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「そうか、そんな噂が…」
ネイト様に抱きしめられたまま、私がアンから聞いたネイト様とレオノーラ殿下の噂話を話すと、ネイト様はそう呟いた。
「ネイト様、王太子妃殿下の里下がりの護衛も他の人に任せることができないって仰って、だから私…ネイト様は王太子妃殿下をずっと好きなんだと…」
「なるほど」
頷いて、ネイト様はふうっと息を吐く。
「俺はレオノーラに恋愛感情を抱いた事はない。レオノーラの方もそうだ。ただ、俺が自ら第四分団を希望し、それがレオノーラを護るためなのは確かだ。それは……贖罪のためだ」
「贖罪…?」
私がネイト様を見上げると、ネイト様は困ったように笑った。
「…愉快な話ではないし、話せば長い。そろそろクラリッサもご家族に顔を見せないと、心配されているだろう?」
それはそうなんだけど…
「それに」
ネイト様がチラッと部屋の扉の方へ視線をやる。
私も扉の方を見ると、開いた扉の向こうへ部屋に背を向けるように立っている騎士様の制服の肩が見えた。
わっ、私たちが、だ、だだだ抱き合ってるから、遠慮されてる!!
「そんな訳で、俺も詰所へ戻らないといけない。…明日また来るから」
「は、はい!」
ネイト様が一瞬で真っ赤になった私を見て微笑みながら立ち上がる。
私は片手で熱くなった頬を押さえて、もう片方の手でネイト様に差し出された手を取った。
-----
翌日、予告通りマルセル公爵家に来てくださったネイト様。
今は、お父様が昨夜の小火とロンダムの件で王城へ行かれているので、帰りを待つ間、応接室で二人で話している処。扉は開けて、ネイト様と私は向かい合わせに座っている。
「スコット・ロンダムの名を騙っていたあの男は北の国から送り込まれた間諜だったんだ。情報収集のための間諜を他国に送り込む事はどの国でもよくある事だが、学園に教師として入り込まれたのは問題だ」
「そうですよね…」
学園は国内の貴族や有力者の子息の集まり。そこに間諜が入り込んで自国の益になるよう生徒たちを洗脳したり、優秀な人材を頭角を表す前に潰したり、自国へ引き抜いたりする事も考えられるし。
「寮での事件の時は、諜報機関が本物のスコット・ロンダムの実家の男爵家へ知らせる情報を操作していたそうだ。更に国の高官たちが学園へ間者を侵入させた不手際を隠蔽するため、北の国との外交問題を避けるため、令嬢の醜聞を避けるという大義名分を掲げて事件を揉み消そうとした。だから諜報機関の圧に負け、ロンダムが釈放されてしまったんだ」
ネイト様が苦々しい口調で言った。
「北の国の諜報機関が速やかにロンダムを消してくれるのを期待していた部分もあるんだろう」
「…もしも、私があの男に連れて行かれていたら、私も一緒に消されてた……?」
私がそう呟くと、ネイト様は眉間に皺を寄せる。
「……」
ネイト様が何も言わない事で、私も確実に殺されてたんだと改めて思った。
「待たせたね。ネイト君」
ほどなくお父様が王城から帰宅し、応接室に入って来て私の隣に座る。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。閣下」
立ち上がって頭を下げるネイト様に、お父様は頷いて座るように手で示した。
「そう畏まらなくて良いよ」
ソファに座ったネイト様と私とを見て、お父様は話し出す。
「スコット・ロンダム……便宜上そう呼ぶが、ロンダムが北の国からの間諜であり、学園に教師として侵入している間に女生徒に好意を抱き、その女生徒を略取しようと屋敷に侵入し捕縛された。夕刻にはそう発表される事になる。もちろんクラリッサの名前は表に出ないが、それでも察する者もあるだろう。憶測で誹謗される事もあるかも知れん。今ならまだ発表を差し止められるが、クラリッサは…本当にいいのか?」
お父様が隣の私を気遣わし気に見て、私はお父様に向けてしっかりと頷いた。
「はい」
「…そうか」
目を閉じて小さく頷くお父様。
娘を醜聞から守りたい気持ちと、娘に醜聞を押し付けたあの男を裁きたい気持ちが綯い交ぜになった、お父様の複雑な心境が伝わって来る。
私は、心配を掛けて心苦しいけど、心配してもらえるのがありがたくて嬉しい気持ちになった。
「そうか、そんな噂が…」
ネイト様に抱きしめられたまま、私がアンから聞いたネイト様とレオノーラ殿下の噂話を話すと、ネイト様はそう呟いた。
「ネイト様、王太子妃殿下の里下がりの護衛も他の人に任せることができないって仰って、だから私…ネイト様は王太子妃殿下をずっと好きなんだと…」
「なるほど」
頷いて、ネイト様はふうっと息を吐く。
「俺はレオノーラに恋愛感情を抱いた事はない。レオノーラの方もそうだ。ただ、俺が自ら第四分団を希望し、それがレオノーラを護るためなのは確かだ。それは……贖罪のためだ」
「贖罪…?」
私がネイト様を見上げると、ネイト様は困ったように笑った。
「…愉快な話ではないし、話せば長い。そろそろクラリッサもご家族に顔を見せないと、心配されているだろう?」
それはそうなんだけど…
「それに」
ネイト様がチラッと部屋の扉の方へ視線をやる。
私も扉の方を見ると、開いた扉の向こうへ部屋に背を向けるように立っている騎士様の制服の肩が見えた。
わっ、私たちが、だ、だだだ抱き合ってるから、遠慮されてる!!
「そんな訳で、俺も詰所へ戻らないといけない。…明日また来るから」
「は、はい!」
ネイト様が一瞬で真っ赤になった私を見て微笑みながら立ち上がる。
私は片手で熱くなった頬を押さえて、もう片方の手でネイト様に差し出された手を取った。
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翌日、予告通りマルセル公爵家に来てくださったネイト様。
今は、お父様が昨夜の小火とロンダムの件で王城へ行かれているので、帰りを待つ間、応接室で二人で話している処。扉は開けて、ネイト様と私は向かい合わせに座っている。
「スコット・ロンダムの名を騙っていたあの男は北の国から送り込まれた間諜だったんだ。情報収集のための間諜を他国に送り込む事はどの国でもよくある事だが、学園に教師として入り込まれたのは問題だ」
「そうですよね…」
学園は国内の貴族や有力者の子息の集まり。そこに間諜が入り込んで自国の益になるよう生徒たちを洗脳したり、優秀な人材を頭角を表す前に潰したり、自国へ引き抜いたりする事も考えられるし。
「寮での事件の時は、諜報機関が本物のスコット・ロンダムの実家の男爵家へ知らせる情報を操作していたそうだ。更に国の高官たちが学園へ間者を侵入させた不手際を隠蔽するため、北の国との外交問題を避けるため、令嬢の醜聞を避けるという大義名分を掲げて事件を揉み消そうとした。だから諜報機関の圧に負け、ロンダムが釈放されてしまったんだ」
ネイト様が苦々しい口調で言った。
「北の国の諜報機関が速やかにロンダムを消してくれるのを期待していた部分もあるんだろう」
「…もしも、私があの男に連れて行かれていたら、私も一緒に消されてた……?」
私がそう呟くと、ネイト様は眉間に皺を寄せる。
「……」
ネイト様が何も言わない事で、私も確実に殺されてたんだと改めて思った。
「待たせたね。ネイト君」
ほどなくお父様が王城から帰宅し、応接室に入って来て私の隣に座る。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。閣下」
立ち上がって頭を下げるネイト様に、お父様は頷いて座るように手で示した。
「そう畏まらなくて良いよ」
ソファに座ったネイト様と私とを見て、お父様は話し出す。
「スコット・ロンダム……便宜上そう呼ぶが、ロンダムが北の国からの間諜であり、学園に教師として侵入している間に女生徒に好意を抱き、その女生徒を略取しようと屋敷に侵入し捕縛された。夕刻にはそう発表される事になる。もちろんクラリッサの名前は表に出ないが、それでも察する者もあるだろう。憶測で誹謗される事もあるかも知れん。今ならまだ発表を差し止められるが、クラリッサは…本当にいいのか?」
お父様が隣の私を気遣わし気に見て、私はお父様に向けてしっかりと頷いた。
「はい」
「…そうか」
目を閉じて小さく頷くお父様。
娘を醜聞から守りたい気持ちと、娘に醜聞を押し付けたあの男を裁きたい気持ちが綯い交ぜになった、お父様の複雑な心境が伝わって来る。
私は、心配を掛けて心苦しいけど、心配してもらえるのがありがたくて嬉しい気持ちになった。
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