14 / 75
……え……
しおりを挟む「陸上部、真剣にやってみない?」
部員の子たちが誘ってくれたのだけれど、遥斗は首をふる。
「ひとりでのんびり走るのが、すきみたい。ごめんね」
しょんぼり眉をさげる遥斗に、皆は意外そうに顔を見合わせる。
「遥斗って、皆とさわいでるイメージだけど」
「皆と練習したほうが頑張れるタイプなのかと思ってた」
「いつも皆といるから、走るのはひとりがすきみたい」
皆に言ったのは、遥斗のほんとうの気もちだ。
たくさんの人と切磋琢磨したり、一番になりたいと歯を食いしばって頑張ったりすることを、遥斗はあまり楽しいと思わなかった。
あの幼稚園の運動会で一番になって、ぴかぴかの星を首にかけてもらっていたら、『はるくん、すごいね!』皆にほめてもらっていたら、遥斗は今も一番になりたいと頑張っていたのかもしれない。
あんなに一番になりたかった気もちは、ビリになって涼真が手をつないでくれたから、おかあさんが、おとうさんが抱きしめてくれたから、しゅわしゅわ泡になった。
ひとりで桜並木を走るほうが楽しい。
風の匂い、土の香り、雨の気配、空のひかり、木洩れ日の揺らめき、感じながらのんびり駆けるほうが、すき。
遥斗は毎日、涼真といっしょに登下校し、ゲームにばかりつぎ込んでいたお小遣いを、チョコレイト作りにつぎ込むようになった。
練習に練習を重ねて、4年生、5年生とあげたチョコレイトは少しずつ、ましになってきたと思う。
「おいしー」
「じょうずになった」
いつもあまり表情の動かない涼真が笑ってくれるから、遥斗はバレンタインが、だいすきになった。
涼真のためにチョコレイトを作るのが、うれしい。涼真を思って溶かすチョコレイトが、とろけるようにあまい。
毎年、チョコレイトをあげるたび『りょーくん、だいすき』が降りつもる。
6年生のときも、勿論つくろうと張りきっていたら、おとうさんに聞かれた。
「はる、涼真くんはとても頭がいいんだろう? 中学受験、するのかな」
いっしょの中学に通うとばかり思っていた遥斗は、硬直した。
「……中学、受験……?」
「私立か国立、このあたりだと国立のほうが偏差値が高いよね。学費も無料だし。涼真くんなら、国立も狙えるんじゃないかしら」
にこにこするおかあさんにも、おとうさんにも、悪気なんてちっともないのだろう。息子を絶望に突き落としたことなんて、知らないのだから。
……いや、教えてもらって、よかった。
全然知らなくて突然くるお別れより、ずっといい。
涼真と一緒の中学に通うために勉強する! という選択肢は、残念ながら遥斗にはなかった。
一緒のクラスになると、どれだけ涼真がすごいかがわかる。遥斗も真面目に勉強しているけれど、理解力とか、打てば響く回答とか、けた違いだな、と幼いながらに思った。
おなじ学校に行くのは、がんばっても難しそうなのに、もう6年生の冬だ。勉強をする期間もない。
遥斗にできるのは、笑って見送ることだけだ。
中学が離れて、登下校も一緒じゃなくなったら、隣人というだけでチョコレイトを持っていくのは、ちょっとおかしいだろう。
きっと、これがりょーくんに渡す、最後のチョコレイトになる。
心をこめて、遥斗はチョコレイトを作った。
ボッコボッコではなくなったけれど、まだちょっといびつなのは、遥斗がちょっと不器用だからだと思う。味は……まあ、食べられる。たぶん。
2月14日、バレンタインの日は、近くの中学の受験も合格発表も入学手続きも終わってしまっているだろう。
さみしさと切なさでいっぱいになった遥斗を追いつめるように、あっという間に最後のバレンタインがやってくる。
一生懸命作ったチョコレイトが、ランドセルのなかで、カタカタ揺れた。
いつもバレンタインの日は、緊張する。
りょーくんの笑顔が見られるかと、チョコレイトを作るときから、どきどきして、わくわくする。
熱い頬と、ふるえる指と、跳ねる鼓動と、ちいさな包みと、かわいいリボンに彩られる日だ。
それも、最後だ。
引き絞られるように、胸が痛い。
今まで感じていた切なさとか、痛みとかが、お遊戯だったような気さえした。
もう、一緒に登下校できない。
もう、りょーくんの傍に、いられない。
まだあと3年は、一緒だと思っていた。
高校は違ってしまうだろうけれど、中学は並んで、できたら手をつないで、登下校できるのだと信じていた。
いつ涼真が『もうやめる』言いだすかもしれなかったのに、どうして。
ずっと、隣にいられると、信じていたのだろう。
ランドセルのなかで、カタカタ音がする。
遥斗の『りょーくん、だいすき』がつまったチョコレイトが、揺れている。
鳴るたびに、遥斗の心は、ひしがれた。
バレンタインは、一年で、いちばん楽しみな日だった。
とても、とてもめずらしい、涼真の笑顔が見られる日なのに。
涼真が遥斗に、チョコレイトをくれるかもしれないのに。
──……もう、おしまい。
思うだけで、一緒にいられる今まで、絶望に塗りこめられてゆく。
532
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる