【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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かっこいー

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 遥斗は隣の涼真の家まで迎えにゆき、登校し、帰りも涼真のクラスまで迎えにゆき、下校するという『なかよし幼なじみ大作戦』を敢行しつづけた。

 中学生になると、涼真の無口には磨きがかかり……いや幼稚園のころから変わらず無口なまま、背が伸びた。

 同じくらいの背丈だったのに、ひょろりと高くなった。急激に背が伸びすぎて、ほっそりしてしまった涼真を、遥斗はとても心配した。

「りょーくん、やせすぎじゃない?」

「だいじょうぶ? ちゃんと食べてる?」

「成長痛とかあるっていうよね。痛くない?」

 心配する遥斗に、こくこくうなずきながら、涼真はちょっとがんばってご飯をたべ、たんぱく質とカルシウムを摂取したらしい。

 背の高い、凛々しくかっこいい中学生になった。

 そう、涼真は、かっこよかった。

 顔は、かっこいい、うん、遥斗としては、めちゃくちゃかっこいいと思うけど、夜空の髪にも瞳にもうっとり見惚れてしまうけれど、それは遥斗が涼真をだいすきだからだと思っていた。

 アイドルさんやモデルさんみたいに、オーラみたいなのがあって、誰もが『わあ、すごい!』『きゃああ!』という歓声をあげる感じではない……と思う。けれど、卑猥な低俗ネタで、ぎゃーぎゃーさわぐ男子と違って寡黙で背が高い、というだけで、とってもモテた。

 アイドルさんやモデルさんは、手の届かない、あこがれの人、という感じがするけれど、涼真は、隣にいる、手が届きそうな、望みのありそうな、かっこいい人に分類される気がする。

『一条くんなら、つきあってくれるかも!』という希望をいだいてしまうから、告白とかチョコレイトとかが大変なことになってしまうのだと思う。

 小学校のときからモテてた、いや、幼稚園のときからモテてた……!

 声変わりして、低くてかっこいい声になってしまったら、なおさらモテた。


「ハル」

 呼んでくれる声が、低くかすれて、あまい気がして、遥斗はめまいがする。

 遥斗の声変わりは、したんだか、しないんだか、ちょこっと低くなった? かな? みたいな程度だった。

「僕、りょーくんみたいに、かっこいー声にならない」

 しょんぼりしたら、涼真はふるふる首をふった。

「かわいー」

 ちょっと違う。

 で、でも、両親の『かわいー』は、がっかりだけど(ごめん)りょーくんの『かわいー』は、どきどきする!



 クラスがわかれてしまったから、遥斗は授業終了のチャイムが鳴ると、涼真のクラスまで迎えにゆく。
 おんなじ中学1年生なのに、別のクラスはよそよそしくて、遥斗は扉の前で止まった。

 すぐ近くで、女の子たちの声がする。

「一条くんの声、聞いたことある?」

「すっごい低くて、かっこいーの!」

 知ってるよ。
 ぶすくれながら、遥斗は涼真に声をかける。

「りょーくん、帰ろー」

 鞄を持って立ちあがる涼真に並んで歩こうとしたら、女の子たちの声が背を打った。

「佐倉って、わざわざうちのクラスまで来て、毎日、一条くんと帰るよね」

「幼なじみだって」

「うざ」

『うざいって言う人が、うざいんだからぁああ──!』

 叫ぶのは大人げない、いや中学生だから大人げなんて、なくていいと思うけど、でも『わざわざ涼真のクラスまで迎えに行って、毎日一緒に帰る』のは事実だ。反論できない遥斗がぶっすりしている隣で、涼真もぶすくれていた。

 も、もしかして、りょーくんも、うざいと思ってる……!?

 幼なじみだから、隣の家だから、ちょろちょろまとわりつかれるから、迎えに来られるから一緒に登下校する羽目になって、だから彼女もつくりにくくて『特別なかよしな幼なじみ』じゃなくて、『特別うっとうしい幼なじみ』になってる──!?

 衝撃を受けた遥斗は、涼真を見あげた。

 いつもどおり、いや、ぶっすりしてる……!


「……え、ごめん、りょーくん……僕、うざい……?」

 聞くだけで泣きそうになった遥斗に、涼真は首をふった。
 ぶんぶん振った。

 涼真の手が伸びてきて、ぎゅっと手をにぎられた。


 この間まで、おんなじくらいの大きさの手だったのに、すこしの間に涼真の手が、大きくなってる。

 あたたかさは、幼稚園の頃と変わらない。


 すぐに離れてしまったけれど、涼真のぬくもりが、指に残る。

 鼓動が音をたてて、頬が火照る。

 恥ずかしくて、うれしくて、涼真の顔が見られない。



 おなじ中学の制服が見えなくなるとすぐ、涼真から、遥斗から、お互いに同時にのびた手が、つながる。

 めちゃくちゃ恥ずかしくて、めちゃくちゃうれしい。

 顔が熱くて、心まで熱くて、幼稚園の運動会の日を思いだす。

 恋に落ちた日を。


「……幼稚園の運動会、かけっこのとき、戻ってきてくれて、手をつないでくれて、ありがとう、りょーくん」

 涼真の背中に声をかけたら

「ん」

 あのときと違う、声変わりした低い声で、うなずいてくれた。


「また明日」

 笑って、家の前で別れる日々が、あと3年で終わってしまわないように。


 遥斗は、がんばった。
 今までかつてないほど勉強した。


「どうしたの、はる!」

「こんなに勉強するなんて!」

 仰け反る両親に、今日の宿題でわからなかったところを広げる。

「ここ、わかんないよー」

 顔をみあわせた両親は、おごそかに告げた。

「涼真くんに聞きなさい」

 仰け反るだけで、あんまり頼りにならない両親が心配してくれるほど、勉強した。

 毎日毎日、予習復習、定期試験のときも、勿論がんばる。

 かつてない勉強漬けの日々が遥斗にもたらしたのは──……平均点だった。

 遥斗は勉強しても勉強しても、平均点をとるのがせいいっぱいだったのだ。
 涼真は学年末の成績優秀者に選ばれて、壇上にあがり、表彰されていた。

 涼真と一緒の高校に通いたくて必死でがんばった遥斗は、涼真との間にある絶壁を見あげることになった。




 部屋にこもって、ちょっと泣いた。……いや、いっぱい泣いた。

 懸命にがんばった1年が、ぜんぶムダになったみたいで、くやしくて、かなしくて、手の届かない人になってゆく涼真に、心が裂ける。

 どうして両親は、遥斗を頭よく産んでくれなかったのだろう。憤激をぶつけてしまいそうになる。

 両親だって、頭のいい子がうまれたほうがいいに決まっているのに。

 子どもが親を選べないのと同じで、親も子を選べないのに。


「……ごめんなさい」

 泣きはらした顔で謝ったら、両親が飛びあがった。

「どうしたの!」

「何があったんだ!」

 成績表を渡した遥斗は、うなだれる。

「あんなにがんばったのに……平均点だった」

「すごいじゃないか、遥斗!」

 おとうさんに背を叩かれて、びっくりした。

「……え……あんなに勉強したのに、平均点……」

「平均ってことは、半分の人は遥斗よりできなかったってことなのよ? すごいじゃない、遥斗!」

 遥斗を励まそうと、心にもないことを言っている気配は、欠片もなかった。

 まっすぐにがんばりを褒めてくれる。


「……おかあさんと、おとうさんのこどもにうまれて、よかった」

 こぼれた言葉に、両親が泣きだした。


「うまれてきてくれて、ありがとう、はると!」

 あたたかな腕で、抱きしめてくれる。


『男の子の、りょーくんが、だいすき』

 打ち明けたら、このぬくもりも、やさしい言葉も、消えてしまうのだろうか。

 胸の奥が、ぎゅうっとした。
 







「うわ、佐倉、足、速いな!」

 中学2年生の体力テストで走った遥斗に、体育教師が目をまるくする。

「遥斗、小学校で一番だったんだぜ」

「リレーはいっつもアンカーだし」

「陸上部の練習してないのに、陸上部の選手で大会に出てた!」

 なぜか同じ小学校だった子たちに自慢された。ありがとう。

「今からでも遅くない、陸上部に入らないか!?」

 勧誘されました。ふたたび。








────────────────


 ずっと読んでくださって、ありがとうございます!

 さくっと高校生になるはずが、遥斗と涼真が可愛くて(笑)書いていたらもう4万字くらいになってしまいましたが、これから高校生になって、涼真と遥斗がちゃんとかわいい彼氏になってくれるように……!(笑)なるまで、がんばります!

 お気に入り、いいね、エール、ご感想、BETまで! 申しわけない気もちといっしょに、応援してくださるお気もちが、とてもとても、うれしいです。

 ほんとうに、ありがとうございます!

 楽しんでくださったら、とてもうれしいです!





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