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がんばるよ
「勉強するから、むり」
断固NOを言えるようになった遥斗が、陸上部の勧誘をお断りすると、体育教師は泣きそうな顔になった。
ごめんよ。
周りのクラスメイトたちは教師に勧誘される遥斗にも、断る遥斗にも目をまるくした。
「めちゃくちゃ勉強してるよなー、遥斗」
「ちょっと引く」
勝手に引くがいい!
お前たちが引いている間に学力をたくわえ、りょーくんと一緒の高校に合格してみせる!
奇跡は、踏ん張って頑張ってる人にしか、降ってこないんだぞ! たぶん!
ふんと鼻を鳴らす遥斗に、ちょっと涙目だった教師が復活して、にやりと笑った。
「佐倉、陸上をがんばれば、スポーツ推薦っていうのがあるんだぞ! 勉強が多少できなくったって、高校に行けるんだ!」
………………。
……どうして頭わるい前提で話が進むのかな?
おかしくない?
「すげえじゃん、佐倉」
「すぽーつ推薦!」
なぜ周りのほうが盛りあがる?
ほめてくれるのは、うれしいよ。ありがとう。
「陸上、やってみないか、佐倉!」
熱のこもる勧誘に、遥斗はあっさり首をふった。
「行きたい高校に、スポーツ推薦枠、ないので」
りょーくんが行くような、このあたりの偏差値の高い進学校に、スポーツ推薦枠は、ない。
残念だけど。
とっても! 残念だけど!
『かけっこ一等賞なら、りょーくんと一緒の高校に入れてあげます』だったら、めちゃくちゃ陸上がんばるのに!
……りょーくんと手をつないで帰った後でね。そこは譲れないけどね。
「え、うそ、遥斗、そんなに頭いいの?」
「すごい、佐倉、頭よかったんだ!」
『勘違いしてたよ、ごめんな!』みたいなクラスメイトたちに、ふるふる遥斗は首をふった。
「だから勉強してる」
「なるほど」
皆が納得した。
……なぜあっさり納得する?
ひどくない?
「じゃあまあ、陸上部に籍だけおいて、大会のときだけ走ってくれ! 小学校のときもしてたんだろ? 勉強の息抜き、いい気分転換になるぞ」
にこにこする体育教師が、勧誘一色だよ。
「陸上部の人が、いやな気もちになりませんか」
小学校のときは、3人しか部員がいなかったから、ほんとうの助っ人だった。
陸上部の3人は『佐倉のおかげで、リレーに出られる!』『ありがとな、佐倉!』とても喜んでくれたけれど、他のクラブの人とかから、『何あいつ』という目は、いつも刺さった。
陸上に命を懸けるより、りょーくんに命を懸けたい遥斗は、申しわけないが放課後の練習に参加できない。
りょーくんと一緒に帰るしあわせを、1日たりとも削るわけにはいかない──!
拳をにぎった遥斗は正論を告げる。
「一生懸命練習している部員が大会に出るほうがいいと思う」
教師は笑って親指をたてた。
「この間、3年が卒業して、新入生が入ってくれなくて、部員が3人になっちゃったんだ。佐倉が入ってくれたら、リレーに出場できる! 頼むよ、佐倉!」
またか! 少子化、きびしい。
「それに佐倉、走ってるだろ? 身体を見れば、わかる」
しばらく沈黙した遥斗は、こくりとうなずいた。
走ると脳が活性化すると聞いて、学力があがるかもと、土手の桜並木を走るのは続けている。あんまり頭がよくなっていない気がするけれど、走るのを止めると、もっと頭がぽんぽこりんになりそうで、こわい。
「第一中学の陸上部がリレーに出場できるようになるためにも、佐倉の気分転換のためにも、走ってくれ!」
拝まれました。
勉強の時間が割かれてしまうのは残念だけれど、机にかじりついてもだめなときがあることを遥斗は学習していた。
りょーくんのおかげで、走るのはだいすきなままだ。
リレーに出場できるようになったら、陸上部の3人はよろこんでくれるかもしれない。
小学校のときの、皆の笑顔を思いだす。
「すこしだけなら? リレーだけ?」
譲歩した遥斗に、体育教師は、やりきった会心の笑みを浮かべた。
「おお、ありがとう、佐倉!」
流された気がしないでもないけれど、遥斗はいちおう陸上部の部員となり、休日にスタートの練習やバトンを受ける練習をすることになった。
確かに時間は割かれるけれど、その分、がんばって勉強しようとするので、ちょこっと効率があがった気がする……?
小学校のときに教えてくれたおじいちゃんが、部活動指導員としてまた遥斗を教えてくれた。
「おお、おお、はるくんか! また速くなったのう!」
頭をなでてくれたら、恥ずかしいけど、照れくさいけれど、こっそりうれしい。
地元のちっちゃな大会に、遥斗は陸上部員として出場することになった。
両親が応援に来てくれるのは、恥ずかしいけど、ちょっとうれしい。
涼真が応援に来てくれるのは、ちょっと恥ずかしいけど、めちゃくちゃうれしい。
「りょーくん、来てくれたんだ!」
こくんとうなずいた涼真が、遥斗の手をにぎってくれる。
「がんばれ、ハル」
真っすぐな澄んだ声で、耳にやさしい低い声で、涼真が言ってくれたら、遥斗はいつだって、どこまでも走れる気がする。
パァン──!
スタートピストルと同時に、一斉にバトンを持った皆が駆けだした。
ぱぁん! でいっしょに走りたくなってしまう遥斗は、どきどきしながらバトンを待つ。
今日も遥斗は、アンカーだ。
「一番速いから!」
「頼むぞ、佐倉!」
皆の希望をのせて、遥斗は走る。
ちょっと重たいときもあるけれど、プレッシャーに指がふるえたりするけれど、でもとびきり、わくわくする。
「佐倉──!」
陸上部の第3走者が駆けてくる。高鳴る胸を押さえるように遥斗はゆっくり駆けだした。
パシ!
練習のとおり、バトンをつかんだ瞬間、加速する。
「おぉお! 佐倉、はや──!」
「すげえ!」
「いっけ──! 佐倉──!」
陸上部の3人が応援してくれる。
「ハル……! がんばれ……!」
りょーくんの声が、聞こえる気がする。
観客席で応援してくれる涼真が、遥斗の背を押してくれる。
思いきり大地を蹴った遥斗は、ラストスパートをかけた。
ギアをあげるたび、加速するたび、どこまでも速く走れる気がして、びっくりする。
『人間は、自分が思うより、ずっとできる』
おとうさんの言葉を思いだす。
勉強も、こんな風だったらいいのに……!
思いながら前を向く。
結んだはちまきが風に流れて、遥斗はゴールラインを駆け抜けた。
「俺らが6位入賞とか、すげえ!」
「佐倉のおかげだよ、ありがとう!」
陸上部の皆が、泣いてよろこんでくれた。
「ありがとうー! 佐倉ー!」
体育教師が、号泣してた。
うん、よろこんでくれて、うれしいよ。鼻水ふこうね、せんせー。
「がんばったね、はる!」
「よくやった!」
両親がほめてくれるのも、もちろん、うれしいけれど。
「ハル、すごい」
夜空の瞳をほそめて、ほんのり唇の端をあげてくれるりょーくんの言葉が、とびきりうれしい。
「ありがとう、りょーくん。でも今日はメダルなかったよ」
また、りょーくんの首にかけてあげたかったな。
ちょっと残念な遥斗の頭を、のびた涼真の長い指が、そっと、なでてくれた。
「ハルが走るの、いつも、すごい」
まぶしいものを見るように、目をほそめて、ほのかに笑ってくれた。
きゅんきゅん、胸が音をたてる。
とくとく鼓動が駆けて、走ることが、りょーくんが、もっと、だいすきになる。
がんばったら、がんばった分だけ報われるような、かけっこと違い、がんばっても、がんばっても、ふつうにしがみつくだけで精いっぱいのお勉強に、遥斗はしょんぼりだ。
逆だったらよかったのにな。
ちょっと思う。
でも遥斗は、かけっこが得意だったから、運動会で思いきり転んだから、涼真のやさしさに包まれ、恋が降った。
勉強が得意な遥斗は、涼真をライバルとして憎々しく思ったかもしれない。
だから遥斗は、これでいい。
涼真がだいすきな自分が、すきだから。
そう思っても、あがらない成績にはしょんぼりする。
下がらないで、精一杯だよ!
ふにゅにゅにゅにゅ……!
それでも、涙目でしょんぼりしながらも毎日がんばっていれば、尽力がいつか実を結び、激的に成績があがることがあるかもしれない。
上達は、階段みたいにやってくるという。
平坦なところを我慢してこらえて、がんばりつづけると、ある日突然、できるようになるらしい。
びよんと!
……ほんとかな? そうだといいな……!
もし成績が、びよんと跳びあがったら、りょーくんと一緒の高校に通えるかもしれない。
希望を捨てずに、自分にできる限りの全力で遥斗は勉強をがんばった。
がんばれば、がんばるほど、涼真との間にそびえたつ断崖に打ちのめされる。
それでも机にしがみつくように勉強した遥斗は3年になり、おそらく自分の本来の頭の出来でゆけるだろう高校よりも2ランクも上げた高校の受験を勧められるようになった。
「やった!」
よろこべたのは、ちょこっとだった。
遥斗の奮闘の結果、受験することになった高校は、涼真の滑り止めの高校、しかも下のほうの滑り止めにしかならなかったのだ。
しょんぼりだ。
がんばっても、がんばっても、がんばっても、だめなことはあることを、遥斗は学んだ。
ちょっと涙目で、勧められた高校を告げた遥斗に、両親は誇らしそうにうなずいた。
「がんばったね、遥斗!」
「結果ばかりを見ちゃうけど、ほんとうは、がんばることが、すごいことなんだよ」
おとうさんが、笑ってくれる。
「気力と体力がないと、がんばれない。
がんばれるって、奇跡みたいに、すごいことなんだ」
おかあさんが、笑ってくれる。
「がんばったことは、ひと欠片もムダにならないよ」
「ぜんぶ遥斗を輝かせる、ひかりになる」
落ちこむ遥斗の頭をなでてくれた。
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