没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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 ジルは騎士服に帯剣して馬車の外に立っていた。
「ジル!」
 オリビアは立ち上がろうとしたが足が震えて立てずに膝から崩れた。
「危ない」
 ダグラスがオリビアを支える。そして、ジルを一瞥するとオリビアに問う。
「…彼は?」
「ジルは…」
 オリビアが言い掛けた時、ジルが雪の上に跪き
「私はエバンス家に雇われていた間者、オリビア様の『影』です。チャンドラー様にはオリビア様を救って頂き、ありがとうございました」
 と言う。
「…家名は呼ぶな。ダグラスで良い」
 ダグラスは眉間に皺を寄せて言う。
「はい」
「ルイは馬の調達に行ったか?」
「はい」
 ダグラスは息を吐くと、オリビアへ向き直る。
「オリビア、馬車は走れそうだが、馬が怪我をした。ルイが新しい馬を連れて戻るまでここで待つ」
「うん」
「ジル、中へ入れ」
 そう言うと、ダグラスはオリビアに背を向け、馬車を出る。
「ダグラス?」
 オリビアが声を掛けると微笑んで振り向く。
「…積もる話があるんだろう?」
 ジルを馬車へ入るよう促すと、ダグラスは雪を踏みしめて馬車を離れた。

「お久しぶりです。オリビア様」
 ジルは馬車の床に座るオリビアの前で礼を取る。
「…どうしてジルがここに?」
 オリビアがゆっくり手を伸ばすと、ジルはオリビアの手を取った。

 ダグラスは木にもたれて胸ポケットから取り出した眼鏡を掛ける。
 息を吐くと、辺りを見回す。
 輩は三人いた。盗賊ではない。オリビアを狙っていた。
 窓からオリビアの髪を掴んだ男。あいつが一番オリビアに執着していたように思う。執拗に馬車に近付こうとしていた。
 後の二人もオリビアを恨んでいたようだったが、あの男ほどの執着は感じなかった。
「息の根を止めておくべきだったか…?」
 馬車の周りには血の痕があるが、ルイが怪我をした二頭の馬と共に輩を連れて行ったようで、すでに姿はなかった。

 あの男が「ジル」か。

 ダグラスは髪を掻き上げる。
 初めて会った夜会でも様子がおかしくなったオリビアはジルに助けを求めていた。先程も「ジル!助けて!」と、そう、必死で叫んでいた。
「『オリビア様を救って頂きありがとうございました』か。…あいつに礼を言われる筋合いはないがな」
 ダグラスは苦笑する。
 大きく息を吐くと、片手で顔を覆った。
「…いつの間にこんなに大切になっていたんだ…?」

 しばらくすると、一頭の馬に乗り、もう一頭を並走させてルイが戻って来る。
「ダグラス様、どうされました?」
「いや。あの男共は?」
「間者仲間に引き渡しました。王都へ送還します」
「そうか」
 馬を馬車へ繋ぐと、扉をノックする。
「はい」
 と中からジルの声がする。
 扉を開けると、床に座ったジルの膝枕でオリビアが眠っていた。
「…眠っているのか」
「あまり話もしない内に。緊張が解けたのかと」
 ダグラスは眠るオリビアの顔を眺めると、とても穏やかな顔をして寝息を立てていた。
「そうか…」

 ジルの側なら緊張が解けるんだな。

 ダグラスはオリビアから目を逸らす。
「そのままの方が起こさなくて良いか?」
「そうですね」
 ダグラスはジルの手が届かない位置にあった毛布と手に取ると、オリビアに掛け、座席に座る。
「あの男共はルイの仲間が王都へ送還する。ジルはあいつらを知っているのか?」
「はい。私が知っているのは一人ですが」
「窓から、髪を掴んだ男か?」
「…そうです」
 やはりな。とダグラスは思った。
「山を下るまでこのまま駆ける」
「はい」
 ダグラスはオリビアから目を背けたまま、瞼を閉じた。

「ん…」
 オリビアは身じろぎすると、自分の頭の上に置かれた手に気付く。

 ダグラス…?

 薄っすら目を開けると、座席に座って足を組み、目を閉じているダグラスが見えた。
 
 ダグラスじゃ…ない…?…あ!

「ジル!」
 思わず声が出て、ガバッと起き上がると、ジルがニコリと笑う。
「おはようございます。オリビア様」
「…本当にジル?夢じゃない?」
「本物ですよ」
 その言葉にオリビアの目から涙が溢れた。
「オリビア様?」
 ジルはハンカチをオリビアに差し出した。
「ごめんなさい。ジル。ずっと会いたかったから…」

 …泣くほど会いたかったのか。

 泣き笑いのオリビアを眺め、ダグラスは苦い気持ちでまた目を閉じた。

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