悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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「王太子妃殿下のお茶会、もうすぐじゃなかった?」
 放課後、寮に戻る途中でふと思い出したようにキャロルが言った。
「うん。明後日よ」
 明日、明後日は週末で学園が休み。
 明日はエイデン侯爵家の王都屋敷に帰って、明後日王家からの迎えの馬車で王宮に向かう予定。
 アレクシスと一緒に招待されているので、私が王宮へ着いたらアレクシスが馬車まで迎えに来てくれる手筈になっている。と、ユージーン様から聞いている。
「王太子妃殿下のお茶会ってどんな感じなの?」
「マチルダ妃殿下のお茶会に呼ばれるのは初めてだから……王妃殿下の開催とか大規模なのだとお茶会と言うよりパーティーみたいな感じになるけど、参加者が少なければ貴族令嬢の開くお茶会とそう変わりないと思うわ」
 ふむふむと頷くキャロル。

「クリスティナ様!」
 後ろから声を掛けられて振り向くと、石畳の路の真ん中でフローラが胸の前で手を組んで私の方へ小走りに駆け寄って来た。
「あらフローラ様、どうなさったの?」
 髪を肩から後ろに払いながら言う。
 あら。今の、無意識だったけど我ながら悪役令嬢っぽい仕草だったわ。
「あの…お、王太子妃のお茶会にアレク様が呼ばれたって聞いて…」
 王太子妃殿、アレク殿
 二人きりの時は好きに呼べばいいけど、人前ではちゃんと敬称を付けて呼びなさいって何度も忠告したのに直らないのね…
 フローラはいい子なんだけど、こういう切り替えができない処はいただけないわ。
 キャロルも肩を竦めて呆れたようにフローラを見ていた。
 まあ、もうそれを指摘する気もないけどね。
「ええ、そうね。それが何か?」
 ニッコリ笑うと、フローラは胸の前で組んだ手にギュッと力を入れて私を見上げる。
 私が背が高い方で、フローラは背が低い方だから、自然と見下ろす、見上げるみたいになっちゃうのも悪役令嬢とヒロインっぽい仕様よね。
「王太子妃はアレク様が…その…す、好き、なんでしょう?どうしてお茶会なんて…どうしてクリスティナ様は止めてくれないんですか!?」
「は?」
 意を決して言ったんだろうけど、止める?って?
 アレクシスをマチルダ妃殿下のお茶会に参加させないように私が止めるって事?
 それに今の言い方、止めない私が悪いって責められてるの?
 私の「は?」の声が低すぎたからか、フローラがビクッと震えた。
 そういう仕草がいちいちかわいいのも癪に障る。
「それは…アレクシス殿下から聞いたの?」
 低い声が出てしまう。
 だって、私はマチルダ妃殿下のお義母様の病気がアレクシスの薬で治った事も、妃殿下がイライアス殿下との婚約を解消してまでアレクシスの妃を選ぶお茶会に出たがったって事も、ユージーン様から聞くまで知らなかった。
 ユージーン様は私がアレクシスに関する事を覚えてないと思ってるから改めて話してくれただけで、以前のクリスティナなら当然その話は知ってると思ってたはず。
 でも私は知らなくて。
 つまり……アレクシスは、私には話さなかったのに、フローラには話したって事で……

「フローラ!」
 あ、ヤバい。泣きそう。
 と思った時、アレクシスの声が聞こえて、心臓がドクンッと鳴った。
 フローラの後方からアレクシスが走って来る姿が見える。
 アレクシスをじっと見ていると、アレクシスはフローラと私の間に立った。
 フローラを背に庇って、私を睨む。
「クリスティナ、フローラに何をしてるんだ」
「…私は何も」
「じゃあ何故フローラが泣きそうな顔をしているんだ!?」
 咎める口調に、剣のある視線。
 フローラがアレクシスの背中に隠れながら、アレクシスの上着の裾を握っていた。

「アレクシス殿下、クリスティナ様の話も聞いて…」
「キャロル、もういいわ」
 アレクシスに訴えようとしたキャロルを制する。
「クリスティナ…」
「大丈夫よ」
 心配そうなキャロルに少し笑い掛けてから、私は真っ直ぐにアレクシスを見た。
「王太子妃殿下のお茶会の件、私は殿下のお茶会への参加を止める立場にはないですから、と、今お話しする処でした」
 瞠目するアレクシス。
「止める?」
 私は顎に手を当ててゆっくりと頷いた。
「ええ。フローラ様がアレクシス殿下がお茶会に参加するのをどうして止めてくれないのか、と仰ったので」
 アレクシスは自分の背中に隠れているフローラの方へ振り向く。
 アレクシスの背中に張り付くようにして首を横に振るフローラに、私は敢えて大きなため息を吐いた。



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