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犯人は第一王子に酷く執着していた上位貴族の令嬢だった。使用人を使って様々な場所から手紙を出し、こちら側に差出人を絞らせないようにしていたそうだ。
誹謗中傷や脅迫まがいの手紙にレオノーラは憔悴していく。が、第一王子との距離は縮まる一方だ。
どうして?あの女は幼なじみの男と、その兄とも懇ろになる汚い女よ!?
派手で金遣いが荒くて身持ちの悪い阿婆擦れ女!
王子があんな女の毒牙に掛かるのを黙って見てなんていられないわ。
早く目を覚まして欲しいのに、王子はあの女に夢中だ。一体どんな手練手管で王子を篭絡したのか。
このままでは王子の婚約者としてレオノーラに護衛を付けるため、正式に婚約を申し込むかも知れない。
それまでに何とかしなければ……
夏期休暇に入り、レオノーラが領地へ行くと、第一王子の目が届きにくくなったのを幸いに、令嬢はレオノーラの拉致監禁を企んだ。
ならず者を雇い、領地屋敷から馬車で出て来たレオノーラを───
「人違い?ふん。あんな姉を持ったのが不運だったのよ」
令嬢を突き止め、聴取した際、女はそう言い放ったと聞く。
騎士団員でもないただの学園生の俺は捜査に加わる事もできなければ、女に対峙する事もできない。
無力感と、オーレリアを失った喪失感に苛まれる。
それでも、事件を表沙汰にする事はできなかった。
女の親が国内でも有力な貴族であった事。
レオノーラへの風評被害を防ぐため。
それに何よりオーレリアの名誉のため。
オーレリアは「病死」とされた。
女は最後まで第一王子に盲執し、レオノーラを稀代の悪女だと言い張っていたそうだ。
内々の処分で、女は修道院へ行き、女の家は降爵となり、事件は幕引きとなる。
-----
「到底納得はいかなかったが、俺にできる事など何もなくて…せめて俺は近衛騎士としてレオノーラだけは護るとオーレリアに誓ったんだ。それが俺にできるオーレリアへの唯一の贖罪だと思った」
長い話を終えたネイト様は、大きく息を吐いた。
「……」
私は何も言う事ができなくて、ただネイト様を見つめる。
「だから俺は王太子殿下とレオノーラが結婚した時、第四分団へ異動したんだ。レオノーラの口添えもあったし、王太子殿下からも『ネイトがレオノーラを護ってくれれば安心だ』と後押しをしていただいた」
「そうだったんですね…」
「マルセル公爵閣下が言われた『例の話』とは、閣下が俺に『いずれ近衛騎士団を辞して、私の持つ従属爵位の一つを継がないか』と言われた事だ」
「え!?」
驚く私を見てネイト様が苦笑いを浮かべる。
「ロンダムが釈放されると閣下とクラリッサへ報告した後、妃殿下の護衛で領地へ立つ前に閣下が第四分団へ来てくださって、クラリッサと正式に婚約しないか、と言われた」
「ええ!?」
確かにネイト様は私の「婚約者候補」だけど、それは卒業パーティーにパートナーとして出るためで、その後も事情聴取や、捜査の経過報告や、護衛に都合が良いから候補の肩書はそのままにしてて…つまり名目だけだったんじゃなかったの?
「閣下は、俺の上の兄の友人らしい」
「え?そうなんですか?」
「兄は俺より十二歳上で、今四十一だ。閣下は四十三歳だったか。学園で閣下が生徒会長をした時の副会長が兄だったそうだ」
後から聞いた処、下のお兄様とネイト様は十歳違いだそうで、シルベストお兄様と、私と、ロレッタとの歳の差と、ダンヴァーズ三兄弟の歳の差はちょうど同じだった。
「俺がクラリッサの婚約者候補となった事を閣下が兄へ連絡し、それで兄が閣下に俺の事を頼んだらしい」
「ネイト様の事を、ですか?」
「オーレリアに囚われ続ける俺を、兄は心配していた。今まで結婚どころか浮いた話すら俺にはなかったからな。その俺に候補とはいえ婚約話だ。しかも閣下の娘と」
「それで近衛を辞めて従属爵位を?」
ネイト様のお兄様がネイト様を心配する気持ちはわかるわ。でもネイト様に近衛を辞めろというのは…
「いや、兄も流石にそこまで閣下に求めてはいないよ。兄は『公爵とお嬢様本人が嫌でなければ、ネイトとの結婚を前向きに考えてもらえないか』と頼んだんだそうだ」
犯人は第一王子に酷く執着していた上位貴族の令嬢だった。使用人を使って様々な場所から手紙を出し、こちら側に差出人を絞らせないようにしていたそうだ。
誹謗中傷や脅迫まがいの手紙にレオノーラは憔悴していく。が、第一王子との距離は縮まる一方だ。
どうして?あの女は幼なじみの男と、その兄とも懇ろになる汚い女よ!?
派手で金遣いが荒くて身持ちの悪い阿婆擦れ女!
王子があんな女の毒牙に掛かるのを黙って見てなんていられないわ。
早く目を覚まして欲しいのに、王子はあの女に夢中だ。一体どんな手練手管で王子を篭絡したのか。
このままでは王子の婚約者としてレオノーラに護衛を付けるため、正式に婚約を申し込むかも知れない。
それまでに何とかしなければ……
夏期休暇に入り、レオノーラが領地へ行くと、第一王子の目が届きにくくなったのを幸いに、令嬢はレオノーラの拉致監禁を企んだ。
ならず者を雇い、領地屋敷から馬車で出て来たレオノーラを───
「人違い?ふん。あんな姉を持ったのが不運だったのよ」
令嬢を突き止め、聴取した際、女はそう言い放ったと聞く。
騎士団員でもないただの学園生の俺は捜査に加わる事もできなければ、女に対峙する事もできない。
無力感と、オーレリアを失った喪失感に苛まれる。
それでも、事件を表沙汰にする事はできなかった。
女の親が国内でも有力な貴族であった事。
レオノーラへの風評被害を防ぐため。
それに何よりオーレリアの名誉のため。
オーレリアは「病死」とされた。
女は最後まで第一王子に盲執し、レオノーラを稀代の悪女だと言い張っていたそうだ。
内々の処分で、女は修道院へ行き、女の家は降爵となり、事件は幕引きとなる。
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「到底納得はいかなかったが、俺にできる事など何もなくて…せめて俺は近衛騎士としてレオノーラだけは護るとオーレリアに誓ったんだ。それが俺にできるオーレリアへの唯一の贖罪だと思った」
長い話を終えたネイト様は、大きく息を吐いた。
「……」
私は何も言う事ができなくて、ただネイト様を見つめる。
「だから俺は王太子殿下とレオノーラが結婚した時、第四分団へ異動したんだ。レオノーラの口添えもあったし、王太子殿下からも『ネイトがレオノーラを護ってくれれば安心だ』と後押しをしていただいた」
「そうだったんですね…」
「マルセル公爵閣下が言われた『例の話』とは、閣下が俺に『いずれ近衛騎士団を辞して、私の持つ従属爵位の一つを継がないか』と言われた事だ」
「え!?」
驚く私を見てネイト様が苦笑いを浮かべる。
「ロンダムが釈放されると閣下とクラリッサへ報告した後、妃殿下の護衛で領地へ立つ前に閣下が第四分団へ来てくださって、クラリッサと正式に婚約しないか、と言われた」
「ええ!?」
確かにネイト様は私の「婚約者候補」だけど、それは卒業パーティーにパートナーとして出るためで、その後も事情聴取や、捜査の経過報告や、護衛に都合が良いから候補の肩書はそのままにしてて…つまり名目だけだったんじゃなかったの?
「閣下は、俺の上の兄の友人らしい」
「え?そうなんですか?」
「兄は俺より十二歳上で、今四十一だ。閣下は四十三歳だったか。学園で閣下が生徒会長をした時の副会長が兄だったそうだ」
後から聞いた処、下のお兄様とネイト様は十歳違いだそうで、シルベストお兄様と、私と、ロレッタとの歳の差と、ダンヴァーズ三兄弟の歳の差はちょうど同じだった。
「俺がクラリッサの婚約者候補となった事を閣下が兄へ連絡し、それで兄が閣下に俺の事を頼んだらしい」
「ネイト様の事を、ですか?」
「オーレリアに囚われ続ける俺を、兄は心配していた。今まで結婚どころか浮いた話すら俺にはなかったからな。その俺に候補とはいえ婚約話だ。しかも閣下の娘と」
「それで近衛を辞めて従属爵位を?」
ネイト様のお兄様がネイト様を心配する気持ちはわかるわ。でもネイト様に近衛を辞めろというのは…
「いや、兄も流石にそこまで閣下に求めてはいないよ。兄は『公爵とお嬢様本人が嫌でなければ、ネイトとの結婚を前向きに考えてもらえないか』と頼んだんだそうだ」
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