没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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 遠い親戚であるセヴァリー子爵家を頼って王都からこの国境沿いの地へやって来て三年、兄と共に子供のいないセヴァリー子爵夫婦の養子になって一年が経った。
「まあ、オリビアちゃんどこに行ってたの!?」
 抜き足差し足で子爵邸に戻ったオリビアは、もうすぐ厨房、というところで子爵夫人であるルイーズに声を掛けられた。
「お、お使い?」
「オリビアちゃんはもううちの娘なんですからね。お使いなんてしなくて良いのよ」
「分かってるんですけど、何かしていないと落ち着かなくて」
 オリビアは肩を竦める。ルイーズはため息を吐いた。
「ナタリーとオスカーくんとオリビアちゃんがうちに来た時すぐにうちの養子にしたら良かったわ」
 ナタリーはオリビアの実母、オスカーは実兄だ。
 オスカーはオリビアと共にセヴァリー子爵家の養子となった。ナタリーは居候として子爵家に滞在している。
「元は侯爵令嬢なんだから、もっと令嬢らしくしてて良いのよ?うちはしがない辺境の子爵家だけど、オリビアちゃんとオスカーくんに不自由はさせないわ」
「お義母かあ様、ありがとうございます。でももう侯爵令嬢ではないし…何かしていないと本当に落ち着かないの」
「仕方ないわねぇ」
 ルイーズは苦笑いすると
「今度、隣の領地の辺境伯様が夜会をされるらしいの。一緒に行きましょうね」
 と言って戻って行った。

 夜会…嫌だなあ。

 オリビアはため息を吐いてから厨房へ入る。
「遅くなってごめんなさい」
 料理長のハンスが
「お嬢が遅いから奥様がまた捜索隊を出すと言われて、止めるのが大変だったぞ」
 と笑う。周りの料理人も頷いて笑った。
「わあ。止めてくれてありがとう~」
 セヴァリー家の養子になる前、ルイーズの目をぬすんで使用人と一緒に仕事をしていた。ルイーズに言わせればオリビア達は「客人」らしかったが、オリビアにとっては「居候」だ。何もしないで客扱いされるのは居心地が悪かったのだ。
 幸い、屋敷の使用人は皆やさしく、を働いたオリビアが仕事に混じっても、嫌な顔もせずに色々教えてくれたし、ルイーズに見つかれば庇ってもくれた。
 養子となった今も「さすがに今までみたいに呼び捨てにはできない」と言って「お嬢様」と呼ばれるのを嫌がるオリビアを「お嬢」「オリー様」と呼んでかわいがってくれている。
 セヴァリー家の養子になったばかりの頃、お使いのついでに町外れにある側防塔で息抜きをして帰ったオリビアを、ルイーズが使用人総出の「捜索隊」を出して探していた事があり、今でもオリビアが長い時間屋敷に戻らないと捜索隊を出そうとするのだった。
「オリビア…あまり心配掛けるなよ」
 厨房の奥からオスカーが出てくる。
「お兄様こそ、嫡男が厨房に籠ってちゃ駄目でしょう?」
「…落ち着かないんだ」
 オスカーは後ろで結わえた茶色の髪をなびかせて、横を向く。
 兄も「居候」の頃から厩番や、御者など色々な事をして、最終的には厨房で料理を習っていた。今も料理には興味があるらしい。
「私もよ」
「妹よ!」
 兄と妹はお互いに両手でガッチリ握手をした。

「オリビア、あまり心配かけないでちょうだい」
 部屋に戻ると実母のナタリーがやって来た。
「分かってるわ。でも落ち着かないのよ」
「…子爵家の令嬢が使用人の仕事をしてるなんて外聞が悪いわ」
 
 外聞なんて、仕事してなくたって、それ以前に充分悪いのに。

「お母様だって仕事してるじゃない」
 オリビアが言うと、ナタリーは言葉に詰まる。
「…刺繍だから、家の外には出てないじゃない」
 ナタリーは刺繍の腕を活かしてハンカチ、クラバット、ドレス、様々な物に刺繍を施す仕事をしていた。
 受注するのは子爵家名義なので、ナタリーが刺繍をしている事は外部へは知られてはいない。
「結局、落ち着かないのよ。お母様も」
「…そうなんだけどね」
 ナタリーもため息を吐く。
 つまり、家族みんな働かなくては落ち着かない体質なのだ。

「お父様からお便りはあったの?」
 オリビアが聞くと、ナタリーは指を折り
「前のお便りから三週間くらい経つからそろそろね」
 と言う。
 父は「出稼ぎ」だ。
 一カ月に一度、ナタリー宛にお金が届く。手紙などは入っていないが生存は確認できる。
 消印は様々でどこで何をしているのかは定かではない。

 悪い事してないと良いけど…。

 母の前で口に出せないので心の中でオリビアは呟いた。

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