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パリヤ王太子殿下が、婚約者であるアリシア公爵令嬢に婚約破棄を言い渡す---この衝撃的な事件が起こった舞踏会は、興奮したパリヤと、パリヤに寄り添いながら震えるマリーナを、王宮から駆けつけた宰相と文官が講堂から連れ出し、血の気の引いた顔で見ていたアリシアが気を失って倒れるいう混乱のままに幕を閉じた。
学園はそのまま夏季休暇に入ったため、一般の生徒はその後の事を噂でしか知らないが、休暇で兄の住む屋敷に戻っていたリネットは王宮に勤める兄から大まかな事情を聞いていた。
「じゃあ王太子殿下はマリーナ様と恋仲だったの?」
そういえば、生徒会室に来たパリヤ殿下はマリーナ様を呼び捨てにしてたっけ…セルダ殿下はリリアの事を「リリア嬢」って呼ぶもの。距離の近さといい、あの時から親しさは滲み出ていたのね。
自宅の兄の執務室のソファに座ったリネットの問いに、執務机で書類に向かったままリネットの兄チャールズは頷いた。
「ああ、何でもパリヤ殿下は『真実の愛』に目覚めたらしい」
「し…真実の愛…」
リネットが呆気に取られて呟くと、リネットの向かいに座っていたチャールズの妻エルがうっとりと
「王太子殿下と男爵令嬢の身分違いの恋かあ。物語みたいねぇ」
と胸の前で手を組みながら言う。
「エル。事はそんなに簡単じゃない。何の非もないウィルフィス公爵令嬢との婚約解消など、到底許されない。パリヤ殿下は王位継承権を剥奪されるかも知れない」
バサリと書類を机に投げるように置きながら、チャールズはため息混じりにエルを見た。
「「ええ!?」」
リネットとエルは同時に驚きの声を上げる。
「今、議会はパリヤ殿下とマリーナ・ザイル男爵令嬢の処遇をどうするかで紛糾しているよ」
「マリーナ様はどうなるの?」
「パリヤ殿下の処遇次第だが…パリヤ殿下はウィルフィス公爵令嬢を王太子妃に、ザイル男爵令嬢を側妃に、という議会からの提案にも『運命の恋人であるマリーナを側妃にするのは嫌だ』と頑として頷かないらしいから、ザイル男爵令嬢の処遇も厳しいかもな」
「運命の恋人…」
パリヤ殿下ってなかなかのロマンチストだったのね…。
パリヤ殿下は王宮で、マリーナは男爵家で、それぞれ処遇がきまるまでは謹慎しているらしい。
「もしパリヤ殿下が王位継承権を剥奪されたら、セルダ殿下が王太子になるの?」
「そうなるだろうな。そして、そうなればセルダ殿下がウィルフィス公爵令嬢と婚約する事になるだろう」
リネットは兄の言葉に驚いて思わず立ち上がる。
「リリアはどうなるの!?」
「ああ…セドリックの妹はセルダ殿下と婚約していたな」
チャールズにとってリリアは年が離れすぎていて交流がなく、自身の弟分のセドリックの妹という認識しかないらしい。
「セルダ殿下との婚約は解消されて、公爵家か侯爵家あたりと婚約し直す事になるんじゃないかな。王弟殿下も独身だが年が離れすぎてるか…公爵家と侯爵家に年周りの合う男子がいたかな…」
顎に手をやり天井を見ながらチャールズが言う。年周りの合う男子を思い出そうとしているようだ。
公爵家や侯爵家の令息ならかなり早い内に婚約者が決まっている事が多い。そして学園を卒業してほどなく婚姻に至る。
今婚約してない方だと、かなり年下か、離縁したとか妻に先立たれたとかの後妻とかになるんじゃないの…?
ああ、それより、リリアはセルダ殿下の事を好きなのよ。婚約解消となったらどんなにショックかしら…。
「年周りの合う男子がいなければ、隣国の王族か高位貴族もあるな」
リリアが隣国へ………。
幼なじみの境遇に思わず絶句するリネットであった。
-----
すごく怒ってる…。
ゴルディ家を訪れたリネットは目の前で黒いオーラを撒き散らすセドリックを横目で見てから、正面に座るリリアに目をむけた。
リリアは意外にも苦笑いを浮かべている。
「リリア…何と言って良いか…」
リネットが言いにくそうに声を出すと、リリアはあっけらかんと答える。
「年下は好みじゃないし、後妻も勘弁だし、隣国の王族も良いかもね。ほら、マルセル国の第三王子なら19歳で釣り合うし、見目麗しいって噂だし、婚約もしてないはずだし」
「リリアを他国になんかやらん!!」
バァンとテーブルを叩いてセドリックが立ち上がる。
「あの腐れ王太子、殺してやる」
セドリックが放つ黒いオーラが濃くなってリネットは困惑する。
やりかねない…リリアのためなら…。
「やめてよ兄様。私、王族暗殺者の妹になんかなりたくないわ」
リリアが肩をすくめる。
「だがリリアとの婚約を解消して隣国へ嫁がせるだなんて、あまりにリリアを馬鹿にしている」
「まだパリヤ殿下の処遇は決まってないし、…どうなるかわからないわよ」
リリアは俯いて膝の上で自分の両手を握りしめた。
「リリア…」
リネットは掛ける言葉を見つけられなかった。
パリヤ王太子殿下が、婚約者であるアリシア公爵令嬢に婚約破棄を言い渡す---この衝撃的な事件が起こった舞踏会は、興奮したパリヤと、パリヤに寄り添いながら震えるマリーナを、王宮から駆けつけた宰相と文官が講堂から連れ出し、血の気の引いた顔で見ていたアリシアが気を失って倒れるいう混乱のままに幕を閉じた。
学園はそのまま夏季休暇に入ったため、一般の生徒はその後の事を噂でしか知らないが、休暇で兄の住む屋敷に戻っていたリネットは王宮に勤める兄から大まかな事情を聞いていた。
「じゃあ王太子殿下はマリーナ様と恋仲だったの?」
そういえば、生徒会室に来たパリヤ殿下はマリーナ様を呼び捨てにしてたっけ…セルダ殿下はリリアの事を「リリア嬢」って呼ぶもの。距離の近さといい、あの時から親しさは滲み出ていたのね。
自宅の兄の執務室のソファに座ったリネットの問いに、執務机で書類に向かったままリネットの兄チャールズは頷いた。
「ああ、何でもパリヤ殿下は『真実の愛』に目覚めたらしい」
「し…真実の愛…」
リネットが呆気に取られて呟くと、リネットの向かいに座っていたチャールズの妻エルがうっとりと
「王太子殿下と男爵令嬢の身分違いの恋かあ。物語みたいねぇ」
と胸の前で手を組みながら言う。
「エル。事はそんなに簡単じゃない。何の非もないウィルフィス公爵令嬢との婚約解消など、到底許されない。パリヤ殿下は王位継承権を剥奪されるかも知れない」
バサリと書類を机に投げるように置きながら、チャールズはため息混じりにエルを見た。
「「ええ!?」」
リネットとエルは同時に驚きの声を上げる。
「今、議会はパリヤ殿下とマリーナ・ザイル男爵令嬢の処遇をどうするかで紛糾しているよ」
「マリーナ様はどうなるの?」
「パリヤ殿下の処遇次第だが…パリヤ殿下はウィルフィス公爵令嬢を王太子妃に、ザイル男爵令嬢を側妃に、という議会からの提案にも『運命の恋人であるマリーナを側妃にするのは嫌だ』と頑として頷かないらしいから、ザイル男爵令嬢の処遇も厳しいかもな」
「運命の恋人…」
パリヤ殿下ってなかなかのロマンチストだったのね…。
パリヤ殿下は王宮で、マリーナは男爵家で、それぞれ処遇がきまるまでは謹慎しているらしい。
「もしパリヤ殿下が王位継承権を剥奪されたら、セルダ殿下が王太子になるの?」
「そうなるだろうな。そして、そうなればセルダ殿下がウィルフィス公爵令嬢と婚約する事になるだろう」
リネットは兄の言葉に驚いて思わず立ち上がる。
「リリアはどうなるの!?」
「ああ…セドリックの妹はセルダ殿下と婚約していたな」
チャールズにとってリリアは年が離れすぎていて交流がなく、自身の弟分のセドリックの妹という認識しかないらしい。
「セルダ殿下との婚約は解消されて、公爵家か侯爵家あたりと婚約し直す事になるんじゃないかな。王弟殿下も独身だが年が離れすぎてるか…公爵家と侯爵家に年周りの合う男子がいたかな…」
顎に手をやり天井を見ながらチャールズが言う。年周りの合う男子を思い出そうとしているようだ。
公爵家や侯爵家の令息ならかなり早い内に婚約者が決まっている事が多い。そして学園を卒業してほどなく婚姻に至る。
今婚約してない方だと、かなり年下か、離縁したとか妻に先立たれたとかの後妻とかになるんじゃないの…?
ああ、それより、リリアはセルダ殿下の事を好きなのよ。婚約解消となったらどんなにショックかしら…。
「年周りの合う男子がいなければ、隣国の王族か高位貴族もあるな」
リリアが隣国へ………。
幼なじみの境遇に思わず絶句するリネットであった。
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すごく怒ってる…。
ゴルディ家を訪れたリネットは目の前で黒いオーラを撒き散らすセドリックを横目で見てから、正面に座るリリアに目をむけた。
リリアは意外にも苦笑いを浮かべている。
「リリア…何と言って良いか…」
リネットが言いにくそうに声を出すと、リリアはあっけらかんと答える。
「年下は好みじゃないし、後妻も勘弁だし、隣国の王族も良いかもね。ほら、マルセル国の第三王子なら19歳で釣り合うし、見目麗しいって噂だし、婚約もしてないはずだし」
「リリアを他国になんかやらん!!」
バァンとテーブルを叩いてセドリックが立ち上がる。
「あの腐れ王太子、殺してやる」
セドリックが放つ黒いオーラが濃くなってリネットは困惑する。
やりかねない…リリアのためなら…。
「やめてよ兄様。私、王族暗殺者の妹になんかなりたくないわ」
リリアが肩をすくめる。
「だがリリアとの婚約を解消して隣国へ嫁がせるだなんて、あまりにリリアを馬鹿にしている」
「まだパリヤ殿下の処遇は決まってないし、…どうなるかわからないわよ」
リリアは俯いて膝の上で自分の両手を握りしめた。
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リネットは掛ける言葉を見つけられなかった。
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