没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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番外編1-4

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ナタリー編4

ナタリーはヒューゴを伴って自分の部屋へ行き、クローゼットの引き出しからブラウンのリボンを取り出す。
「ほら、これ」
「本当に持っていたのか…」
 ヒューゴは綺麗に刺繍を施されたリボンを手に取るとしげしげと眺める。
「見事な刺繍だな。だから惜しくて手元に置いておいたのか?」
「もう!」
 ナタリーはヒューゴの腕をぺシンと叩くと、上目遣いでヒューゴを見た。
「ヒューゴ様の色だからです」

 ヒューゴは学園の四年生の時、入学してきたナタリーを見て「このと結婚したい」と思ったと言う。ナタリーは決して目立つ容姿ではない。ミルクティーのような茶かがった金髪に琥珀色の瞳はありがちで、顔立ちも派手ではなかった。
 しかし諜報員や間者を使う家に育ったヒューゴはその「目立たなさ」に逆に興味を引かれた。
 ナタリーは子爵家の令嬢で、本来上位貴族であるヒューゴとは身分が釣り合わない。
 が、ヒューゴは家業を活かして色々と画策し、ナタリーが学園の最終学年になった年に見事婚約に漕ぎ着けたのだった。

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 あれから、ヒューゴはオリビアを「オリー」とは呼ばなくなった。それでもオリビアを王家に嫁がせる事を諦めない。聞けば「陛下には劣等感を覚えるんだ。自分の娘が王家に嫁げば溜飲が下がる気がする」と言っていた。
 ナタリーは、第二王子の婚約が決まると、王弟殿下は独身主義なので、ヒューゴもその内諦めるだろうと楽観視していた。
 実際何事もなければ、そうなっていただろうがーー

 突然、王太子となった第一王子が公爵令嬢との婚約を破棄した。
 …それからの出来事は思い出したくもない。

 そして、ヒューゴは姿を消したのだ。

「お父様、まだ帰って来ないのかしら」
 オリビアが純白のドレスに身を包み、ため息まじりに言った。
「オリビア、今日は憂い顔をしては駄目よ」
 ナタリーはレースのベールをオリビアに被せる。レースにはナタリーが刺繍をした。我ながらとても綺麗に仕上がったと思う。
「お母様…」
 傷ついて怯えて、それでも強がっていた愛娘が今日結婚する。
 自らの罪も、付けられた傷も、乗り越えたオリビアは、世間に何と言われようともナタリーの自慢の娘だ。

 結婚式が終わり、娘は結婚相手の住む屋敷へと向かい、ナタリーはお世話になっているセヴァリー子爵家へ戻る。
 子爵と子爵夫人、オスカーの後、最後に馬車を降りると、庭の隅に人影が動くのが目に入った。
「母上、あれは…」
 情報管理機関を担っていた家の嫡男であったオスカーがまず気付いてナタリーへ耳打ちをする。
「…オスカーは中で待っていて」
「わかりました。母上、絶対逃さないでくださいね」
「もちろんよ」
 ナタリーは人影に向かって歩き出した。

「…ヒューゴ様」
 声を掛けると、人影がゆっくり姿を現した。
「ナタリー…」
 ばつの悪そうな表情のヒューゴは、以前は短かった髪が伸び、後ろでひとまとめに結んでいる。以前はなかった髭もうっすら生えていた。
「ここに来てもオリビアの花嫁姿は見れないでしょうに」
「…教会から出てくる所を少し見た」
 ヒューゴは視線を下げる。やはりオリビアに合わせる顔がないと思っているのだろう。
「そう。オリビアの旦那様になったのは、紫の瞳の子ですよ。…縁って不思議ですわね。私、初めてダグラスを見た時、思わずじっくり瞳を覗き込んでしまいました」
 ナタリーはクスクス笑いながら言う。
「今は光の加減で稀に紫に見えるくらいなんですって」
「…そうか」
 ヒューゴは手を伸ばし、ナタリーの手を掴むと、引き寄せた。
「…すまなかった」
 ナタリーを抱きしめ、声を震わせる。
「いいの。いつか帰って来てくれると思っていたわ」
 ナタリーはヒューゴの背中を撫でた。
「ナタリー…」
「髪が伸びたのね。それに髭も…」
 ナタリーの頬にヒューゴの髭が当たる。感触を確かめるように頬ずりした。
「…嫌いなら、剃る」
「野生的で素敵だわ」
 ナタリーがそう言うと、ヒューゴはますます強くナタリーを抱きしめた。




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