悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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 クリスティナが出て行った部室の扉を眺めていると、扉が開いて、胸を押さえてよろけながらユージーンが入って来た。
「ユージーン?」
 ヨロヨロと、俺のいる奥の机まで来ると、机に手をつく。
「アレクどうしよう…」
「どうしたんだ?ユージーン」
 胸を押さえる手をグッと握ったユージーンはため息と共に言った。
「クリスティナ嬢がかわいい…」
「……は!?」
 心臓の病いか何かかと心配したのに、何を言い出すかと思えば「クリスティナがかわいい」だと!?
「初めて見た!あんな泣きそうな顔…めちゃくちゃかわいかった…」
 ほうっと息を吐くと、恍惚とした表情をするユージーン。
「ユージーン、何を言って……いや待て。泣きそう?クリスティナが?」
「そうだ!アレク、クリスティナ嬢に何を言って泣かせたんだ?」
 咎めるように俺を見る。
「泣かせた?俺が?」
「正確には泣いてはいない。でもここから出て来たクリスティナ嬢が泣きそうな顔をしていたのは確かだ」
 俺がクリスティナに何かを言って泣かせた?
 クリスティナが出て行く前、話していたのはクリスティナがこの汚い部室へやへは絶対に入らなかったと……
「何か他に理由があったのかも知れませんね」
 そう言ったクリスティナは笑っていたがそういえば切なそうな表情だったかも知れない。

「クリスティナ嬢はまだアレクの事を思い出してないんだろ?」
 そう言いながらユージーンは俺の座っている椅子の机を挟んだ向かい側にある椅子に座る。
「そのようだね」
「じゃあ何で泣きそうだったんだろ?何か思い出し掛けた?」
 あの話の何かがクリスティナの記憶に触れて、思い出し掛けたんだろうか?

「婚約破棄の話は進んでるのか?」
 ユージーンの言葉に俺は首を横に振った。
「破棄じゃなく解消だよ。…話はまだだな。クリスティナの記憶がなければフローラへの嫌がらせの数々を本人に認めさせられない。だから今はまだ話を進められないんだ」
 俺とクリスティナの婚約は王と議会と教会に認められた王家と侯爵家との契約でもある。この契約はどちらかの瑕疵なしに解消する事はできない。
「取り巻き令嬢たちが行った嫌がらせや中傷をクリスティナ嬢がやらせたという明確な証拠はないんだろう?つまりクリスティナ嬢が『自分が指示した』と認めなければ詰みだ。で、アレク、もしクリスティナ嬢の記憶が戻らなかったらどうするつもりなんだ?」
「……これから確固たる証拠を掴むよ」
「ふーん」
 ユージーンは頬杖をついて窓の方へ顔を向けていた。
「気のない返事をしてるが、ユージーンも協力しろよ」
「ああ…そうだな。あ、クリスティナ嬢だ」
 ユージーンが窓の外を見ながら言うので、俺も窓の外へ目を向ける。
 するとこの窓のすぐ傍にある園芸部の花壇の横にあるベンチの前をゆっくりとクリスティナが歩いていた。
 …去年までは、あのベンチにクリスティナが座って俺が花壇で作業をしているのをよく見ていたな。
 クリスティナは花壇の花をじっと見ながら立ち止まらずに歩き、程なく姿が見えなくなる。
 そういえば、フローラへの嫌がらせは多岐に渡ったが、園芸部の花壇が荒らされた事は一度もないな。
 ふとユージーンを見ると、ユージーンも去って行くクリスティナの方へ視線を向けていた。
 泣きそうな顔がかわいいって…俺はそんな顔見た事ないぞ。
 あの会話のどこに泣く要素があったんだ?
「ユージーン、以前のクリスティナがこの部屋に入らなかったのは何故だか知ってる?」
 ユージーンが俺の方へ視線を向けて、片眉を上げる。
「クリスティナ嬢は王城のアレクの研究室へと立ち入った事はないだろ?それと同じ理由だよ」
 王城にある俺の植物の交配や品種改良の研究室。学園では主に花を、王城では本格的に野菜や穀物を扱っているが…そういえば俺が研究室に篭っていてクリスティナとの約束の時間に遅れて呼びに来た時にも研究室の前までは来たけど、中には入らなかった。
「同じ?」
 小さく肩を竦めるユージーン。
「本人に聞いた訳じゃないけど、アレクの研究への敬意を示してたんだと思うぞ?素人の部外者が立ち入って良い場所ではないと。部外秘の情報もあるだろうし」
「……そうなのか?」
「俺はそうだと思う」



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