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暗い部屋で目が覚めた。
まだ夜みたいだけど、どのくらい時間が経ったんだろう?
柔らかい所に寝かされていて、後手で手首と、足首を縛られている。猿ぐつわはされていない。
暗くて良く見えないけど…ベッドの上?
窓があって…カーテンは掛ってないわ。結構広い部屋みたい。貴族の屋敷、なのかしら?
でもベッド以外の調度品が見えないから、空き家なのかも。
私の左側にある部屋の扉が開いて、光が差し込んで来た。
「!」
眩しくて目を細めながら扉の方を見ると、男性らしいシルエットが見える。
「おや。もう目が覚めたんですか?」
この声は。
「ロンダム先生!?」
長い金髪を後ろで結え、橙色の瞳の上に眼鏡を掛けた、柔和な顔立ちの国語教師のスコット・ロンダム。
男爵家の次男で、二十六歳独身。生徒からの人気も高い先生が、私を誘拐したの?
「スコットと呼んでください。クラリッサ」
ニコリと笑うロンダム先生は、後手で扉を閉めると、カチリと鍵を閉めた。
私の背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
今までロンダム先生から名前を呼び捨てにされた事なんてない。ロンダム先生の授業を受けたのは二年生の時だけだし。
「この家はどうですか?クラリッサと住むために用意したんです」
「……は…?」
私と住むため?
やっぱりあの手紙を書いたのはロンダム先生なのね。
「ああ、カーテンも調度品も一緒に選びましょうね。クラリッサの好みの物を買い揃えましょう」
一歩づつ、ゆっくりとベッドに近付いて来る。
「…来ないで」
「ベッドだけは私が選ばせてもらいました。どうしても早く必要でしたので」
笑いながら喋っているけど…目が笑ってない。
怖い。
「来ないで」
声が震えて、ロンダム先生の口角がまた上がった。
「どうしてベッドが必要か、ですか?」
「そんな事聞いてない!」
「それはもちろん、私とクラリッサが結ばれるためですよ」
ニイッと嗤う。
「身分違いの恋ですから、例え連れ戻されてもクラリッサが私以外と婚姻を結ぶ事ができないように、まずは既成事実を作らなくては。そして明日の朝には新聞社からこの事実を広めてもらいます。私たちの純愛がゴシップ扱いをされるのは本意ではありませんが、仕方ありません」
「…純愛って何ですか?私、先生の事なんて好きじゃありません!」
逃げようとベッドの上で身を捩るけど、手も足も縛られていてほとんど動けない。
「本当はあの手紙を渡した日に一緒にここへ来て、結ばれた事を卒業パーティーで皆に知らせるつもりだったんですよ」
ロンダム先生がベッドのすぐ脇まで来て、マットレスの上に両手をついた。
「そうすれば学園に集まった貴族や有力な平民の子息が勝手に国中に私たちが愛し合って結ばれた事を伝えてくれますから」
「愛し合ってなんかいない!」
起き上がる事すらできなくて、私は必死で身体を捻ってズリズリと後ずさる。
「それなのに、クラリッサは寮へ帰ってしまった。大丈夫。照れていたんだという事はわかっています。卒業パーティーに騎士を連れていたのも公爵家に護衛を無理矢理着けられたんでしょう?既成事実を作る前に公爵家に引き裂かれてはいけないので、卒業パーティーではクラリッサを見るのも自重しました。美しいドレス姿をじっくり見られなくて残念です」
片膝を乗り上げてマットレスが沈む。
「先生、話を聞いて!」
笑っていない橙の瞳が、私を見据えた。
「愛していますよ。クラリッサ」
仄暗く光る瞳に、身体中が震えて力が入らない。
…怖い。
怖い。
嫌。
誰か…
誰か助けて…
ブルブルと震えながら、仄暗い瞳を見ていられなくて、でも目を閉じる事もできなくて。
頭に浮かんだのは、ネイト様の姿──…
「助けて…」
助けて。ネイト様。助けて!!
ガシャーンッ!
バキッ!バアンッ!
窓ガラスが割れる音と、扉が蹴破られる音が同時に聞こえる。
「何!?」
扉から入って来たのはネイト様だ。
バキッ!
ダンッ!
ドンッ!
走って来たネイト様が、ロンダム先生が振り向くまでに首へ蹴りをいれ、ロンダム先生の身体がふっ飛んで床へ叩きつけられ、滑って背中から壁にぶつかった。
私がそれを呆然と眺めていると、窓から入って来た騎士がロンダム先生へと駆け寄って行くのが見える。
「俺のイブに怪我させやがって!」
そう言って倒れているロンダム先生の腹を蹴り上げたのはジョーンズ様だった。
「クラリッサ嬢、大丈夫か?」
ネイト様が私の背中とマットレスの間に手を入れて起き上がらせてくれる。
「…ネイト様」
怖かった。
怖かった。
「痛む所は?」
手首を縛る縄を短剣で切り、足首の方へ行こうとしたネイト様の首元に、私は思わず抱きついた。
「…こわ…かっ………来てくださっ……ありが…と…ござ………」
涙が溢れて声にならない。
「遅くなってすまない」
ネイト様は穏やかな声で言うと、私の背中を優しくポンポンと叩く。
私が首を横に振ると、ネイト様はそれから私が落ち着くまでずっと背中を叩き続けてくださった。
暗い部屋で目が覚めた。
まだ夜みたいだけど、どのくらい時間が経ったんだろう?
柔らかい所に寝かされていて、後手で手首と、足首を縛られている。猿ぐつわはされていない。
暗くて良く見えないけど…ベッドの上?
窓があって…カーテンは掛ってないわ。結構広い部屋みたい。貴族の屋敷、なのかしら?
でもベッド以外の調度品が見えないから、空き家なのかも。
私の左側にある部屋の扉が開いて、光が差し込んで来た。
「!」
眩しくて目を細めながら扉の方を見ると、男性らしいシルエットが見える。
「おや。もう目が覚めたんですか?」
この声は。
「ロンダム先生!?」
長い金髪を後ろで結え、橙色の瞳の上に眼鏡を掛けた、柔和な顔立ちの国語教師のスコット・ロンダム。
男爵家の次男で、二十六歳独身。生徒からの人気も高い先生が、私を誘拐したの?
「スコットと呼んでください。クラリッサ」
ニコリと笑うロンダム先生は、後手で扉を閉めると、カチリと鍵を閉めた。
私の背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
今までロンダム先生から名前を呼び捨てにされた事なんてない。ロンダム先生の授業を受けたのは二年生の時だけだし。
「この家はどうですか?クラリッサと住むために用意したんです」
「……は…?」
私と住むため?
やっぱりあの手紙を書いたのはロンダム先生なのね。
「ああ、カーテンも調度品も一緒に選びましょうね。クラリッサの好みの物を買い揃えましょう」
一歩づつ、ゆっくりとベッドに近付いて来る。
「…来ないで」
「ベッドだけは私が選ばせてもらいました。どうしても早く必要でしたので」
笑いながら喋っているけど…目が笑ってない。
怖い。
「来ないで」
声が震えて、ロンダム先生の口角がまた上がった。
「どうしてベッドが必要か、ですか?」
「そんな事聞いてない!」
「それはもちろん、私とクラリッサが結ばれるためですよ」
ニイッと嗤う。
「身分違いの恋ですから、例え連れ戻されてもクラリッサが私以外と婚姻を結ぶ事ができないように、まずは既成事実を作らなくては。そして明日の朝には新聞社からこの事実を広めてもらいます。私たちの純愛がゴシップ扱いをされるのは本意ではありませんが、仕方ありません」
「…純愛って何ですか?私、先生の事なんて好きじゃありません!」
逃げようとベッドの上で身を捩るけど、手も足も縛られていてほとんど動けない。
「本当はあの手紙を渡した日に一緒にここへ来て、結ばれた事を卒業パーティーで皆に知らせるつもりだったんですよ」
ロンダム先生がベッドのすぐ脇まで来て、マットレスの上に両手をついた。
「そうすれば学園に集まった貴族や有力な平民の子息が勝手に国中に私たちが愛し合って結ばれた事を伝えてくれますから」
「愛し合ってなんかいない!」
起き上がる事すらできなくて、私は必死で身体を捻ってズリズリと後ずさる。
「それなのに、クラリッサは寮へ帰ってしまった。大丈夫。照れていたんだという事はわかっています。卒業パーティーに騎士を連れていたのも公爵家に護衛を無理矢理着けられたんでしょう?既成事実を作る前に公爵家に引き裂かれてはいけないので、卒業パーティーではクラリッサを見るのも自重しました。美しいドレス姿をじっくり見られなくて残念です」
片膝を乗り上げてマットレスが沈む。
「先生、話を聞いて!」
笑っていない橙の瞳が、私を見据えた。
「愛していますよ。クラリッサ」
仄暗く光る瞳に、身体中が震えて力が入らない。
…怖い。
怖い。
嫌。
誰か…
誰か助けて…
ブルブルと震えながら、仄暗い瞳を見ていられなくて、でも目を閉じる事もできなくて。
頭に浮かんだのは、ネイト様の姿──…
「助けて…」
助けて。ネイト様。助けて!!
ガシャーンッ!
バキッ!バアンッ!
窓ガラスが割れる音と、扉が蹴破られる音が同時に聞こえる。
「何!?」
扉から入って来たのはネイト様だ。
バキッ!
ダンッ!
ドンッ!
走って来たネイト様が、ロンダム先生が振り向くまでに首へ蹴りをいれ、ロンダム先生の身体がふっ飛んで床へ叩きつけられ、滑って背中から壁にぶつかった。
私がそれを呆然と眺めていると、窓から入って来た騎士がロンダム先生へと駆け寄って行くのが見える。
「俺のイブに怪我させやがって!」
そう言って倒れているロンダム先生の腹を蹴り上げたのはジョーンズ様だった。
「クラリッサ嬢、大丈夫か?」
ネイト様が私の背中とマットレスの間に手を入れて起き上がらせてくれる。
「…ネイト様」
怖かった。
怖かった。
「痛む所は?」
手首を縛る縄を短剣で切り、足首の方へ行こうとしたネイト様の首元に、私は思わず抱きついた。
「…こわ…かっ………来てくださっ……ありが…と…ござ………」
涙が溢れて声にならない。
「遅くなってすまない」
ネイト様は穏やかな声で言うと、私の背中を優しくポンポンと叩く。
私が首を横に振ると、ネイト様はそれから私が落ち着くまでずっと背中を叩き続けてくださった。
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