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どうしよう
しおりを挟む3月14日、隣にいる遥斗を押し退けるように涼真を取り囲んだのは、バレンタインにチョコレイトをあげた女の子たちだ。
「あの、一条くん、お返しは?」
赤い頬で聞く女の子たちに、涼真は首をふった。
「…………え、うそ、ないの……?」
ぼうぜんとする女の子たちに、涼真は、こっくり、うなずいた。
「おぼえてない」
そう、涼真はたくさんチョコレイトをもらいすぎて、誰がどのチョコレイトをくれたのかさえ把握できなかったのだろう。
「わ、私、クラスと名前、書いたよ!」
手をあげる女の子に、涼真は首をふった。
「フードドライブ」
女の子たちが、固まった。
未開封の、賞味期限のまだ充分ある食品、買い過ぎてしまったものや、もらったけれど食べられないものなどを寄付するシステムだ。スーパーマーケットに箱がおいてあったりする。
バレンタインのチョコレイトを、フードドライブに──!
チョコレイトをあげた女の子たちだけじゃない、周りの皆が『ひぃい』って顔になってる!
でも、あんなにもらったら食べられないし、知り合いにあげるのとかも気まずいし失礼な感じがするし、食べられなくて廃棄だなんてひどすぎるから、仕方ないよね。
「手紙とかカードは、おとうさんが抜いてたから、個人情報はだいじょうぶ」
バレンタインの愛の手紙を、涼真のおとうさんに抜かれてしまった女の子たちが、泣いてた。
「りょ、りょーくん、そこは言わなくても、よかったんじゃないかな──!」
あわてて止めに入った遥斗にじゃなく、皆に言うように涼真は告げる。
「来年は、ないといいと思って」
クラスにいた全員が、硬直した。
ひ、ひどすぎるよ、りょーくん!
でも『いらない』って言ってるのに押しつけられた涼真が困ってたから、仕方ないのかも。
断る前から予防の観点だよね。せっかくくれるチョコレイトが、迷惑で、いやなものになってしまったら、かなしい。だれも傷つかないし、いいと思う。
なるほどと気づいた遥斗は、皆に説明した。
やわらかい言葉にしてね!
「あ、ああ、そういうことか」
「びびった」
「一条、すげえ」
皆の目がドン引きから尊敬の目になってる。
ちょっと言葉が足りないというか、言わないというか、いつも何にも話さないから、一言一言の重みがすごくて、言葉足らずに思えてしまう、りょーくんも、だいすきだよ!
そんなりょーくんに『お返し、楽しみにしててね!』と言い放ち、ボッコボッコのチョコレイトを製造してしまった遥斗は、うなだれた。
いちおう持ってきたけれど、持ってきたことが罪な気がする。
しょんぼりした遥斗は上の空で授業をこなした。下校の時間になるのがこわい。涼真と一緒に帰れるのは、うれしいことのはずなのに、喉がぎゅっと詰まったように息が苦しくなる。
「ハル?」
ぼんやりしていたらしい、遥斗の机までやってきてくれた涼真の声に飛びあがった。
「あ、ごめん! 帰ろっか」
こくんとうなずいてくれた涼真と、一緒に帰る。
他のランドセルが見えなくなると、ふたりで手をのばして、つないだ。
ぎゅ、とにぎる指が、あったかくて、頬が熱くて、胸が熱い。
「りょーくん、あの、あのね、お返し、期待してって言っちゃったけど……」
「わすれた?」
遥斗は首をふった。
「あ、あの、りょーくんがくれたの、あの、手づくり? みたいだったから、僕も手づくりしようと思って、それで──」
ランドセルのなかから、遥斗はちいさな包みを取りだした。
「ちゃんと本を見て作ったんだけど、火山が噴火したみたいになった……」
ボッコボッコだ。
「ものすごく、まずくて……でももうお小遣いなくて、お店のチョコレイトも買えなくて……期待しててとか言ったのに、ごめんね、りょーくん」
泣きそうになった遥斗の手を、涼真がにぎってくれる。
「俺のために、がんばってくれた。うれしい」
涼真の手が、遥斗のちいさな包みを受けとってくれる。
「ありがとう、ハル」
やさしい声に、首をふる。
「食べたら、お腹こわしちゃうよ。もらってくれようとする気もちだけで、充分」
涼真の手から包みを返してもらおうとしたら、涼真は首をふった。
「たべる」
「だめだよ、ボッコボッコで、めちゃくちゃまずいから!」
「たべる」
がさがさ包みを開けた涼真は、がんばって整えようとしてもだめだった、ボコボコチョコレイトをつまんだ。
「だめ!」
止めようとする遥斗を遮るように、涼真は口にチョコレイトを放りこむ。
もぐもぐして、遥斗の手を握った。
「おいしー」
ぎゅっと遥斗は唇を噛んだ。
「……うそつき」
涙声だ。
「嘘じゃない」
遥斗は、涼真の手をにぎる。
「……りょーくん、ごめんね」
かすれる声に、涼真は首をふった。
「手づくり、うれしい、ハル」
いつもあまり動かない唇が、やわらかに弧をえがく。
ふうわり、笑ってくれた。
耳まで燃えた遥斗は、鼓動がうなる音を聞いていた。
『りょーくん、だいすき』
唇からこぼれそうな言葉を、飲みこんだ。
つながる手が、あったかくて、家までの道が、とびきり愛しい。
「ハル、これ」
涼真がくれたのは、白い包み紙に薄紅のリボンの、可愛らしい包みだった。
「おかえし」
「え、おかえし、ないって──」
びっくりする遥斗に、涼真はちょっと唇を尖らせた。
「……いらない?」
「いる! いります! でもごめん、僕のチョコレイト、あんなだったのに──」
「うれしかった。来年も、がんばって」
涼真の言葉に、息をのむ。
「……来年も、もらって、くれる、の……?」
ほんのり唇の端をあげて、涼真が笑ってくれる。
「期待して、待ってる」
……ああ、どうしよう
りょーくんが、だいすきだ。
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