12 / 75
もっと
しおりを挟むりょーくんから、お返しをもらっちゃった!
涼真と別れて、玄関の扉を閉めた途端、鍵をかけるのも忘れて遥斗は跳びあがる。
背中でランドセルが、がしゃがしゃ揺れた。
お返しがキャンディだったら、泣いちゃうほどうれしい。
『あなたがすき』のキャンディ、キャンディ、キャンディをお願いします!
祈るように開けた包みには、チョコレイトが入っていた。
『今の関係を維持しましょう』か『あなたと同じ気もちです』
遥斗が涼真を大すきなことは、わかっていると思うけれど、たぶん『友だちのすき』『幼なじみのすき』だと思われている。
……それで、よかった。『気もちわるい』思われたら、泣いてしまう。
滲んだ涙の香りがする友チョコは、とろけるように甘かった。
これが、恋の味なのかもしれない。
切なくて、あまくて、いたくて、くるしくて、息ができなくて。
でも、りょーくんが笑ってくれたら、涙がでるくらい、しあわせ。
胸が、とくとく音をたてる。
そっと、りょーくんがくれたチョコレイトを、抱きしめた。
今年もまた桜は世界を薄紅に染めあげる。
遥斗は涼真といっしょに4年生になった。
ずっと一緒に登下校していたのに、涼真が部活動をはじめたら、一緒に帰れなくなってしまう。
おなじ部活に入ればいい気がしたけれど、勉強ができて本がすきでインドアな涼真と、かけっこしか得意じゃないアウトドアな遥斗では、おなじ部活動はむつかしい気がした。
「あ、あの、りょーくん、部活動、何にするか、決めた……?」
そうっと聞いたら、涼真は首をかしげる。
「ハルは? 陸上?」
遥斗が、かけっこがすきなことを覚えてくれている。
それだけで、胸が熱くなるほど、うれしい。
「先生がね、入ったらどうだって言ってくれたけど……」
『りょーくんと一緒に帰れなくなるから、いや』
先生にも涼真にも言いにくい。
幼稚園でかけっこが一番だった遥斗は、小学生になっても、かけっこだけは得意だ。運動会だけが遥斗の唯一の活躍の場であることも変わらない。
リレーのアンカーに選ばれたりすると鼻が高くなる。でも、自分に渡る前にめちゃくちゃ差があると、さすがに抜かせない。「ちぇ、なんだよ」「足が速いんじゃなかったのかよ」みたいな評価は止めてほしい。
運動会が近づくときだけ、遥斗の周りは、きゃわきゃわする。
「すごいね、はやい!」
「え、さくらくん、意外にかっこいーじゃん」
意外にって何だよとか。
「いい気になってんじゃねーよ」
「たいして速くねーじゃん」
色々言われたりして、むかっとすることもあるけれど、遥斗は、かけっこがすきだ。
幼稚園の運動会であんなに無様に転んでしまったから、もしかしたらトラウマになって、かけっこが大きらいになってしまったかもしれないのに、涼真が手をつないでくれたから、かけっこがもっとすきになった。
かけっこを、だいすきなままでいさせてくれたのは、りょーくんだ。
陸上部に入って走ることより、りょーくんと一緒に手をつないで帰ることのほうが、遥斗には大切で、きゅんきゅんで、しあわせだ。
ちょっともごもごした遥斗は、そうっと口を開く。
「あ、あの、ぼく、りょーくんといっしょに、帰りたい、から……部活、しないで、おこうかなって……」
恥ずかしかった。
耳まで熱い。
それでも言ってしまった遥斗に、涼真はこくりとうなずいた。
「あ、あの、りょーくんは、部活、する……?」
涼真は、ふるふる首をふった。
つながる手を、にぎってくれた。
胸が熱い。
目の奥が、つんとする。
つながる指が、あったかい。
陸上部には入らなかったけれど、走るのがすきな遥斗は夕方や休みの日に川べりの土手を走ったりしている。
大きな川を彩るように桜の樹々が連なった。
暑い夏は緑の葉が厳しい陽射しを遮ってくれる。川から吹く風が火照った身体を冷やしてくれる。
寒い冬には、枯れ枝みたいになってしまった桜たちが、やさしい陽を透かしてくれる。
桜の季節は最高だ。うっとり見あげる薄紅の花の向こうで、春霞の空が青を添える。
満開の日でさえ、朝はやいと誰もいない。
いや、犬の散歩の人がどこからともなくわいてくるけれど、それでも花見客がいない。レジャーシートでお弁当や宴会な人もいない。
桜の花びらの舞い散るなか駆けると、いつも遥斗は、涼真と出逢った日を思いだす。
あの日、つないでくれなかった手を、口をきいてくれなかったことを、ずっと胸につかえた冷たい石を、思いだす。
今の涼真とつながる手を、『ハル』呼んでくれる声を、胸の奥のきゅんきゅんを思いだす。
頬が、耳が熱くなって、風みたいにどこまでも駆けてゆける気がする。
走るのは、だいすき。
でも、りょーくんのほうが、もっとすき。
530
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる