【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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たすけるよ

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「佐倉! 陸上部をたすけてくれ!」

 体育の授業が終わったあと、校庭の隅で顧問の先生に拝まれた遥斗は、首をふる。

「いや」

 ぽわぽわする明るい髪と、おっきい目で、御しやすそう、やさしそうに見えるらしい遥斗は、涼真の影響を多大に受けているのか、おかあさんの『いやなことは、いやってはっきり言いなさい!』という教育のたまものなのか、ちゃんとNOを言える子に育った。

 ……でも『りょーくん、だいすき』は言えないんだよ。仕方ないよ。

 思いだししょんぼりな遥斗の断固たる『いや』に、愕然とした教師は涙目だ。

「そ、そんなこと言わずに! 練習には来なくていいから! 大会だけ出て!」

「そんなことしたら、陸上部の皆が、いやな気もちになるよ」

 冷静な遥斗の突っこみに、先生が親指をたてる。

「陸上部員、3人しかいないんだよ! 佐倉が入ってくれたら、リレーに出場できるんだ!」

 なるほど。
 せっかく頑張って走っているのに、人がいなくてリレーに出場できないのは、かわいそうだ。
 助っ人として走るのなら、大すきなかけっこで、誰かがよろこんでくれるなら、うれしい。

「バトンの練習とかだけして、大会だけ、走ればいい?」

「頼む!」

 拝まれた遥斗は、おごそかにうなずいた。

「わかった」

 遥斗は名目上の陸上部員になった。

 毎日りょーくんと一緒に帰れるなら、やぶさかではないのだよ! むつかしい言葉も覚えたよ!



 遥斗はたまに先生に呼ばれて、リレーの練習や、スタートの練習をしたりするようになった。

「土日でお願いします! 平日はだいじな用があるので!」

 りょーくんと、一緒に帰るという、大切な用が!

『だいじな用』を振りかざす遥斗に、先生は泣きそうな顔でうなずいてくれた。
 休日出勤なのかな、ごめんよ、と思ったら、近くに住む元ランナーなおじいちゃんが部活動指導員として教えてくれた。ありがとう。

「おお、おお、はるくん、センスあるのう!」

 おじいちゃんが、ほめてくれたら、やる気でる!


 地元のちいさな陸上大会に出ることになったら、両親が応援に来てくれた。
 その隣に、夜空の髪を見つけた遥斗は、飛びあがった。

「りょーくん! 来てくれたの?」

 あわてて観客席に駆け寄る遥斗に、涼真はこくんとうなずいた。


「がんばれ、ハル」

 胸が、きゅうっとする。


「がんばるよ!」

 りょーくんのために。


 思ってしまってから、りょーくんのために、かけっこするって何だよと自分で突っこんだ。

 恥ずかしくて、うれしくて、足がふわふわする。


「佐倉、アンカーだぞ。だいじょぶか」

 ぽわぽわんな遥斗が心配になったらしい先生に、遥斗は胸を叩いた。

「めちゃくちゃ、だいじょーぶです!」

 ほんとは、また涼真の目の前で

 ズシャァアア──!

 転んでしまう気がしたけれど、胸を張っておいた。



 パァン──!

 リレーがはじまる。
 第一小の陸上部の皆が、懸命に駆けてバトンを繋いだ。

「佐倉、たのむ──!」

 おじいちゃんが教えてくれた練習のとおりに、走りながら後ろ手でバトンをもらう。

 パシ!

 しっかり、にぎれた!


「ハル……!」


 りょーくんの声が、聞こえた気がした。


 りょーくんが、見てくれる。

 思うだけで、どきどきして、足も手も、びゅんびゅん駆けた。


「おぉおお! すげえ、佐倉!」

「なにあの子! どの学校?」

「部員4人しかいないとこだろ?」

「第一小、やべえ!」

 歓声が聞こえる。


『絶対に、負けない』思うことは、もうなかった。


 ただ、自分の一生懸命を。

 前を見て、まっすぐ走る。

 カーブを曲がるとき、遠心力で傾く身体まで、心地いい。


 ダン──!

 地面を蹴る足から伝わる振動が、髪の先まで揺らした。

 景色が、流れる。
 夜空の髪まで、遠くなる。


 加速する。

 ギアをあげる。

 駆ける足が、振る腕が、苦しいのに、気もちいい。



 パァン──!

 肩で息をしながら、遥斗は笑った。

 りょーくんが見てくれたから、走りきれたよ!

 ころばなかった。
 それだけで、とびきりうれしい。



 結果は3位だった。ちょっと残念な気もしたけど、がんばったと思う。

「ごめんな、佐倉。俺らがもっとはやくつないでいたら──」

 謝ってくれる陸上部の皆に、びっくりする。

「いっしょに走れて、うれしかった。あんまり練習に参加してないのに、走らせてくれて、ありがとう」

 笑ったら、皆も笑ってくれた。

 表彰台という名のちょこっとした壇にのぼり、ぴかぴかがちょっと弱めの銅メダルを首から下げてもらった。


「おぉお」

「佐倉のおかげで出場できて、メダルまで!」

「ありがとな」

「思い出になったよ」

 皆が笑ってくれる。

「僕も、すごく楽しかった」

 遥斗も笑う。


 観客席で両親が大きく手をふって、涼真の夜空の瞳が遥斗を見ていた。

 観客席へと駆けた遥斗は、ひらりと低いフェンスを飛び越える。


「りょーくん、あげる」

 ちょっと輝きが弱めのメダルを、涼真の首にかけてあげる。

 夜空の瞳がまるくなる。


「だめ。ハルが、がんばった」

 ふるふる首をふる涼真の瞳をのぞきこむ。


「皆でがんばったから、もらえたメダルだけど。ほんとはぴかぴかの星がよかったけど。
 幼稚園のとき、転んだ僕のために、りょーくん、星をもらえなくなったから。おかえし」

 笑ったら、夜空の瞳が揺れた。


「……これは、ハルのだ」


「いらない? 僕があげられる、いちばんいいものだと思ったんだけど……」

 しょんぼり肩を落とす遥斗に、涼真の口角がほんのりあがる。


「ハルの、手づくりのチョコレイトのほうがいい」

 耳が、燃える。

 どきどきが、破裂する。


「ハル、すごかった。おめでとう」

 涼真が首に銅メダルをかけてくれる。

 あんまりぴかぴかじゃないメダルが、とびきりきらめくメダルに変わる。


「応援してくれて、ありがとう、りょーくん」

 泣きそうになるから、笑った。





「はる、おとうさんたちもいるんだよ……」

 両親が切ない目になってる。ごめんね!









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