【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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つめえり

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 桜が咲いた。

 遥斗はまたひとつ、おにいさんになった。

 今度はほんとうにお兄さん、中学生だ。

 ぱりっとのりの効いた詰襟のつややかな学ランに袖を通すと、オトナになった気がする。

「僕、かっこいー?」

 わくわく聞いたら、両親は拳をにぎった。

「かわいー!」

 ちょっと違う。

 ぷっくりする遥斗の頭を、両親がなでなでしてくれる。

「中学入学、おめでとう」

「がんばれ、はると!」

『もう、こどもじゃないよ』言おうとした言葉は、頭をなでてくれる手のあたたかさに、やさしさに、ふたりの笑顔に、しゅわしゅわ消えた。

「いってきます!」

 6年もの間、ずっと背負った青いランドセルとお別れするのはさみしいけれど、今日からは鞄まで、大人のかっこいー鞄なのです!




 どきどきする胸で、大人な装いになった遥斗は涼真を迎えにゆく。

 中学生になっても、涼真は遥斗といっしょに登下校してくれるかもしれない。

 学ランの遥斗を見たら、りょーくんが『ハル、かっこいー♡』って、きゅんきゅん♡ してくれるかもしれない。


 恋が、はじまるかもしれない!



 火照る頬で、駆ける鼓動で、遥斗は涼真の家の前に立つ。

「おはよー、りょーくん。一緒に学校いかない?」

 いつもみたいに声をかけたら、扉が開いた。

 つややかな闇を映したような真っすぐな髪が春の風に揺れる。

 きゅっと立ちあがる詰襟の学ランをまとった涼真は、ほんのこの間の小学生だった涼真と別人になってしまった気がした。

 すらりと伸びた手足が、細い腰が、高い背が、学ランでさらに強調されて、ストイックさまで、かもしだされている。


 きゅん♡

 鼓動が、駆ける。


「……りょーくん、かっこいー……♡」

 唇からこぼれた言葉に、あわてて口を塞いだ。

 りょーくんに、きゅんきゅん♡ してもらいたかったのに、自分がりょーくんに、きゅんきゅん♡ しちゃった!

 火照る頬でうつむく遥斗に瞬いた涼真は、ちょっと首をかしげて、いつものように手を差しだしてくれた。

「ん」

 うれしく涼真の手をにぎった後で、遥斗はすこし涼真を見あげる。

 幼稚園からずっと、同じくらいの背丈だったのに、最近ちょっと抜かされてきたかもしれない。くやしい。


 いや、よけいにきゅんきゅん♡ しちゃうけど。

 はー♡ りょーくん、かっこいー♡ 

 うっとりしていた遥斗は、見た目はすごく変わったけれど、いつもと全然変わらない態度の涼真にしょんぼりする。

『ハル、かっこいー♡』は幻想だったみたいだ。


 それでも涼真は、遥斗と手をつないでくれる。


『もう中学生になったんだから、やめよう』

 言われるより、首をふるふる振られるだろうけれど、涼真に拒絶されなかったことが、とても、とてもうれしかった。


 5歳のときはちっちゃかった涼真の手も、ずいぶんおっきくなった。遥斗の手もだ。

 そっと、指をからめたくなったときだった。

 通りすがりの人の視線が、刺さった気がした。

 ビクリと遥斗は肩を揺らす。


 ランドセルを背負っていると、子どもとして何もかもが大目に見られていたけれど、詰襟の学ランを着ると、ちゃんと大人として振る舞わなくてはならない気がした。

 あまり人のいないところで手を繋いでいるとはいえ、時折、ぽつりぽつりと通る通勤や散歩の人の視線が、小学生のときより気になってしまう。


「……あ、あの、りょーくん、僕と手をつなぐの、いやじゃ、ない……?」

 涼真は首をふった。

 さらさらの髪が揺れる。

 桜の花が、夜空の髪に舞い降りた。


 そっと、遥斗は手をのばす。

 ちょっと首をかしげた涼真は、のびる手を振り払わなかった。ただ遥斗の指先を見つめていた。


「……とれたよ。さくら」

 涼真の髪から、花びらをそっとつまんだ遥斗に、涼真はこくりとうなずいた。

 つながる手を、涼真がひいてくれる。


 涼真の髪に落ちた桜を、生徒手帳に挟んで、ずっととっておこうと思うくらい、りょーくんが、すき。


 とくとく駆ける鼓動で、涼真と並んで歩く。

 おなじ中学校の制服が見えると、指はそっと離れた。

 涼真のぬくもりが消えた指は、いつも、たまらなく、さみしい。






 中学は涼真と一緒に通えることになった遥斗だけれど、高校は難しいだろう。

 この間は受験直前だったから、絶対無理だと思った。

 もう涼真の隣にいられない絶望の味を覚えてる。


 でも今からなら、まだ3年ある。

 涼真の頭のレベルについていくなんて、到底無理だと最初からあきらめるより、必死に喰らいついてがんばるほうが、すき。

 がんばることは、結果が出なかったとしても、必ず、自分の糧になるから。きっと、自分を輝かせてくれるから。

 遥斗は決めた。


「部活はしないで、家で勉強するよ。中学って勉強が難しくなるっていうし、僕、あんまり頭よくないから。りょーくんは?」

 聞いた遥斗に、涼真は即答した。

「俺も」

「……あ、あの、りょーくん、小学校も部活しなかったし、すきなこと、してみたら? ほら、天文部とかあるよ。科学部とか。おもしろそう。生物部もある!」

 部活動勧誘のチラシを見せる遥斗に、ふるふる涼真は首をふった。
 夜空の瞳が、遥斗を見つめる。


「ハルと帰る」

 きゅん

 胸があまい音をたてる。

 どれほどうれしいか、切なくあまくしびれるようなよろこびに満たされるか、りょーくんは知ってくれているのかな。

 火照る頬で、遥斗は笑った。


「うれしい」

 こくんと涼真はうなずいてくれた。


 詰襟になっても、大人っぽくなっても、涼真は変わらないでいてくれる。

 ほっとして、でも、どきどきは小学生のときより、大きくなった気がする。

 子どもから青年へと変わってゆく涼真を、すぐ隣で見られることが、とびきり、うれしい。








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