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春期が始まってしばらく経ってもパリヤとマリーナの目撃情報は「アリシア様親衛隊」を中心に続々と寄せられた。
「懲りないわね」
アリシアが言うとホリーがため息を吐く。
「しかも最近は『殿下とマリーナ様の距離が近過ぎる』って情報も増えたのよ」
「距離?」
「…なんでも、図書室で隣の席で肩が触れ合い頬が触れそうな程近寄って一冊の本を二人で見ていた、とか、噴水の近くのベンチで手を握っていた、とか、誰もいない教室で抱擁していた、とか、段々過激な内容になってて」
「抱擁…」
アリシアは頭がクラクラした。それは学園といういつ何時誰に見られるか分からない場所でする事か?婚約者でもそこまで近付かない。しかも学園内で。よしんばそれが目撃した者が大袈裟に言っただけだとしても、こうして巷に話が出回っている時点で駄目なのだ。
「もう一度、殿下と話さなくてはいけないかしら…」
そう思った頃、アリシアの元にパリヤからの手紙が届いた。
【舞踏会はエスコートできない】
一言そう書かれた便箋を見て、アリシアの向かい側に座ったグレッグが「何だこりゃ」と呟く。
今日は学園のお休みの日で、アリシアは舞踏会の支度に寮へ侍女に来てもらう段取りもあり、ウィルフィス邸に帰って来ていた。
「殿下は何をお考えなのでしょう」
ジーンが珍しく憤りを隠さずに言う。
「聞こうと思うんだけど、捕まらないのよね。殿下」
アリシアがため息混じりに言うと、グレッグが
「俺がエスコートしようか?」
と言う。今まで舞踏会も卒業パーティーもパリヤのエスコートで出席していた。今更エスコートなしでは出席しにくいだろうと言うのだ。
「お兄様の気持ちは嬉しいけど、大丈夫よ。お兄様が本当にエスコートしたいのはホリーでしょうし」
「…お前、かわいくないね」
グレッグは苦虫を噛み潰したような表情でアリシアを睨む。頬が赤いので睨まれても怖くはない。
「あ、ホリーにはまだエスコートされる男性は現れてないようよ。『お婿さんの話が出るのは卒業してからかしら』ってこの間言ってたから。だからホリーと一緒に舞踏会へ出るわ」
しれっとアリシアが言うと、グレッグはガックリと俯いた。
「本当かわいくないね…」
グレッグが呟き、アリシアは苦笑いをする。
私にもっとかわいげがあれば、婚約者に浮気をされる事もなかったし、ジーンも私の事好きになってくれたのかしら…いや、それはないか。それに、私はパリヤ殿下と結婚するんだから、好きになってもらっても困るのよ。うん。そうよ。
思わず首を横に振ってジーンをチラッと見る。
「お嬢様?」
アリシアはジーンから目を逸らし、グレッグに向かって言う。
「…かわいくない妹でごめんなさいね。お兄様」
そしてジーンの向こうの壁側に控えていたダイアナに声を掛ける。
「舞踏会の日にはダイアナが来てくれる?」
「もちろんです。アリシア様」
ダイアナの笑顔の手前に眉を寄せたジーンの姿が見えた。
-----
舞踏会を半月先に控えた日、アリシアは図書室へ向かう廊下で偶然マリーナと鉢合わせた。
「マリーナ様」
アリシアは踵を返して立ち去ろうとするマリーナの制服の上着の裾を掴んだ。
「マリーナ様、待ってください」
「…アリシア様」
振り向いたマリーナの瞳はウルウルと潤んでいた。
廊下に人目がない事を確認すると、アリシアはマリーナの耳元に顔を寄せ、小さな声で言う。
「殿下との距離が近すぎます。せめて人前では控えてくださいませ」
すると、マリーナはアリシアをキッと睨んだ。
「人前でなければ良いのですか?」
「え?あの、そうじゃなくて、せめて、と…」
「アリシア様はパリヤ殿下に冷たいです。パリヤ殿下がかわいそう…」
そう言うと、はらはらと涙を流すマリーナ。
冷たい?
そうかしら?恋愛結婚じゃないんだもの、世間の貴族の婚約者同士なんてこんなものじゃないの?
「殿下がかわいそう」だなんて、私が悪かったから殿下はマリーナ様と親しくなったの?
…泣くなんて狡いわ。
アリシアが言葉に詰まると、マリーナは制服の裾を掴んだアリシアの手を振り払い
「…私は殿下をお慕いしております」
涙で濡れた顔で真っ直ぐにアリシアを見てそう言うと、踵を返して去って行った。
誰もいなくなった廊下で
「…泣きたいのはこっちよ」
アリシアは一人呟いた。
春期が始まってしばらく経ってもパリヤとマリーナの目撃情報は「アリシア様親衛隊」を中心に続々と寄せられた。
「懲りないわね」
アリシアが言うとホリーがため息を吐く。
「しかも最近は『殿下とマリーナ様の距離が近過ぎる』って情報も増えたのよ」
「距離?」
「…なんでも、図書室で隣の席で肩が触れ合い頬が触れそうな程近寄って一冊の本を二人で見ていた、とか、噴水の近くのベンチで手を握っていた、とか、誰もいない教室で抱擁していた、とか、段々過激な内容になってて」
「抱擁…」
アリシアは頭がクラクラした。それは学園といういつ何時誰に見られるか分からない場所でする事か?婚約者でもそこまで近付かない。しかも学園内で。よしんばそれが目撃した者が大袈裟に言っただけだとしても、こうして巷に話が出回っている時点で駄目なのだ。
「もう一度、殿下と話さなくてはいけないかしら…」
そう思った頃、アリシアの元にパリヤからの手紙が届いた。
【舞踏会はエスコートできない】
一言そう書かれた便箋を見て、アリシアの向かい側に座ったグレッグが「何だこりゃ」と呟く。
今日は学園のお休みの日で、アリシアは舞踏会の支度に寮へ侍女に来てもらう段取りもあり、ウィルフィス邸に帰って来ていた。
「殿下は何をお考えなのでしょう」
ジーンが珍しく憤りを隠さずに言う。
「聞こうと思うんだけど、捕まらないのよね。殿下」
アリシアがため息混じりに言うと、グレッグが
「俺がエスコートしようか?」
と言う。今まで舞踏会も卒業パーティーもパリヤのエスコートで出席していた。今更エスコートなしでは出席しにくいだろうと言うのだ。
「お兄様の気持ちは嬉しいけど、大丈夫よ。お兄様が本当にエスコートしたいのはホリーでしょうし」
「…お前、かわいくないね」
グレッグは苦虫を噛み潰したような表情でアリシアを睨む。頬が赤いので睨まれても怖くはない。
「あ、ホリーにはまだエスコートされる男性は現れてないようよ。『お婿さんの話が出るのは卒業してからかしら』ってこの間言ってたから。だからホリーと一緒に舞踏会へ出るわ」
しれっとアリシアが言うと、グレッグはガックリと俯いた。
「本当かわいくないね…」
グレッグが呟き、アリシアは苦笑いをする。
私にもっとかわいげがあれば、婚約者に浮気をされる事もなかったし、ジーンも私の事好きになってくれたのかしら…いや、それはないか。それに、私はパリヤ殿下と結婚するんだから、好きになってもらっても困るのよ。うん。そうよ。
思わず首を横に振ってジーンをチラッと見る。
「お嬢様?」
アリシアはジーンから目を逸らし、グレッグに向かって言う。
「…かわいくない妹でごめんなさいね。お兄様」
そしてジーンの向こうの壁側に控えていたダイアナに声を掛ける。
「舞踏会の日にはダイアナが来てくれる?」
「もちろんです。アリシア様」
ダイアナの笑顔の手前に眉を寄せたジーンの姿が見えた。
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舞踏会を半月先に控えた日、アリシアは図書室へ向かう廊下で偶然マリーナと鉢合わせた。
「マリーナ様」
アリシアは踵を返して立ち去ろうとするマリーナの制服の上着の裾を掴んだ。
「マリーナ様、待ってください」
「…アリシア様」
振り向いたマリーナの瞳はウルウルと潤んでいた。
廊下に人目がない事を確認すると、アリシアはマリーナの耳元に顔を寄せ、小さな声で言う。
「殿下との距離が近すぎます。せめて人前では控えてくださいませ」
すると、マリーナはアリシアをキッと睨んだ。
「人前でなければ良いのですか?」
「え?あの、そうじゃなくて、せめて、と…」
「アリシア様はパリヤ殿下に冷たいです。パリヤ殿下がかわいそう…」
そう言うと、はらはらと涙を流すマリーナ。
冷たい?
そうかしら?恋愛結婚じゃないんだもの、世間の貴族の婚約者同士なんてこんなものじゃないの?
「殿下がかわいそう」だなんて、私が悪かったから殿下はマリーナ様と親しくなったの?
…泣くなんて狡いわ。
アリシアが言葉に詰まると、マリーナは制服の裾を掴んだアリシアの手を振り払い
「…私は殿下をお慕いしております」
涙で濡れた顔で真っ直ぐにアリシアを見てそう言うと、踵を返して去って行った。
誰もいなくなった廊下で
「…泣きたいのはこっちよ」
アリシアは一人呟いた。
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