうよ……」
アレックスにそんな汚名を着せる訳にはいかない!
何より僕はアレックスが世界で一番大切で、まさかアレックスを振ったなんて噂になれば周囲の視線に耐えられる気がしない。
あれだけ可愛がっていた癖に、アレックスの【はじめて】を奪うだけ奪って捨てた悪オメガになってしまう。
「にぃに、怖がらないで。夫婦になってもなんにも変わんないよ。毎日沢山キスして、いっぱい甘えたり甘やかしたりするだけ」
「甘えたり甘やかしたり……」
「そう、一緒に気持ちよくなるだけだからなーんにも変わらないよ。俺たちは俺たち。これからもにぃにって呼ぶし、お世話焼いてもらう。……ね?なんも変わんないだろ?」
きゅるんとした瞳に見上げられながら微笑まれて僕の頭の中は気になることがすっぱ抜けてどっかに行ってしまった。
「変わんないな!うん。そうだそうだ、なぁんにも変わんないじゃないか!あれっくす~結婚しないなんて意地悪してごめんね……」
「ううん……悲しかったし、寂しかったし辛かったけど、にぃには悪くないよ」
「ふぇ……ごめんよぉ……あれっくす~!」
アレックスの健気な言葉に涙腺が崩壊して僕は滝のような涙を流しながら、キスを落とす。
「にぃに……唇がいい」
「ああいいとも!ちゅーしようね」
「うん。ちゅーしよっか」
機嫌良さそうに微笑むアレックスに胸を高鳴らせながらもその唇に触れるだけの口付けを落とすと、やや強引に頭を引き寄せられる。
「んっ、あれっふす」
「にぃに……口あけて」
「うん」
なぜ口を開けるのかよく分からなかったが、野暮なことは聞かない。
愛しいアレックスが言うのならそれを受け止める選択肢しか僕には残っていない。
「ーーっんぅ、ふぁ、れっ……く……ぅ」
未経験のキスに戸惑っている僕の事なんて構わず艶めかしく動く舌先が口内を蹂躙して、熱く舌が疼く。
「……あー、最っ高」
「あれっ……む」
いつの間にか身体を乗り上げるように覆いかぶさるアレックスの少し長めの髪が僕の額に掛かる。
彼の高い鼻尖が僕のと触れ合い、熱い吐息が混ざりあって肌に触れた。
「気持ちいいね……にぃに」
「……ぁ、う……」
少し厚みのある唇から覗く舌が僕の唇の撫でてまた侵入してくる。
時を忘れるとろける口付けに甘く鳴いて、気がつけば彼の首に腕を回して縋りついていた。
「ふ……ウィル……こんなキスしたら俺の事、好きになっちゃうね」
「ーーっ……」
何度呼ばれてもアレックスに名前を呼ばれると照れくさくて、甘く僕の視線を絡めとる瞳に胸がどくどくと痛む。
僕の胸を締め付ける視線から逃げ出したくなり、慌てて腕を外そうと腕を浮かせると強引に掴まれて動けなくなる。
薄く笑う唇は見慣れたものより艶めいていて、いままで見てきたアレックスが彼の一部でしか無かった事を思い知る。
「恥ずかしい?」
「あれっくすが、変なこというから」
「変なこと?なにが…?」
見たことない大人の男の甘い視線に逃げるように目を瞑ると、自然と俯いていた顎を手に取られてその唇は、僕の唇を過ぎて耳元で止まる。
「ウィルが俺の事大好きって話?」
「ーーっそんなに揶揄うなら……き、きらいになるぞ!」
数秒の沈黙の後、言い過ぎたかと恐る恐る目を開けると清廉な碧に浮かぶ情熱と魅惑的な微笑み。
「いいよ」
「……ぇ」
「また好きにさせるから」
数え切れない口付けに次第に身体が溶けるような甘だるさに支配されていく。
妙に冴えるような、鈍くなっていくような、言葉で言い表すのは難しい思考は僕の物なのか。
知らない感情と逃げる力すら失った身体はただそこに横たわるのみ。
「ほら、好きになった」
子供じみた言葉とは裏腹な指先が僕の身体を撫でて夜は深けていく。
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