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「パリヤ殿下はマリーナ様をエスコートして舞踏会へ出るつもりなのかしら?」
ホリーが言うと、ホリーの寮の部屋のテーブルに突っ伏したアリシアが弱々しく言う。
「…そんな事したら…学園内だけじゃなく社交会全体に噂が回っちゃうわ…王太子殿下の事だし、国中かも…」
「怖っ!」
ホリーが自分の身体を抱き締めるようにして身震いする。
「はあ…でももうどうでも良いわ」
アリシアが頭を起こしながら言うとホリーは苦笑いする。
「もう殿下も、マリーナ様も、好きにしたら良いのよ。噂が国中に回ったら、いつか一周して『王太子殿下と男爵令嬢の身分違いの恋』って美談になって歓迎する空気になるかも」
「どんな周回で一周よ」
「そうしたら、私は『王太子殿下の愛のない婚約者』ってみんなから揶揄されるんだわ。その頃には『愛のない王太子妃』になってるかもね」
「やけにならないで、アリシア」
ホリーがアリシアの肩をポンポンと叩いた。
-----
舞踏会の当日、昼間に行われる舞踏会の準備の為に寮は朝から大騒ぎだ。
ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家の者は学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、迎えが来た者は歩いて向かう事になっていた。
「お綺麗ですわ。アリシア様」
支度を終えたアリシアを、ダイアナはうっとりと眺めた。
薄い紫のAラインのドレスを纏ったアリシアは「ありがとう」と言いながら心の中でため息を吐く。
この期に及んでパリヤの色である紫を身に纏った自分が何だか滑稽に見えた。
「ア~リシア!」
アリシアの部屋に同じく支度を終えたホリーがやって来る。
ホリーはエンパイアラインの薄緑のドレスで、ふんわり纏めた茶色の髪が映えてとてもナチュラルな仕上がりだ。
「ホリーかわいい!」
「アリシアも綺麗よ!」
二人で褒め合って寮を出る。
するとそこにジーンが立っていた。
「ジーン?な…」
何でここに?と聞きかけて、アリシアは口を噤む。きっとダイアナに付き添って来たんだろう。と思った。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
ジーンがアリシアに駆け寄って来て心配そうに言った。
いつもアリシアの前では無表情なジーンの、感情の現れた表情を見てアリシアは嬉しくなる。
パリヤ殿下のエスコートがない私を心配してくれているのかしら。
「大丈夫よ。今日は男性も寮に入れるし、ジーンは私の部屋でダイアナと一緒に待っていて」
心配そうに見送るジーンに手を振ってアリシアはホリーと会場へ入る。
アリシアが講堂へ入り見えなくなると、ジーンは俯いて
「…アリシア」
と呟いた。
ダンスをする気のないアリシアはホリーと共に料理やお菓子の置かれたテーブルの近くに立っていた。
「王宮の舞踏会と違って入場の時名前を呼ばれたりしない分、気楽よね」
ホリーがそう言うと、アリシアも頷く。
「そうよね。あれ、緊張するから苦手だわ。右手と右足が一緒に出そうになる」
「アリシアでも緊張するの?もう慣れてると思ってた」
「まだ学生だからそんなに舞踏会や夜会には参加してないもの。でも、あれは何度やっても慣れないわ」
アリシアが肩を竦めると、ホリーが笑いながら目配せをする。
「何?…あ」
見るとパリヤが男性たちと談笑していた。パリヤは一人でいるようだ。
「…パリヤ殿下もさすがにマリーナ様をエスコートまではしなかったみたいね」
ホリーが小声で言うと
「そうね。良かったわ」
国中の噂にならなくて。と笑ってアリシアは返した。
何度かあったダンスの誘いをホリーは全て断ってしまう。
王太子殿下を巡る噂の渦中にある私をダンスに誘う男子生徒はいないもの、ホリーは気を使ってくれてるのかしら?
「ホリーは踊って来ても良いのよ?舞踏会なんだし」
「いいの。ダンス苦手だし」
ホリーがダンスが苦手とは初耳だな、と思いながら壁際に並んで他の生徒がダンスをしているのを眺めていると
「私、パリヤ・ルーセントはアリシア・ウィルフィスとの婚約を破棄する!」
と、講堂に、よく通る男性の声が響いた。
その後…
…アリシアを断罪するパリヤの声。震えながらパリヤに寄り添うマリーナの姿。周りの喧騒。
気を失うアリシアの耳には「お嬢様!」と自分を呼ぶジーンの声が届いていた。
「パリヤ殿下はマリーナ様をエスコートして舞踏会へ出るつもりなのかしら?」
ホリーが言うと、ホリーの寮の部屋のテーブルに突っ伏したアリシアが弱々しく言う。
「…そんな事したら…学園内だけじゃなく社交会全体に噂が回っちゃうわ…王太子殿下の事だし、国中かも…」
「怖っ!」
ホリーが自分の身体を抱き締めるようにして身震いする。
「はあ…でももうどうでも良いわ」
アリシアが頭を起こしながら言うとホリーは苦笑いする。
「もう殿下も、マリーナ様も、好きにしたら良いのよ。噂が国中に回ったら、いつか一周して『王太子殿下と男爵令嬢の身分違いの恋』って美談になって歓迎する空気になるかも」
「どんな周回で一周よ」
「そうしたら、私は『王太子殿下の愛のない婚約者』ってみんなから揶揄されるんだわ。その頃には『愛のない王太子妃』になってるかもね」
「やけにならないで、アリシア」
ホリーがアリシアの肩をポンポンと叩いた。
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舞踏会の当日、昼間に行われる舞踏会の準備の為に寮は朝から大騒ぎだ。
ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家の者は学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、迎えが来た者は歩いて向かう事になっていた。
「お綺麗ですわ。アリシア様」
支度を終えたアリシアを、ダイアナはうっとりと眺めた。
薄い紫のAラインのドレスを纏ったアリシアは「ありがとう」と言いながら心の中でため息を吐く。
この期に及んでパリヤの色である紫を身に纏った自分が何だか滑稽に見えた。
「ア~リシア!」
アリシアの部屋に同じく支度を終えたホリーがやって来る。
ホリーはエンパイアラインの薄緑のドレスで、ふんわり纏めた茶色の髪が映えてとてもナチュラルな仕上がりだ。
「ホリーかわいい!」
「アリシアも綺麗よ!」
二人で褒め合って寮を出る。
するとそこにジーンが立っていた。
「ジーン?な…」
何でここに?と聞きかけて、アリシアは口を噤む。きっとダイアナに付き添って来たんだろう。と思った。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
ジーンがアリシアに駆け寄って来て心配そうに言った。
いつもアリシアの前では無表情なジーンの、感情の現れた表情を見てアリシアは嬉しくなる。
パリヤ殿下のエスコートがない私を心配してくれているのかしら。
「大丈夫よ。今日は男性も寮に入れるし、ジーンは私の部屋でダイアナと一緒に待っていて」
心配そうに見送るジーンに手を振ってアリシアはホリーと会場へ入る。
アリシアが講堂へ入り見えなくなると、ジーンは俯いて
「…アリシア」
と呟いた。
ダンスをする気のないアリシアはホリーと共に料理やお菓子の置かれたテーブルの近くに立っていた。
「王宮の舞踏会と違って入場の時名前を呼ばれたりしない分、気楽よね」
ホリーがそう言うと、アリシアも頷く。
「そうよね。あれ、緊張するから苦手だわ。右手と右足が一緒に出そうになる」
「アリシアでも緊張するの?もう慣れてると思ってた」
「まだ学生だからそんなに舞踏会や夜会には参加してないもの。でも、あれは何度やっても慣れないわ」
アリシアが肩を竦めると、ホリーが笑いながら目配せをする。
「何?…あ」
見るとパリヤが男性たちと談笑していた。パリヤは一人でいるようだ。
「…パリヤ殿下もさすがにマリーナ様をエスコートまではしなかったみたいね」
ホリーが小声で言うと
「そうね。良かったわ」
国中の噂にならなくて。と笑ってアリシアは返した。
何度かあったダンスの誘いをホリーは全て断ってしまう。
王太子殿下を巡る噂の渦中にある私をダンスに誘う男子生徒はいないもの、ホリーは気を使ってくれてるのかしら?
「ホリーは踊って来ても良いのよ?舞踏会なんだし」
「いいの。ダンス苦手だし」
ホリーがダンスが苦手とは初耳だな、と思いながら壁際に並んで他の生徒がダンスをしているのを眺めていると
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と、講堂に、よく通る男性の声が響いた。
その後…
…アリシアを断罪するパリヤの声。震えながらパリヤに寄り添うマリーナの姿。周りの喧騒。
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