悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

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「マチルダ妃殿下がアレクシス殿下に懸想していた時期があった事、フローラ様に話されるのは結構ですけど、それならもっとしっかり口止めしておいてください。あれはなかった事になったと聞いていますが、フローラ様の軽率な発言で第三者が知ってしまう事になったじゃないですか」
 私がキャロルをチラリと見ながら言う。
 キャロルは困った顔をして肩を竦めた。
「……」
 気まずそうに黙るアレクシス。
「…だって…私、行って欲しくなくて…」
 アレクシスの背中に額を付けて、震える声でフローラが言う。
 行って欲しくない?
 だったら自分が「行かないで」って止めればいいじゃない。何で私に止めさせようとするの?
「フローラ…」
 アレクシスが上着を握りしめるフローラの手に自分の手を重ねた。
 愛おしそうにフローラの手を撫でるアレクシス。フローラが潤んだ瞳でアレクシスを見上げて──…

「…っ」
 もうダメだ。
 思わずアレクシスとフローラに怒鳴りそうになった、その時、キャロルが私の前に立った。
「アレクシス殿下もフローラ様も、婚約者であるクリスティナの前でその行動は余りにも不用意ではありませんか?…と言うか、デリカシーないんですか?」
 最初は硬めの口調だったのに、最後は呆れたようにため息混じりになるキャロル。
 キャロルが私の前に出てくれなかったら、以前のクリスティナのようにアレクシスとフローラに罵詈雑言を投げる処だったわ。
 アレクシスを忘れてるはずの私がアレクシスとフローラがイチャついたからって激昂するのはおかしいもの。止めてくれて良かった。
「な…」
 フローラがかあっと顔を赤くして、アレクシスは何かを言い掛けて、やめる。
「ありがとう、キャロル。もう行きましょう」
 口角を上げてキャロルに言う。
 アレクシスが何かを言いたそうに私を見ていた。
「それでは失礼いたします。アレクシス殿下、また明後日お会いしましょう」
「クリスティナ」
 スカートを摘んで挨拶をする私とキャロル。
 アレクシスに名前を呼ばれたので、私は「ああ」と何かに気付いたように口元に手を当てる。
「ご心配なさらなくても、キャロルは軽率に話を広めたりしませんわ」
「違…」
 アレクシスは眉を顰めて不服そう。
「ではキャロルの物言いが不敬でしたか?」
「違う」
「?」
 アレクシスは何を言いたいんだろ?
 首を傾げると、アレクシスは自分の手で目元を覆った。
「いや…何でもない。クリスティナ、ではまた明後日」

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 クリスティナとキャロル・バルツァー子爵令嬢が去って行く後ろ姿を見ながら俺はその場へ立ち尽くしていた。
「アレク様…?」
 フローラが俺を見上げる。
「……」
 俺がマチルダ義姉上の事をフローラに話したのは、義姉上のお茶会にクリスティナと一緒に呼ばれているのを知ってフローラの前でため息を吐いたからだ。
 フローラが心配そうに「どうしたんですか?」と言うから、義姉上のお茶会に呼ばれているのが憂鬱なんだと話し、何故憂鬱なのかと聞かれたから、こんな事が昔あったからだと話した。
 その件は何もなかった事になっているともフローラに話した。
 ただ、その後クリスティナを婚約者として選び、今俺はそのクリスティナとの婚約を解消しようとしている。
 だからクリスティナを俺の婚約者として同伴しなければならないのが憂鬱だった。

「フローラ、どうして俺がお茶会に出るのをクリスティナに止めてもらおうと思ったの?」
 そう問うと、フローラは涙ぐみながら「きっとクリスティナ様もマチルダ妃にアレクシスを会わせるのは嫌だろうと思ったんです」と言う。
 フローラを寮まで送り、自分の寮の部屋へと戻ると、俺はソファへドサリと座った。
「はあ…」
 ため息と共に天井を仰いで両手で顔を覆う。
 確かにフローラに口止めしなかった俺が軽率だったし、クリスティナの前でフローラと親密な様子を見せた行動はデリカシーがなかった。
「クリスティナ…絶対に何か言うと思ったのに…」
 今まで、ああいう場面ではクリスティナが「弁えろ」「慎め」「非常識だ」と憤っていた。
 なのに今日は「もう行きましょう」と。
 口角を上げていたけど、笑っていない表情で…

「私はフローラ様のように植物に興味はないですけど、お花は好きだし、アレクシスが楽しそうに花壇の手入れをしてるのを見るのも好きです」
 フローラと出会ったばかりの頃、クリスティナがいつものように園芸部の花壇の側のベンチに座ってそう言ったのを思い出す。
 あの時も笑っているようで、笑っていなかった。
 あの時のクリスティナはフローラの存在に不安を感じていたんだろう。
 それはクリスティナが俺の事を好きでいてくれたからで。でもさっきのクリスティナは…
「本当に俺の事、忘れてるんだな…」
 そう呟くと、心臓の辺りがズキンッと痛んだ。



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