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セヴァリー子爵家のある領地の、国境に沿って隣にある領地の辺境伯は国境警備に特化し、領地は辺境伯とは別の領主が治めているという、少し変則的な統治をしている。
領主は貴族ではなく、辺境伯の部下とも違うらしい。
…貴族でない領主…どこかで聞いた様な話ね。
辺境伯邸で開かれた夜会に義父であるセヴァリー子爵フレッドと義母ルイーズ、兄オスカーと共に参加したオリビアは、辺境伯領の噂を聞いて思う。
「オスカー殿、久しぶりだな。…君がオリビア嬢か」
主催の辺境伯に挨拶に行くと、そう声を掛けられた。
「お久しぶりです」
オスカーが礼を取るのに続けて、オリビアも「はじめまして」と礼を取る。
頭を下げながら、辺境伯とその妻に上から下まで舐める様に見られた気がした。
「そう。君が…さすがに綺麗な挨拶をするな」
「…ありがとうございます」
「オリビア様、楽しんで行ってね」
辺境伯の妻がわざとらしいとも思える笑みで言う。「ありがとうございます」ともう一度礼をして、二人から離れる。
周りの皆に見られている気がして、足早にテラスへと出た。
三年前、お兄様は学園を卒業してたから、社交界で辺境伯様にもお会いした事があるのよね。
私は卒業してなかったから初めてお会いしたけど…。
手摺りにもたれて息を吐く。
たがら夜会…嫌だったのよね。
三年前の事を知っている人には会いたくない。
母に勧められてセヴァリー子爵家の養女になったが、オリビアは社交界には出るつもりはなかったのだ。
「おい。お前」
オリビアの後ろから声がした。
「……」
ゆっくりと振り向くとシャンパンを片手に持った男性が立っていた。暗くて分かりにくいが濃いめの金髪に茶色の瞳、背はそんなに高くはないが、低くもない。太ってはいないが、細くもない、オリビアと同年代だろうか。そこそこ整った顔立ち。仕立ての良さそうな夜会服。
見覚えはないが、貴族だろうか?
「…どちら様でしょうか?」
恐る恐る聞くと、男は
「ハモンド商会の時期社長だ」
と胸を張って言う。
「ハモンド商会…」
と、言えば辺境伯領を中心に貿易などを営む大商家だ。
「ガイアだ。覚えておいて損はないぞ」
「…オリビア・セヴァリーと申します」
「セヴァリー?ああ、そうか養女になったのか。まあ仕方ないな。エバンス侯爵家は取り潰されたんだから」
ふんっと鼻で笑うように言う。
「俺は去年まで学園にいたから、エバンス侯爵家の話はよく聞いたもんだよ」
「そうですか」
「お前、嫁の貰い手ないだろう?俺が貰ってやろう」
オリビアはアルカイックスマイルを浮かべる。
「いいえ。お気持ちだけで」
ガイアはオリビアを嘲笑うような表情を見せる。
「お前、なんと、王太子妃になりたかったらしいな」
プツン。
ガイアの嗤笑を見て、オリビアの堪忍袋の緒が切れた。
「…セヴァリー家は子爵家です」
オリビアは低い声でガイアを睨む様に言う。
「は?」
「ハモンド商会時期社長様に、そのように不遜な物言いをされる謂れはありませんわ」
オリビアは扇を広げて不敵に笑って見せた。
「このっ…」
ガイアはカッと顔を赤くすると、オリビアの手を掴もうとする。
「きゃ…」
「待て」
誰かがガイアの腕を掴んだ。
オリビアを庇うようにガイアとの間に立つ。
背が高い。赤茶色の髪。後ろ姿からチラッと見えた眼鏡が光に反射した。
「お前は誰だ!?」
ガイアが腕を掴まれたまま男性を睨む。
「…女性に乱暴な真似は良くない」
「お前には関係ないだろ!」
「誰彼構わず『お前』呼ばわりするのも良くない」
「うるさい!」
ガイアは男性の腕を振り解くと
「オリビア!覚えとけよ!」
と言って走り去った。
「ええ…呼び捨て?まだ『お前』呼ばわりの方がマシ…」
オリビアは、男性の背中越しに走り去るガイアを見る。
「大丈夫でしたか?」
男性が振り向く。
赤茶色の真っ直ぐな髪。眼鏡の奥の切れ長の眼。細い顎。スラリとした手足。
「……」
美青年だ。オリビアは思わず見惚れる。
「?」
男性が首を傾げる。オリビアはハッとして礼を取る。
「ありがとうございました。私、オリビア・セヴァリーと申します」
男性は眼鏡の奥の瞳を光らせて、にっこりと笑った。
「お会いしたかったです。オリビア・エバンス元侯爵令嬢殿」
セヴァリー子爵家のある領地の、国境に沿って隣にある領地の辺境伯は国境警備に特化し、領地は辺境伯とは別の領主が治めているという、少し変則的な統治をしている。
領主は貴族ではなく、辺境伯の部下とも違うらしい。
…貴族でない領主…どこかで聞いた様な話ね。
辺境伯邸で開かれた夜会に義父であるセヴァリー子爵フレッドと義母ルイーズ、兄オスカーと共に参加したオリビアは、辺境伯領の噂を聞いて思う。
「オスカー殿、久しぶりだな。…君がオリビア嬢か」
主催の辺境伯に挨拶に行くと、そう声を掛けられた。
「お久しぶりです」
オスカーが礼を取るのに続けて、オリビアも「はじめまして」と礼を取る。
頭を下げながら、辺境伯とその妻に上から下まで舐める様に見られた気がした。
「そう。君が…さすがに綺麗な挨拶をするな」
「…ありがとうございます」
「オリビア様、楽しんで行ってね」
辺境伯の妻がわざとらしいとも思える笑みで言う。「ありがとうございます」ともう一度礼をして、二人から離れる。
周りの皆に見られている気がして、足早にテラスへと出た。
三年前、お兄様は学園を卒業してたから、社交界で辺境伯様にもお会いした事があるのよね。
私は卒業してなかったから初めてお会いしたけど…。
手摺りにもたれて息を吐く。
たがら夜会…嫌だったのよね。
三年前の事を知っている人には会いたくない。
母に勧められてセヴァリー子爵家の養女になったが、オリビアは社交界には出るつもりはなかったのだ。
「おい。お前」
オリビアの後ろから声がした。
「……」
ゆっくりと振り向くとシャンパンを片手に持った男性が立っていた。暗くて分かりにくいが濃いめの金髪に茶色の瞳、背はそんなに高くはないが、低くもない。太ってはいないが、細くもない、オリビアと同年代だろうか。そこそこ整った顔立ち。仕立ての良さそうな夜会服。
見覚えはないが、貴族だろうか?
「…どちら様でしょうか?」
恐る恐る聞くと、男は
「ハモンド商会の時期社長だ」
と胸を張って言う。
「ハモンド商会…」
と、言えば辺境伯領を中心に貿易などを営む大商家だ。
「ガイアだ。覚えておいて損はないぞ」
「…オリビア・セヴァリーと申します」
「セヴァリー?ああ、そうか養女になったのか。まあ仕方ないな。エバンス侯爵家は取り潰されたんだから」
ふんっと鼻で笑うように言う。
「俺は去年まで学園にいたから、エバンス侯爵家の話はよく聞いたもんだよ」
「そうですか」
「お前、嫁の貰い手ないだろう?俺が貰ってやろう」
オリビアはアルカイックスマイルを浮かべる。
「いいえ。お気持ちだけで」
ガイアはオリビアを嘲笑うような表情を見せる。
「お前、なんと、王太子妃になりたかったらしいな」
プツン。
ガイアの嗤笑を見て、オリビアの堪忍袋の緒が切れた。
「…セヴァリー家は子爵家です」
オリビアは低い声でガイアを睨む様に言う。
「は?」
「ハモンド商会時期社長様に、そのように不遜な物言いをされる謂れはありませんわ」
オリビアは扇を広げて不敵に笑って見せた。
「このっ…」
ガイアはカッと顔を赤くすると、オリビアの手を掴もうとする。
「きゃ…」
「待て」
誰かがガイアの腕を掴んだ。
オリビアを庇うようにガイアとの間に立つ。
背が高い。赤茶色の髪。後ろ姿からチラッと見えた眼鏡が光に反射した。
「お前は誰だ!?」
ガイアが腕を掴まれたまま男性を睨む。
「…女性に乱暴な真似は良くない」
「お前には関係ないだろ!」
「誰彼構わず『お前』呼ばわりするのも良くない」
「うるさい!」
ガイアは男性の腕を振り解くと
「オリビア!覚えとけよ!」
と言って走り去った。
「ええ…呼び捨て?まだ『お前』呼ばわりの方がマシ…」
オリビアは、男性の背中越しに走り去るガイアを見る。
「大丈夫でしたか?」
男性が振り向く。
赤茶色の真っ直ぐな髪。眼鏡の奥の切れ長の眼。細い顎。スラリとした手足。
「……」
美青年だ。オリビアは思わず見惚れる。
「?」
男性が首を傾げる。オリビアはハッとして礼を取る。
「ありがとうございました。私、オリビア・セヴァリーと申します」
男性は眼鏡の奥の瞳を光らせて、にっこりと笑った。
「お会いしたかったです。オリビア・エバンス元侯爵令嬢殿」
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