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アリシアが目を覚ますと、すでに夜で部屋の中は暗かった。
「アリシア?大丈夫か?」
ジーンがアリシアの顔を覗き込んで来る。
「ジ、ジーン?何で?」
アリシアはガバリと起き上がると、ベッドの側に持って来た椅子に座るジーンを見て、そして周りを見回す。
誰もいない…何でジーンと二人きりなの…?
貴族の男女は異性と二人きりにならない様、本人も周りもとても神経を使っている。ただ話をする時にも侍女や侍従などを側に置いたり、扉を開けておいたり。なのに、今、部屋のドアも窓も閉められて、暗い部屋にアリシアとジーンは二人きりだ。
「昼間、グレッグが言った事、覚えてるか?」
「ええと…」
アリシアはグレッグが言った事を思い出そうとするが、頭の中が違う事で埋め尽くされていて上手くできなかった。
ジーンが、私の事「アリシア」って!
言葉遣いも砕けてるしお兄様の事も名前で呼んでる!?
待って。今はお兄様に言われた事を…ええと、何だっけ。
二人きりの状況と、いつもと違うジーンの態度に動揺しながらも、兄に言われた事を思い出そうとする。そして
「あ!ジーンと結婚しろ!」
思い出して声を上げたところでジーンと目が合う。ジーンが苦笑いする。
「…って…言われた…わ」
いつも慇懃で無表情なジーン。例え苦笑いでも感情のあるジーンの表情をアリシアは呆然と眺めた。
「そうだな」
ジーンは右手の甲を唇に当て、笑いを堪えているようだ。
「…どういう事なの?」
グレッグとジーンは「王宮からの要請を断るにはアリシアに恋人がいる事にすれば良いのではないか」と話し合い、そのアリシアの恋人はジーンとするのが一番自然だろうと、父へ申し出た。
そして令嬢と使用人の恋が表沙汰になるためには、家長である父の許しがない筈がない事、「最近恋人ができた」だけでは王命に背く事はできない事を踏まえ、アリシアが「ジーンと結婚したい」と父に訴え、しぶしぶそれを認めた、という設定ができあがった。
「と、言っても、俺は『恋人同士になる』ところまでしか聞いてなかったんだが…」
ひとしきり説明を終えて、ジーンが困惑した様に言う。
「そ、それで、私が、お父様にジーンとけっ結婚したいって訴えたの?今すぐき…既成事実を作る。反対するなら駆け落ちするって脅した、の?」
アリシアが自分の所業の設定をしどろもどろに確認する。寒気がするのに頭が爆発しそうに熱い。アリシアは軽い混乱状態だ。
「そうだ」
「…それで、ジーンは?私の事を…すっ好き、だって設定なの?」
「ああ。俺はずっとアリシアを好きだった」
ドキンとアリシアの心臓が鳴った。ジーンがアリシアを見つめている。無表情とは違う、真剣な表情だ。
設定の話よ。真面目に捉えちゃだめよ、アリシア。
だってジーンには…。
「そっ…そういう設定なのね!」
アリシアはジーンから目を逸らす。
「…そうだな。アリシアには想い人がいるんだったな。こんな作り話で誤解を与えてしまっては困る…か」
ジーンがため息を吐きながら言う。
「え?」
後半は呟くような声で、アリシアの耳には届いていない。ジーンは俯いて右手で自分の目を覆う。
「ジ…ジーンこそ、ちゃんと本当の恋人に事情を説明してる?誤解されたらいけないわ」
「本当の恋人?」
ジーンが顔を上げる。アリシアは自分の膝の上に置いた手元を見つめた。
「…隠さなくても良いの。…ダイアナとお付き合いをしてるんでしょう?」
アリシアの台詞に、ジーンはこれ以上ないほど目を見開く。
「は?」
「見たの。二人が夜の庭で会っているのを」
「待て。アリシア」
ジーンがアリシアの両肩を引き、自分の方へ向かせる。
「ジーン?」
「…それは…本当に、誤解だ」
ジーンはアリシアの両肩を掴んだまま俯いた。
ジーンは、ダイアナから「アリシアがパリヤとマリーナの関係に悩んでいる」と聞かされ、マリーナの家の使用人達に会いに行った、とアリシアに話す。
昼間はあちらもこちらも仕事があるし、王太子の婚約者の立場の公爵家の者が、その王太子と特別仲が良いと噂の男爵家の者と接触する事はお互いに周囲には知られたくないので、ジーンがダイアナを立ち会いに男爵家の使用人と会うのは大体夜中だったのだ。
「わ、私のため?」
「…そうだ」
「何でそんな…」
「アリシアが悩んでいるなら、何とか…何とかしたかったんだ。…まあどうにもならなかったが」
ジーンは苦く笑う。
「何で」と呟くアリシアを
「さっきも言ったろ」
ジーンは真っ直ぐに見つめた。
「俺はずっとアリシアを好きだった」
アリシアが目を覚ますと、すでに夜で部屋の中は暗かった。
「アリシア?大丈夫か?」
ジーンがアリシアの顔を覗き込んで来る。
「ジ、ジーン?何で?」
アリシアはガバリと起き上がると、ベッドの側に持って来た椅子に座るジーンを見て、そして周りを見回す。
誰もいない…何でジーンと二人きりなの…?
貴族の男女は異性と二人きりにならない様、本人も周りもとても神経を使っている。ただ話をする時にも侍女や侍従などを側に置いたり、扉を開けておいたり。なのに、今、部屋のドアも窓も閉められて、暗い部屋にアリシアとジーンは二人きりだ。
「昼間、グレッグが言った事、覚えてるか?」
「ええと…」
アリシアはグレッグが言った事を思い出そうとするが、頭の中が違う事で埋め尽くされていて上手くできなかった。
ジーンが、私の事「アリシア」って!
言葉遣いも砕けてるしお兄様の事も名前で呼んでる!?
待って。今はお兄様に言われた事を…ええと、何だっけ。
二人きりの状況と、いつもと違うジーンの態度に動揺しながらも、兄に言われた事を思い出そうとする。そして
「あ!ジーンと結婚しろ!」
思い出して声を上げたところでジーンと目が合う。ジーンが苦笑いする。
「…って…言われた…わ」
いつも慇懃で無表情なジーン。例え苦笑いでも感情のあるジーンの表情をアリシアは呆然と眺めた。
「そうだな」
ジーンは右手の甲を唇に当て、笑いを堪えているようだ。
「…どういう事なの?」
グレッグとジーンは「王宮からの要請を断るにはアリシアに恋人がいる事にすれば良いのではないか」と話し合い、そのアリシアの恋人はジーンとするのが一番自然だろうと、父へ申し出た。
そして令嬢と使用人の恋が表沙汰になるためには、家長である父の許しがない筈がない事、「最近恋人ができた」だけでは王命に背く事はできない事を踏まえ、アリシアが「ジーンと結婚したい」と父に訴え、しぶしぶそれを認めた、という設定ができあがった。
「と、言っても、俺は『恋人同士になる』ところまでしか聞いてなかったんだが…」
ひとしきり説明を終えて、ジーンが困惑した様に言う。
「そ、それで、私が、お父様にジーンとけっ結婚したいって訴えたの?今すぐき…既成事実を作る。反対するなら駆け落ちするって脅した、の?」
アリシアが自分の所業の設定をしどろもどろに確認する。寒気がするのに頭が爆発しそうに熱い。アリシアは軽い混乱状態だ。
「そうだ」
「…それで、ジーンは?私の事を…すっ好き、だって設定なの?」
「ああ。俺はずっとアリシアを好きだった」
ドキンとアリシアの心臓が鳴った。ジーンがアリシアを見つめている。無表情とは違う、真剣な表情だ。
設定の話よ。真面目に捉えちゃだめよ、アリシア。
だってジーンには…。
「そっ…そういう設定なのね!」
アリシアはジーンから目を逸らす。
「…そうだな。アリシアには想い人がいるんだったな。こんな作り話で誤解を与えてしまっては困る…か」
ジーンがため息を吐きながら言う。
「え?」
後半は呟くような声で、アリシアの耳には届いていない。ジーンは俯いて右手で自分の目を覆う。
「ジ…ジーンこそ、ちゃんと本当の恋人に事情を説明してる?誤解されたらいけないわ」
「本当の恋人?」
ジーンが顔を上げる。アリシアは自分の膝の上に置いた手元を見つめた。
「…隠さなくても良いの。…ダイアナとお付き合いをしてるんでしょう?」
アリシアの台詞に、ジーンはこれ以上ないほど目を見開く。
「は?」
「見たの。二人が夜の庭で会っているのを」
「待て。アリシア」
ジーンがアリシアの両肩を引き、自分の方へ向かせる。
「ジーン?」
「…それは…本当に、誤解だ」
ジーンはアリシアの両肩を掴んだまま俯いた。
ジーンは、ダイアナから「アリシアがパリヤとマリーナの関係に悩んでいる」と聞かされ、マリーナの家の使用人達に会いに行った、とアリシアに話す。
昼間はあちらもこちらも仕事があるし、王太子の婚約者の立場の公爵家の者が、その王太子と特別仲が良いと噂の男爵家の者と接触する事はお互いに周囲には知られたくないので、ジーンがダイアナを立ち会いに男爵家の使用人と会うのは大体夜中だったのだ。
「わ、私のため?」
「…そうだ」
「何でそんな…」
「アリシアが悩んでいるなら、何とか…何とかしたかったんだ。…まあどうにもならなかったが」
ジーンは苦く笑う。
「何で」と呟くアリシアを
「さっきも言ったろ」
ジーンは真っ直ぐに見つめた。
「俺はずっとアリシアを好きだった」
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