16 / 75
つめえり
しおりを挟む桜が咲いた。
遥斗はまたひとつ、おにいさんになった。
今度はほんとうにお兄さん、中学生だ。
ぱりっとのりの効いた詰襟のつややかな学ランに袖を通すと、オトナになった気がする。
「僕、かっこいー?」
わくわく聞いたら、両親は拳をにぎった。
「かわいー!」
ちょっと違う。
ぷっくりする遥斗の頭を、両親がなでなでしてくれる。
「中学入学、おめでとう」
「がんばれ、はると!」
『もう、こどもじゃないよ』言おうとした言葉は、頭をなでてくれる手のあたたかさに、やさしさに、ふたりの笑顔に、しゅわしゅわ消えた。
「いってきます!」
6年もの間、ずっと背負った青いランドセルとお別れするのはさみしいけれど、今日からは鞄まで、大人のかっこいー鞄なのです!
どきどきする胸で、大人な装いになった遥斗は涼真を迎えにゆく。
中学生になっても、涼真は遥斗といっしょに登下校してくれるかもしれない。
学ランの遥斗を見たら、りょーくんが『ハル、かっこいー♡』って、きゅんきゅん♡ してくれるかもしれない。
恋が、はじまるかもしれない!
火照る頬で、駆ける鼓動で、遥斗は涼真の家の前に立つ。
「おはよー、りょーくん。一緒に学校いかない?」
いつもみたいに声をかけたら、扉が開いた。
つややかな闇を映したような真っすぐな髪が春の風に揺れる。
きゅっと立ちあがる詰襟の学ランをまとった涼真は、ほんのこの間の小学生だった涼真と別人になってしまった気がした。
すらりと伸びた手足が、細い腰が、高い背が、学ランでさらに強調されて、ストイックさまで、かもしだされている。
きゅん♡
鼓動が、駆ける。
「……りょーくん、かっこいー……♡」
唇からこぼれた言葉に、あわてて口を塞いだ。
りょーくんに、きゅんきゅん♡ してもらいたかったのに、自分がりょーくんに、きゅんきゅん♡ しちゃった!
火照る頬でうつむく遥斗に瞬いた涼真は、ちょっと首をかしげて、いつものように手を差しだしてくれた。
「ん」
うれしく涼真の手をにぎった後で、遥斗はすこし涼真を見あげる。
幼稚園からずっと、同じくらいの背丈だったのに、最近ちょっと抜かされてきたかもしれない。くやしい。
いや、よけいにきゅんきゅん♡ しちゃうけど。
はー♡ りょーくん、かっこいー♡
うっとりしていた遥斗は、見た目はすごく変わったけれど、いつもと全然変わらない態度の涼真にしょんぼりする。
『ハル、かっこいー♡』は幻想だったみたいだ。
それでも涼真は、遥斗と手をつないでくれる。
『もう中学生になったんだから、やめよう』
言われるより、首をふるふる振られるだろうけれど、涼真に拒絶されなかったことが、とても、とてもうれしかった。
5歳のときはちっちゃかった涼真の手も、ずいぶんおっきくなった。遥斗の手もだ。
そっと、指をからめたくなったときだった。
通りすがりの人の視線が、刺さった気がした。
ビクリと遥斗は肩を揺らす。
ランドセルを背負っていると、子どもとして何もかもが大目に見られていたけれど、詰襟の学ランを着ると、ちゃんと大人として振る舞わなくてはならない気がした。
あまり人のいないところで手を繋いでいるとはいえ、時折、ぽつりぽつりと通る通勤や散歩の人の視線が、小学生のときより気になってしまう。
「……あ、あの、りょーくん、僕と手をつなぐの、いやじゃ、ない……?」
涼真は首をふった。
さらさらの髪が揺れる。
桜の花が、夜空の髪に舞い降りた。
そっと、遥斗は手をのばす。
ちょっと首をかしげた涼真は、のびる手を振り払わなかった。ただ遥斗の指先を見つめていた。
「……とれたよ。さくら」
涼真の髪から、花びらをそっとつまんだ遥斗に、涼真はこくりとうなずいた。
つながる手を、涼真がひいてくれる。
涼真の髪に落ちた桜を、生徒手帳に挟んで、ずっととっておこうと思うくらい、りょーくんが、すき。
とくとく駆ける鼓動で、涼真と並んで歩く。
おなじ中学校の制服が見えると、指はそっと離れた。
涼真のぬくもりが消えた指は、いつも、たまらなく、さみしい。
中学は涼真と一緒に通えることになった遥斗だけれど、高校は難しいだろう。
この間は受験直前だったから、絶対無理だと思った。
もう涼真の隣にいられない絶望の味を覚えてる。
でも今からなら、まだ3年ある。
涼真の頭のレベルについていくなんて、到底無理だと最初からあきらめるより、必死に喰らいついてがんばるほうが、すき。
がんばることは、結果が出なかったとしても、必ず、自分の糧になるから。きっと、自分を輝かせてくれるから。
遥斗は決めた。
「部活はしないで、家で勉強するよ。中学って勉強が難しくなるっていうし、僕、あんまり頭よくないから。りょーくんは?」
聞いた遥斗に、涼真は即答した。
「俺も」
「……あ、あの、りょーくん、小学校も部活しなかったし、すきなこと、してみたら? ほら、天文部とかあるよ。科学部とか。おもしろそう。生物部もある!」
部活動勧誘のチラシを見せる遥斗に、ふるふる涼真は首をふった。
夜空の瞳が、遥斗を見つめる。
「ハルと帰る」
きゅん
胸があまい音をたてる。
どれほどうれしいか、切なくあまくしびれるようなよろこびに満たされるか、りょーくんは知ってくれているのかな。
火照る頬で、遥斗は笑った。
「うれしい」
こくんと涼真はうなずいてくれた。
詰襟になっても、大人っぽくなっても、涼真は変わらないでいてくれる。
ほっとして、でも、どきどきは小学生のときより、大きくなった気がする。
子どもから青年へと変わってゆく涼真を、すぐ隣で見られることが、とびきり、うれしい。
554
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる