16 / 25
15
しおりを挟む
15
監視を掻い潜ってロンダム先生が姿を消したのは一時間くらい前らしい。
「四階建ての三階にある寮の部屋へ侵入し、クラリッサ嬢を担いで無傷で逃げられるくらいなので、ロンダムが全くの素人とは思えず、色々調べてみたんですが背後関係も何も出なくて……やっぱりダンヴァーズ分団長の危惧した通り、やはり釈放は早かったんだ」
応接室の扉の側に立って事情を説明してくださったザウル様は悔しそうに拳を握りしめる。
「ザウル様…」
第四分団の騎士様の監視を掻い潜れるんだもの、確かにただの教師とは思えない。
「クラリッサ」
隣に座るイブが震える私の手を握ってくれた。
-----
「お兄様にもセシリアお義姉様にもご迷惑をお掛けしてすみません」
「いや、クラリッサが悪い訳ではない。それよりクラリッサこそ充分気をつけろよ」
知らせを受けて直ぐに王城から帰って来てくれたお兄様に頭を下げると、お兄様が私の肩をポンと叩いた。
「そうよ。一番迷惑を被ってるのはクラリッサじゃないの。私たちは大丈夫だから気にしないで」
お兄様を迎えに出たセシリア様もそう言ってくれる。
「それより一人にならない方がいいわ。イブ様はお帰りになったんでしょう?私たちの部屋に来る?」
「お父様たちもそう言ってくださったけど、騎士様方がいてくださるから大丈夫よ」
あれから応援の騎士様が三人来てくれたので、ジョーンズ様がイブを家まで送って行ったのだ。
先生が来るとしたらまた夜中かしら…?
ここは二階だけど、また窓から?
部屋に一人になるとやっぱり心細い。少しの物音でもビクビクしてしまうわ。
アンにいてもらえば良かったかしら。
でも一緒にいる人にまた怪我をさせるのも嫌だし。
廊下や屋敷の外にも騎士様がいるから寮の時みたいに侵入できないとは思うけど…
そして、まんじりともしないまま、夜が明けた。
-----
結局、その夜は何もなく、ロンダム先生は見つかっていないまま二日が経ち、また夜が来る。
「ネイト様が王都に戻るまで、あと五日もある…」
小声で呟く。
ネイト様がいてくだされば心強いのに、なんて思ってしまう自分に苦笑いが浮かぶ。
心細いからってネイト様に依存しちゃだめ。この件に片が付いたらネイト様との接点もなくなるんだから。
私はただのファンよ。
寝室のカウチに座って自分に言い聞かせていると、窓の外が明るくなった。
「…え?」
カーテン越しに灯りがゆらゆらと揺れている。
窓に近付くのは怖い。
でも確かめなきゃ。あれは、もしかして……炎?
カウチから立ち上がり掛けた時、寝室のドアが激しくノックされた。
ドンドンドン!
「クラリッサ嬢!火事です!」
ジョーンズ様の声が聞こえる。
火事!
やっぱり炎だったんだ!
いつでも逃げられるように寝衣じゃなく部屋着を着てて良かった。
寝室の扉を開けると、続きの部屋の扉を開けたジョーンズ様の姿が見えた。
「外に団員もいますし、屋敷の者も消火に当たっていますから、すぐ消し止められると思いますが、念の為脱出できるように準備してください」
「私はすぐにで」
ガシャーンッ!!
私の言葉を遮るようにガラスの割れた音が響く。
私の部屋───ではなく、離れた場所から。
「キャーッ!ロレッタ様!!」
女性の声。
「俺が様子を見て来ますので、クラリッサ嬢はあの団員と一緒に避難してください」
ジョーンズ様が廊下で控えていたもう一人の騎士様を指して言った。
「でもロレッタが…」
「もしもロンダムなら、クラリッサ嬢の方が危ない」
だからって私の代わりにロレッタが危険な目に遭うのは嫌。
「クラリッサ!出て来てください」
廊下にロンダム先生の声が響く。
「!」
「クラリッサ嬢!駄目です!」
ジョーンズ様の静止を振り切り、弾かれるように私は廊下を駆け出した。
監視を掻い潜ってロンダム先生が姿を消したのは一時間くらい前らしい。
「四階建ての三階にある寮の部屋へ侵入し、クラリッサ嬢を担いで無傷で逃げられるくらいなので、ロンダムが全くの素人とは思えず、色々調べてみたんですが背後関係も何も出なくて……やっぱりダンヴァーズ分団長の危惧した通り、やはり釈放は早かったんだ」
応接室の扉の側に立って事情を説明してくださったザウル様は悔しそうに拳を握りしめる。
「ザウル様…」
第四分団の騎士様の監視を掻い潜れるんだもの、確かにただの教師とは思えない。
「クラリッサ」
隣に座るイブが震える私の手を握ってくれた。
-----
「お兄様にもセシリアお義姉様にもご迷惑をお掛けしてすみません」
「いや、クラリッサが悪い訳ではない。それよりクラリッサこそ充分気をつけろよ」
知らせを受けて直ぐに王城から帰って来てくれたお兄様に頭を下げると、お兄様が私の肩をポンと叩いた。
「そうよ。一番迷惑を被ってるのはクラリッサじゃないの。私たちは大丈夫だから気にしないで」
お兄様を迎えに出たセシリア様もそう言ってくれる。
「それより一人にならない方がいいわ。イブ様はお帰りになったんでしょう?私たちの部屋に来る?」
「お父様たちもそう言ってくださったけど、騎士様方がいてくださるから大丈夫よ」
あれから応援の騎士様が三人来てくれたので、ジョーンズ様がイブを家まで送って行ったのだ。
先生が来るとしたらまた夜中かしら…?
ここは二階だけど、また窓から?
部屋に一人になるとやっぱり心細い。少しの物音でもビクビクしてしまうわ。
アンにいてもらえば良かったかしら。
でも一緒にいる人にまた怪我をさせるのも嫌だし。
廊下や屋敷の外にも騎士様がいるから寮の時みたいに侵入できないとは思うけど…
そして、まんじりともしないまま、夜が明けた。
-----
結局、その夜は何もなく、ロンダム先生は見つかっていないまま二日が経ち、また夜が来る。
「ネイト様が王都に戻るまで、あと五日もある…」
小声で呟く。
ネイト様がいてくだされば心強いのに、なんて思ってしまう自分に苦笑いが浮かぶ。
心細いからってネイト様に依存しちゃだめ。この件に片が付いたらネイト様との接点もなくなるんだから。
私はただのファンよ。
寝室のカウチに座って自分に言い聞かせていると、窓の外が明るくなった。
「…え?」
カーテン越しに灯りがゆらゆらと揺れている。
窓に近付くのは怖い。
でも確かめなきゃ。あれは、もしかして……炎?
カウチから立ち上がり掛けた時、寝室のドアが激しくノックされた。
ドンドンドン!
「クラリッサ嬢!火事です!」
ジョーンズ様の声が聞こえる。
火事!
やっぱり炎だったんだ!
いつでも逃げられるように寝衣じゃなく部屋着を着てて良かった。
寝室の扉を開けると、続きの部屋の扉を開けたジョーンズ様の姿が見えた。
「外に団員もいますし、屋敷の者も消火に当たっていますから、すぐ消し止められると思いますが、念の為脱出できるように準備してください」
「私はすぐにで」
ガシャーンッ!!
私の言葉を遮るようにガラスの割れた音が響く。
私の部屋───ではなく、離れた場所から。
「キャーッ!ロレッタ様!!」
女性の声。
「俺が様子を見て来ますので、クラリッサ嬢はあの団員と一緒に避難してください」
ジョーンズ様が廊下で控えていたもう一人の騎士様を指して言った。
「でもロレッタが…」
「もしもロンダムなら、クラリッサ嬢の方が危ない」
だからって私の代わりにロレッタが危険な目に遭うのは嫌。
「クラリッサ!出て来てください」
廊下にロンダム先生の声が響く。
「!」
「クラリッサ嬢!駄目です!」
ジョーンズ様の静止を振り切り、弾かれるように私は廊下を駆け出した。
8
あなたにおすすめの小説
私が育てたのは駄犬か、それとも忠犬か 〜結婚を断ったのに麗しの騎士様に捕まっています〜
日室千種・ちぐ
恋愛
ランドリック・ゼンゲンは将来を約束された上級騎士であり、麗しの貴公子だ。かつて流した浮名は数知れず、だが真の恋の相手は従姉妹で、その結婚を邪魔しようとしたと噂されている。成人前からゼンゲン侯爵家預かりとなっている子爵家の娘ジョゼットは、とある事情でランドリックと親しんでおり、その噂が嘘だと知っている。彼は人の心に鈍感であることに悩みつつも向き合う、真の努力家であり、それでもなお自分に自信が持てないことも、知っていて、密かに心惹かれていた。だが、そのランドリックとの結婚の話を持ちかけられたジョゼットは、彼が自分を女性として見ていないことに、いずれ耐えられなくなるはずと、断る決断をしたのだが――。
(なろう版ではなく、やや大人向け版です)
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。
稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」
兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。
「取引……ですか?」
「ああ、私と結婚してほしい」
私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか……
ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。
* * * * * * * * * * * *
青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。
最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。
リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。
※ゆる〜い設定です。
※完結保証。
※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる